EV時代に残る反骨の走り
かつてスポーツカーは、走ることそのものが目的だった。五感を総動員して操る、純粋な機械。それがスポーツカーだった。エンジン音に耳を澄まし、シフトレバーの重みを確かめ、ステアリング越しに路面の変化を感じ取る。そこには単なる移動ではない、「操る喜び」があった。
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だが今、電動化と運転支援技術の進化によって、クルマは静かに、滑らかに、そして正確に動くようになった。操作の主導権は徐々にドライバーからクルマへと移り、「走る楽しさ」は後景に退きつつある。
それでも、
・マツダ・ロードスター
・トヨタGR86
・日産フェアレディZ
のような一部のモデルは、五感を通じた走行体験を今なお提供している。電気自動車(EV)化が進み、音や匂い、手応えといった要素が失われていくなかで、こうしたクルマが持つ魂の存在感は、むしろ際立ってきた。
今こそ問いたい。スポーツカーとは何か。その本質が、改めて見直されるべき時代に入っている。
感性を奪う加速制御技術
EVの静粛性や鋭い加速は、一般的な乗用車においては快適性と安心感をもたらす。長距離でも疲労が少なく、都市部では騒音の低減にも寄与する。そうした特性は歓迎されるべき進化といえる。
しかし、スポーツカーという文脈では事情が異なる。無音で滑らかに進む走行感覚は、しばしば無機質と受け取られ、高揚感や没入感を損ねる要因となる。
発進と同時に最大トルクを発揮する加速性能は、電動パワートレイン特有の魅力である。走り出した瞬間から速度は力強く伸びる。だがその加速には、ドライバーの意志が入り込む余地が少ない。すべての反応が先回りされているような印象を与える。
そこには、走りを通じた感性との接点が見いだしにくい。エンジンの鼓動もなく、回転数と連動した高揚感もない。なぜそれが問題なのか。かつてスポーツカーの運転には、
「意思と反応が一致する瞬間」
があった。わずかなラグ、微細な振動、意図せぬノイズ。そうしたズレは、操作と挙動のあいだに生まれる誤差だった。その誤差を感じ取り、修正し、時にねじ伏せる。その過程こそが、スポーツカーを操ることの本質だった。
EVは、そうしたズレを排除する。トルクの立ち上がりはシステムが完璧に制御し、路面からの情報も静けさのなかに消える。ドライバーが感覚を研ぎ澄ます余地はない。クルマの反応が先に来てしまう。あまりに滑らかな走行体験は、やがて機械と向き合う時間から「移動に従うだけの時間」へと変わっていく。
スポーツカーとは、単なる高速移動の道具ではない。ドライバーの意志と車体の挙動が同期し、反発し、やがて溶け合う。そのプロセスこそが、走る喜びの核心だった。
だが今、EVが追求するのは、ノイズの排除による快適性である。そこには、身体を通じた自己表現の余白が残されていない。
DTMとEVに共通する欠落
すべてが整いすぎている。手応えがない。EVの操作感は、ドライバーが介在する余地を失わせる。その感覚は、音楽の変化にも重なる。
デスクトップ・ミュージック(DTM)の普及により、誰でも完成された音楽を簡単に作れるようになった。音程は外れず、リズムも正確。キャッチーなフレーズも並ぶ。演奏技術がなくても、高品質な音楽は制作可能だ。
しかし、そこに身体を通した表現があるとは限らない。指の震えや一音の抑揚、空気を変えるような「間」。そうした揺らぎは、プリセット化された演奏からは生まれない。ジミー・ペイジやジェフ・ベックが生み出したノイズや余白には、演者の感情が滲んでいた。魂が宿る演奏とは、均整を欠いた瞬間にこそ現れる。
ギターのチョーキングの角度。強弱の微妙な揺れ。ピックが弦を擦る摩擦音。それらはすべて、演奏者の身体から生まれる。演奏とは、音に触れる行為であり、感情の投影でもある。
この違和感は、クルマの進化にも通じる。EVの加速は速く、制御も滑らかで正確だ。だが、その精度の高さは、走りに昂揚感を与えない。ペダルの微妙な踏み加減。ギアを抜いたときのわずかな振動。エンジン音に込めた意図。そうした要素が、かつての「走り」には存在した。
ギターもクルマも、最初は思い通りに扱えない。だが、何度も繰り返すうちに身体が覚え、道具が応える。その瞬間に訪れる「わかり合えた」という感覚。そこに最大の快感があった。スポーツカーには、まさにその習得の喜びがあった。
・扱いづらいマニュアル車
・ピーキーなパワー特性
・路面状況に左右される足まわり
・ヒール&トゥで回転を合わせる瞬間
・リアを滑らせるコーナリングの緊張と開放
・雨の日の路面と対話するようなブレーキング
それらは、単なる移動ではなく、まるで演奏のようだった。
操作の自由度があるからこそ、人は創意工夫し、身体で覚え、自分だけの走りを手に入れる。それは所有ではなく、習得だった。自己表現でもあった。走りも音楽も、ただ正確なだけでは心を打たない。表現の喪失は、快楽の喪失と紙一重である。
EV時代に問う魂の所在
スポーツカーは、数値やスペックを競うだけの存在ではない。0~100km/h加速や最高出力といった指標も重要だが、それだけでは測れない価値がある。操る喜び、感性との対話、身体で感じる一体感。そこには、速さや出力を超えたところにしかない快感がある。言葉ではいい尽くせない領域だ。
スペックの優劣では語れない手触りや共鳴感がある。それを求める者にとって、量産性や効率性とはまったく異なる軸で価値が生まれている。
EVや自動運転が一般化するなかで、操る喜びを残すクルマを作り続けることは、単なる商品開発ではない。メーカーが「自分たちは何者か」「何を信じているのか」を世に問い直す行為である。むしろ文化的で哲学的な態度に近い。
2021年、日本経済新聞が「スカイライン、開発に幕」と報じたとき、日産は即座に反応した。国内部門執行役副社長(当時)の星野朝子氏は、新型ノート オーラの発表会でこう語った。
「そのような意思決定をした事実は一切ございません。日産自動車は決してスカイラインをあきらめません」
スカイラインは、日産の走りの矜持」を体現するモデルであると同時に、スポーツセダンという文化の継承者でもある。セダン市場が縮小し、販売台数が減少しても、その名前を残すことには意味がある。
一方、「スカイラインをあきらめない」という言葉をどう解釈するかをめぐり、議論も巻き起こった。スポーツモデルであってもEV化は避けられない。セダンが売れない時代にあって、かつてのスカイラインの姿を保てるのかという懸念は根強い。
今、音も匂いも、操作感も消えつつあるクルマに魂は宿るのか。その問いへの答えは、まだ定まっていない。
非効率が支えるブランド中核
だが、非効率を承知で走りにこだわるモデルが存在する。名前を継ぐことに意味を見出すブランドもある。そうした事実がある限り、クルマは単なる移動手段にはならない。
魂を込めるに値するクルマは、時に売れないという現実と引き換えにされる。それでも、なお作られるべき存在である。スポーツカーは、
「効率や収益性の外側」
にある。ブランドの心臓部であり、企業の意思を表現する最後の舞台でもある。合理化では決して置き換えられないものの象徴なのだ。
これからは、魂を守るだけでなく、再設計する時代が始まる。音も匂いも振動もなくなりつつある今、クルマの本質は変化している。だがそのなかで、操るという営みを通じた自己表現、走りのなかに宿る感性を、いかに未来へ繋げるかが問われている。
スポーツカーは、単なる移動手段ではない。運転という行為そのものが、自己を表現する営みであった。その価値を、いま改めて見つめ直す必要がある。
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みんなのコメント
自動運転普及したら、やる事は目的地入力のみかね。
電車に関しては、代車でリーフ乗ったとき、トルクはあるものの、音がしない&普段と着座高が違いすぎて速度感が合わなくて難儀しました。
普段何速で○○回転くらいだから○○km/hくらいかな~という感覚で走ってるので、音って大きな情報だと再認識しました。