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【サーキット試乗】アルピーヌ新型A110 S ピュアと比較 エンジンスペック/車重を検証

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【サーキット試乗】アルピーヌ新型A110 S ピュアと比較 エンジンスペック/車重を検証

どんなクルマ? 諸元の違いは?

text:Shigeo Kawashima(川島茂夫)

【画像】新型アルピーヌA110 S【筑波サーキット走行】 全70枚

photo:Masanobu Ikenohira(池之平昌信)

舞台はタイトな山岳ワインディング路、軽やかに裾を翻して踊り抜ける。昔も今もA110のイメージは「舞姫」だ。

と、40年の時を経てA110が復活した時に思った。それは外観デザインとかライトウェイトスポーツらしさとか、そういった雰囲気や定義もあるが、直感的あるいはもっと深い部分での共鳴、要するに問答無用の「好き!」なのである。

そのA110に新しい仲間が加わった、A110 Sだ。

従来のバリエーションはピュアとリネージの2モデル。装備違いで、パワートレインとサスチューニングも含むシャシー設定は共通。キャビン後方に鎮座する1.8Lターボのパワースペックは、252ps/32.6kg-m。車重はピュアが1110kg、リネージが1130kg。

対して「S」は、最大トルクは標準系と同じだが、最高出力が16%アップの292ps。車重は同等の利便装備を備えるピュアと共通の1110kg。カーボンルーフ採用ならカタログ重量にも現れる軽量化が望まれるが、4kg/psを切ったパワーウェイトレシオに不満などあろうはずもない。

なお、「S」でも車体色グリトネールマットは10kg増重しているが、これはホイール総重量がフックス製鍛造ホイールより5kg増加しているため。カタログ値が10kg増になるのは表記規定による。

最大トルク 実質6420rpmまで

最高出力の違いは高回転域のトルクダウンの差。最大トルク発生回転数はともに2000rpm。回転上昇による僅かなトルク低下があるためで、“実質的”には標準系でも2000~5000rpmで最大トルクに相応のトルクを発生する。

これが「S」では2000~6420rpmとなり、回転上昇によるトルク低下も減少する。

7000rpmのレブリミット直前まで最大トルクで加速できるのだ。「回して稼ぐ」は時代に逆行するような気もするが、熱い走りを期待させる特性である。

全開加速性能向上を求めたパワートレインには、限界コーナリングを前提にしたシャシーを組み合わせるのが常套。その通りにサスペンションには「S」専用チューニングが施され、地上高も4mmローダウン化される。

ブレーキはキャリパー色が異なるものの標準系と共通。もっとも、フロントにアルミモノブロック対向4ピストンを配したブレンボ製ブレーキなら十二分である。

そして試乗の舞台は筑波サーキットだ。

どんな感じ?

エンジン性能曲線図を見ると、6400rpmを超えたくらいで急激にトルクが低下するが、失速感はほとんどない。

とは言えレブリミットにおけるトルクはおよそ28kg-m。体感的には7000rpmまで一気に到達する。頭打ち感でアップシフト・タイミングを図るのは実質不可能であり、マニュアル変速による全開加速ではタコメーターによるレブリミットの確認は必須だ。

7速DCTの減速比は標準系と共通。レブリミットも同じなので各速の守備レンジも共通している。

しかし、5000rpm以上の加速の伸びは明らかな違いがある。

標準系(252ps)は穏やかに加速を鈍らせていく。タコメーターを確認するまでもなく、そろそろかなと思わせる予兆感にも似た感覚だ。レブリミット直前では間延びした感じがあり、6000rpmを超えた辺りでアップシフトさせてもロスった印象はない。シフトタイミングは6000-7000rpmの間に随意に、なのだ。

6000rpmでアップシフトしては「S」のパワーアップ効果は半減してしまう。そこが一番美味しいのである。

レブリミットまで使い切るのが「S」の速さ。そこが昂揚感にも繋がるのだが、それはストレスにも繋がる。

ハンドリングは?

時間を重ねて乗り慣れてしまえば無問題だろうが、初見で、サーキット2周で色々と試してみる、となると特性を押さえた精度の高いドライビングはけっこう疲れてしまう。まぁ、歳のせいというのもあるのだが……。

精度の高い操作の要求はハンドリングも同様である。

A110の操縦性は決して神経質ではなく、べたグリップからリアを流し気味にトラクションで押し込むような走りまで、安定したコントロール感覚を示す。

スリップアングルの加減等々の変化に対しても自転(ヨー)軸が安定しているので、程々状態から限界まで同じような感覚で操れてしまう。これは標準系も「S」も共通している。

しかし、OSUS特性では「S」は若干アンダーステア傾向。

正しくはトラクションを優先した設定。パワーが無駄にスリップアングル増に流れないように前後輪の接地バランスやデフの差動制限(ブレーキ制御LSD/トルクベクタリング)も制御されている。

つまり、クルマの持つポテンシャルを最高効率で引き出せるようにしたのである。

ちなみに標準系同様にステアリングに配されたスポーツボタンにより、自動変速およびESP(LSD制御)をノーマル/スポーツ/トラックの3モードから選択できるが、ノーマルモード以外の制御特性は「S」専用だ。

サスの違い サーキットで実感

標準系よりも硬められたサスも、精度の高いドライビングが前提である。

中立からのロールの入りは意外と穏やかだが、すぐに抑え込まれる。神経質さも揺れ返しなどの不要な挙動もない引き締まったストローク制御だ。

過不足なく正確に反応。スポーツ感覚を高めるための演出もないので純粋にコントロールに没頭できる。

ただ、負荷を入れるのも抜くのも、すべてペダルとステアリング操作次第。

標準系なら切り換えし時の動きは多少粗い操作でもサスのほうで程よく繋げてくれるが、「S」はその過渡域の動きもドライバーがコントロール。粗く扱えばそのように反応する。

反応の分解能が標準系よりも一桁以上高まったと言い換えてもいいだろう。故にポテンシャルを引き出すには論理的に正しく精度の高いドライビングが求められる。

もちろん、それらはサーキットでの限界走行時の話で、一般的な走行レベルでは乗り心地が多少硬めになったくらいの違い。限界走行時の硬さがそのまま乗り心地悪化に繋がらないのは、中立からの動き出しが穏やかなサスチューンの賜である。

「買い」か?

+40psで専用サスチューンのローダウンサス。カーボンルーフや専用の内装トリムなどもあって、一目で「S」と分かる内外装。

利便装備が同等となるピュアとの価格差は73万円(車体色:白/青の場合)。性能視点で特別なスポーツカー求めるドライバーならA110 Sは買い得かもしれない。

ただ、ごくごく個人的な評価、というより嗜好的にはピュア(リネージ)のほうが好感触。「舞姫」のイメージなのだ。

「S」はA110の持ち味を毀損させずに限界走行での高効率化とポテンシャルアップを図ったが、その分だけ「アスリート」っぽくなっている。

たぶん、A110を好きなドライバーほどピュアと「S」の走りの違いは悩ましい問題である。スペックでは図れない部分に差があり、しかもその差は「好み」の領域なので尚更だ。

「S」か ピュアか

別視点として、サーキット走行まで含めて見れば、ショートサーキットならピュア、高速サーキットなら「S」。

その中間の筑波は悩ましい。

ピュアはドライビングミスに鷹揚だが、「S」は厳しい。

精度の高い操作を維持し続けられれば「S」が意のまま。集中力よりリズム感で運転するならピュア。これらの違いも、エンジン性能に準えればレブリミット手前1000rpmのトルク特性みたいなもので、どちらもしっかりとA110らしさが土台にある。

最終的な結論は「お好きなほうをどうぞ」なのだが、決して軽い問題ではないのはこれまで述べた事で多少は理解してもらえると思う。

そして、どう評価すべきかはとても悩ましいのだが、A110ファンにとってはそれも魅力の深化となるはずだ。

アルピーヌA110 S スペック

価格:899万円
全長:4205mm
全幅:1800mm
全高:1250mm
最高速度:260km/h(参考値)
0-100km/h加速:4.4秒(参考値)
燃費:12.8km/L(WLTCモード 仏UTAC測定値)
CO2排出量:-
車両重量:1110kg
パワートレイン:直列4気筒1798ccターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:292ps/6420rpm
最大トルク:32.6kg-m/2000rpm(参考値)
ギアボックス:7速DCT
乗車定員:2名

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