灼熱の大分・オートポリスで開催されたスーパー耐久シリーズ第4選
梅雨明けと同時に各地で猛暑日を迎えるなど真夏を迎えた日本列島。屋外で行われるスポーツにとって過酷な季節だが、ことモータースポーツにとっては厳しいコンディションだと言えるだろう。気温上昇とともにエンジンパワーも低減するほか、路面温度の上昇に合わせてタイヤの消耗も進むことから、まさに真夏のレースはマシンにとっては過酷な状況となるが、ヘルメットに加えて、レーシングスーツ、グローブ、シューズを着用しているドライバーはどのように暑さ対策を行っているのだろうか。
熱中症を避けるドライバーの暑さ対策とは? 真夏でもサーキット走行を楽しむための知恵を紹介します
エアコンレスのマシンではクールスーツが必需品
というわけで、2023年7月29日~30日、スーパー耐久シリーズ第4戦が開催されたオートポリスにて、各チーム&各ドライバーの暑さ対策をクローズアップしてみよう。
大分県日田市のオートポリスは標高の高い山岳エリアにあるレーシングコースだが、レースウィークは連日にわたって体温を上回る暑さとなっていた。当然、全身に着用物を身につけた状態で、窓が閉め切られたマシンのなか、長時間のドライビングを行うドライバーにとっては過酷なコンディション。そのため、各ドライバーおよび各チームは独自の暑さ対策を行なっている。
なかでも、最もポピュラーなアイテムが「クールスーツ」にほかならない。クールスーツとはレーシングスーツの下に着用する冷却用のウェアで、生地内にパイプを通し、そのパイプに冷却水を循環させることでドライバーの体温をコントロール。冷却水は室内に設置されたクーラーボックスに搭載されており、主に氷や冷却剤で冷やされた水が収納されている。
近年のレーシングカーはエアコンが装着されたマシンも増えてきたが、いまだ多くの競技車両が軽量化を追求すべく、エアコンレスの状態。そのため、エアコンの装着されていないマシンでは、このクールスーツが必需品で、じつにその効果は高いようだ。
クールスーツの効果を冨林勇佑選手に聞いてみた
普段はTRACYSPORTS with DELTAの41号車「エアバスターWINMAX GR86 EXEDY」(トヨタGR86)でST-4クラスに参戦するほか、今回のオートポリスでは同じくTRACYSPORTS with DELTAより39号車「エアバスターWINMAX RC350 TWS」(レクサスRC350)でST-3クラスに参戦した冨林勇佑選手は「ST-4クラスのGR86もST-3クラスのRC350もエアコンがないのでクールスーツを使用しています」としたうえで、クールスーツの効果について次のように語る。
「ボックスのなかの水は氷で冷やされているので最初のうちは寒いぐらい冷えます。徐々に水がぬるくなってくることと身体が慣れてくることもあって、あまり冷たいとは感じなくなるんですけど、それでもクールスーツがあると上半身は快適です」
「ヘルメットにダクトが付けられるマシンの場合は風があたるので頭も快適なんですけど、GR86もRC350もダクトがないので暑さはありますね。そういった意味では、エアコン付きのクルマのほうが快適だと思います」
ちなみに暑さ対策のトレーニングについても聞いてみた。
「サウナに行ったり、岩盤浴に行ったりしていますが、今は5月ぐらいから暑いので、7月や8月のレースよりも、5月の富士のスーパーGTあたりがいちばんきついですね。その後は、レースはもちろん、実生活などで身体が暑さに慣れてくるので、対応できています」
さらに夏場の食事面については、
「胃が疲れてきて消化能力が落ちてくるので、脂っこい食事は避けて消化の良い物を食べるようにしています」
と説明してくれた。
藤浪清斗選手のGT-R GT3はエアコン付きでかなり快適
一方、エアコン付きのレーシングカーについてはどうだろうか?
ひと口にエアコンと言っても市販モデルのように、吹き出し口から室内全体を冷却するタイプもあれば、ノズルを設けて上半身へ冷気を当てたり、ヘルメットのダクトにつなげて頭部を冷やしたりとスポット的なタイプまで、レーシングカーのエアコンはさまざま。冷却効果に関しても、タイプに応じて異なっているようだ。
まず、GTNET MotorSportsの81号車「DAISHIN GT-R GT3」でST-Xクラスに挑む藤浪清斗選手に解説してもらった。
「GT3車両ですがGT-Rにはエアコンが付いているので、クールスーツは使用していません。シートから冷気が出ているほか、ヘルメットにもダクトを付けて冷やせるので、かなり涼しいです。ピットのなかにいるより、クルマに乗っていたほうが涼しいぐらい。過去にいろんなクルマに乗ってきましたが、そのなかでもGT-Rはかなり快適でドライバーの負担は少ないと思います」
藤浪選手も暑さを克服すべくトレーニングを行っているようで、
「普段から40℃の室内環境をもつ特別な施設でトレーニングを行っています」
と語るように、日頃から暑さ対策は万全だ。
GT3マシンでもあえてエアコンを付けないという選択肢も
ちなみに同じGT3でもレクサスRC F GT3はエアコンレスのマシンになっているようで、ST-Xクラスに31号車「DENSO LEXUS RC F GT3」を投入するaprのチーム監督、金曽裕人氏はこう語ってくれた。
「エアコンを付けると重くなるし、重量バランスにも影響してくるから、RC F GT3にはエアコンが付いていません。スーパーGTでGT300クラスに投入してきた自社開発のマザーシャシーはエアコン付き、エアコン無しを設定できるけれど、エアコンを省いて、ドライバーがクールスーツを活用したほうが、マシンが軽くできるし、コストも安く抑えられる」
GT4マシンではエアコンの効き具合はピンキリ
一方、同じエアコンでも市販車と同じ吹き出し口から冷気を出すマシンも少なくはない。市販モデルに近いGT4のなかでもアウディR8LMSは冷却効果の高いマシンになっているようで、Audi Team Hitotsuyamaの21号車「ベンチャー投資のファンディーノAudi R8 LMS」でST-Zクラスに挑む川端伸太朗選手はこう語る。
「いろんなレーシングマシンに乗ってきましたが、R8のGT4はかなり冷える感じがします。パワーが欲しいときはエアコンを切るんですけど、室内を冷やしてくれるので暑くないです」
これに対して同じエアコン付きのGT4で、吹き出し口から冷却するタイプでも、ポルシェ ケイマンGT4RSはやや冷却効果が低いようで、Birth Racing Projectの19号車「BRP★SUNRISE-Blvd718GT4RS」でST-Zクラスに参戦する谷川龍也選手は言う。
「冷たい風は出ているんですけど、内張がないので市販モデルのように室内全体が冷え込むことはない。クールスーツが欲しい状態です」
さらにGRスープラGT4も同様の状態で、埼玉トヨペットGreen Braveの52号車「埼玉トヨペットGB GR Supra GT4」でST-Zクラスに参戦する吉田広樹選手はこうコメント。
「吹き出し口から風が当たりますが、室内は冷えないのでクールスーツも使用しています」
このように夏場の暑さ対策もマシンやチーム、ドライバーによってスタイルは異なっているようで、さまざまなトライが行われているのである。
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