クルマを一元管理するハート・オブ・ジョイ
BMWは先日、ビジョン・ドライビング・エクスペリエンス(以下:VDE)という名のコンセプトカーを発表した。ボディを路面へ押し付ける電動ファンを実装した、クワッドモーターの高性能バッテリーEVだ。
【画像】電動M3の試験台 ビジョン・ドライビング・エクスペリエンス 現行3シリーズとX3も 全106枚
間もなく発表予定にある電動のBMW M3を含む、次世代ノイエクラッセ・シリーズの技術を洗練させるために作られた。実際、4モーターという構成は、近未来のM3と一致している。
VDEは、走る試験施設として機能。低く屈んだボディではないことも、特筆すべき点だろう。ただし、スペックなどは発表されていない。
この中心的な存在が、駆動用モーターやバッテリーといったドライブトレインと、動的特性を一元管理するコンピューター・システム、「ハート・オブ・ジョイ」。ノイエクラッセ・シリーズとなる、次期iX3と3シリーズから実装が始まる。
BMWの開発責任者を務めるフランク・ウェーバー氏は、「運転の楽しさの次元を引き上げ、更にその先へ推し進めます」。と、ハート・オブ・ジョイへかける期待を表現する。
今回AUTOCARは、VDEへの同乗機会を得られた。運転席へ座るのは、開発ドライバーのイェンス・クリングマン氏。「技術者は、このクルマが何馬力あるのかも教えてくれないんですよ」。と笑う。
「でも、かなりハイパワーです」。タイヤからスキール音が発せられる。激しい加速で、助手席の筆者は内臓の位置がズレそうだ。
4モーターに5基のファン 最大トルクは1831.1kg-m
VDEはかなり大きい。寸法的にも、意味的にも。スタイリングは、ここ数か月に渡って様々な試験施設で評価されているであろう、次世代の3シリーズへ近い。先述の通り、4モーターという構成は次期M3へ通じている。
だがBMWの技術者は、M3のプロトタイプではないと強調する。あくまでもノイエクラッセ・シリーズへ向けて、多くの先進技術を極限的な環境で鍛え上げるための、試験台なのだという。
そのため、最近までは完全な秘密下に置かれていた。こうして筆者を助手席へ座らせたということは、お披露目できるタイミングになったのだろう。スペックまでは、公にできないとしても。
筆者へ伝えられた性能的な情報は、各アクスルへ1基づつ駆動用モーターがレイアウトされ、システム合計の最大トルクが1831.1kg-mに達することだけ。3桁ではなく、4桁だ。最高出力や0-100km/h加速も凄まじいことは、想像に難くない。
そして、インペラーと呼ばれる電動ファンが5基実装されている。ファン1基につき、50kWの電力を必要とするらしいが、得られるダウンフォースは合計で1.0t以上。過去にない、鋭いコーナリングを可能にするという。
この桁外れのトルクとダウンフォースは、ハート・オブ・ジョイが管理する。BMWが、パワートレインと動的特性の制御を統合する試みは、今回が初めて。開発技術者のクリスチャン・タルマイヤー氏によれば、完全な自社開発なのだとか。
2021年のシステムより、最大10倍も高速
「クルマの主要な走行機能のすべてを、ハート・オブ・ジョイは制御します。その開発には、技術力を高める必要があります。シングルモーターのクルマでも、クワッドモーターのクルマの制御技術によるメリットは受けられます」
アクセルペダルを踏み込んだ情報は、従来ではパワートレインの制御系へ送られ、ステアリングホイールやブレーキペダルへの入力は、動的特性の制御系へ送られていた。これを連携させるには情報通信が必要になり、極めて僅かなラグが生じていた。
ハート・オブ・ジョイは、それを1つのユニット下で管理する。BMWによれば、2021年の市販車へ搭載されていたシステムより、最大10倍も高速に処理されるとか。超高性能なVDEへ対応できれば、あらゆるモデルで機能するのだろう。
現在の殆どのバッテリーEVでは、摩擦ブレーキは動的特性を司るユニットが制御している。一方で、回生ブレーキはパワートレイン側で処理されていた。そのため、回生から摩擦への移行時などに、僅かな不自然さが伴うことが少なくなかった。
「回生ブレーキの潜在能力を最大限に引き出す上で、パワートレインの制御システムだけでは不充分です。動的特性側のシステムも一緒に働く必要があります」。タルマイヤーが説明する。
回生ブレーキでスタビリティを高める
「回生ブレーキを利用して、スタビリティを高めたいと考えました。(旋回時の)ヨーレートや、前後左右の加速度など、安定性に関わる情報を素早く取得することで、挙動を変化させることができます。回生量を変えることで、安定性も調整できるんです」
さらにハート・オブ・ジョイは、ブレーキペダルへの入力を処理し、停止へ最も高効率な方法を演算。可能な限り、回生ブレーキだけでの減速を可能としている。その結果、エネルギー効率は最大で25%も改善するそうだ。
加速でも同様。最大で4基の駆動用モーターからの情報を処理し、連続的に制御することで、スタビリティを高めることができる。モーターの数を増やすことで、ノイエクラッセ・シリーズの走りへ大きな違いが生まれると、タルマイヤーは続ける。
「動的特性にも影響は大きいですね。フロントアクスルに1基、リアアクスルに2基のモーターがある場合、リア側の左右の回転を調整することで、ステアリングをアシストできます」
「モーターの回転速度を変化させることで、機敏な身のこなしも可能になります。従来のアクチュエーターや後輪操舵システムでは、新システムほど鋭くは走れません」
助手席での体感はラリークロス・マシン
こんなインタビューを思い返しながら、VDEの助手席で筆者は高速移動している。車内は驚くほど快適。スポーツシートの座り心地は、かなりいい。ダッシュボード上では、初めて見るバージョンのiドライブ・システムが稼働している。
アメリカ東部、サウス・カロライナ州スパータンバーグにあるBMWのテストコースを、VDEは疾走する。ストレートでは、ワープするように速い。内装は、BMWらしい上質な雰囲気にある。
だがハート・オブ・ジョイがどのように機能しているのかまでは、助手席では理解できない。運転するクリングマンも、気温が低くグリップ力が充分ではないと認める。公道用のタイヤを履いていることも、能力を制限していると話す。
それでも、体感としてはラリークロス・マシンのよう。4モーターのM3は、この印象の延長にあるのだろうか。インペラーから、ジェットエンジンのようなサウンドが響く。
ピットへ戻ると、5基のインペラーを観察させていただいた。止まった状態で直近から聞く音量は、ジェット旅客機のエンジン直下と同等かもしれない。とはいえ、これが量産車へそのまま移植されることはないらしい。
「高価すぎるシステムです。これは、VDE専用ですね。ダウンフォースも大きく、トルクが大きいクルマでは、理想的な加速が難しくなります。わたしたちの関心は、ソフトウエアがこの車両の加速をどう処理するかなのです」
「あくまでもテスト用マシン。開発速度を高めるための、要素の1つに過ぎません」
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
BYDがついに「PHEV」の日本導入へ! 日本メーカーには「脅威」日本車ファンには「プラス」となる可能性
EVアンチが、3月発表「トヨタ新型EV」をなぜか批判しない根本理由
休日割引「3連休も廃止」に不満爆発!?「高速料金高すぎ」「国民を苦しめるな」の声も…なぜ休日割引は縮小されるのか かつては「ものすごい割引」の時代も!?
【彼らも胸中は複雑】MT車ってもう時代遅れなんだと思います…最近の若者の“リアル”な運転免許事情
マツダ新“ディーゼル最安モデル”の「CX-60 XD SP」に反響多し! 「コスパ良い」「乗り心地が洗練された」「黒基調でカッコイイ」の声も! 「FR×直6」もあるエントリーモデルに熱視線!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!
みんなのコメント
「今回の車はヴェイロンの1,8倍か、すごいな」と思っていたら18倍だった(笑)。
いくらバッテリーが重くとも、これだけのトルクがあると取り扱いに苦労するか、相当車側がコントロールするんだろう。まぁベタ踏みしたら、体の方が問題起きそう…。