デザインやアートをキュレーションするKIGENZENの大長将之と相澤真諭子の自宅兼アトリエには、名品と呼ばれる家具がそれぞれ空間と響き合うように置かれている。デザイナーズ家具から、骨董、現代アートまで。独自の審美眼に根ざした、その暮らしの風景からはインテリアの新たなスタンダードが感じられる。
昭和初期に建てられた旧家の一部を移築して、およそ30年前にできたモダンな一軒家。そこにデザインやアートを幅広くキュレーションするKIGENZENの大長将之と相澤真諭子の夫婦が自宅兼アトリエを移したのは、今年の春のことだ。旧家で使われていた寄木の床や和室の欄間などの建具が細部を彩り、リビングの大きな窓からは庭のグリーンが近くに見える。玄関は広く、ホールの天井は美術館のように高い。
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「大胆なスケール感と、日本住宅らしい親密さ。そのバランスが暮らしにメリハリをもたらしてくれると思いました」と大長。また、この家が、総面積が広いという第一条件を完璧に満たしていたことも決め手になった、とも話す。その理由は明確で、これまでふたりが共に過ごしてきた家具が大量にあったから。実際に、この一軒家の随所にある定番や名作といわれる家具が、空間とうまく調和して置かれている。相澤も大長の言葉にこう続ける。「以前のアトリエは、コンクリート床の現代的空間で、そこに家具が置いてある風景も好きでしたが、この家に家具を入れたら、材質の良さが響き合っているように見えたのも新しい発見でした。どこか家具が生き生きとして見えて、あるべき場所に収まった感じがします」
家具やプロダクトの黄金期に触れるふたりが手掛けるKIGENZENは、古今東西、国や年代を超えた多様なものを収集・編集し、キュレーションや執筆、空間設計などのかたちで、現代にその価値を再提示するプロジェクトを展開してきた。大長は、プロダクトデザイナーとしても活躍。相澤は、デンマークのインテリアブランド、フリッツ・ハンセンの日本法人の代表を務めた後、独立。国内外の企業のブランディングやPRも手掛ける。どちらもインテリアやプロダクトに、独自の鋭い審美眼を持っている。
案内されたリビングには、ピエロ・リッソーニのソファとポール・ケアホルムの折りたたみスツールPK91、ソファに向かい合うようにケアホルムのイージーチェアPK22が2脚並んでいた。障子を閉めると庭の緑がドラマティックに影を映す大きな窓の側には、ケアホルムのデイベッドPK80とデンマークの巨匠ハンス・J・ウェグナーのフラッグハリヤードチェア。ニルス・コフォードによるバタフライテーブルには、マルセル・ブロイヤーのチェスカチェアが添えられている。ホールや玄関脇のレセプションルーム、また自宅スペースの和室にも、いうまでもなく、選りすぐりの家具が配置されている。骨董やアノニマスの日用品、ヴィンテージも多い。
「仕事でも長く、家具やプロダクトに関わっていると、デザイナーがどう思ってそれを作ったのか、なぜこの素材が使われているのかなどにも目が向いていきます。そうすると、かつてデザイナーが生きていた時代に、デザイナーが選んだ素材で、当時の職人と作ったものに触れたくなる。いわば、その黄金期のもの。それを求めていくと、ヴィンテージに行きつくんです。素材的にもテクニック的にも、現在では作ることができないものも多いので。例えば、ニルスのテーブルに使われているブラジリアンローズウッドは、商業目的での取引が原則禁止されていますし、板を薄く貼り合わせたり、削ったりと、そのものを作るのに必要なテクニックを持った職人が、今はもういなかったりもします」(相澤)
「そういった時代性や必然性、それが生まれたストーリーをしっかり宿しているものには、特別に惹かれるものがあります。例えば、ウェグナーのフラッグハリヤードチェアは、彼が夏に浜辺でデッキチェアに座りながら描いたスケッチがベースになっていますが、僕が面白いと思うのは、当時の新しい技術だったスチールフレームに、デンマークに昔からある船に帆を張る時のロープを組み合わせて、未来に対して新しいものを作ろうとしたこと。そういったストーリーや背景を自分の中に落とし込んで納得できていると、そのものが自分にとってエターナルなものになっていくような気もします」(大長)
スペースに本が大量に並ぶのも、ふたりのデザインへの向き合い方の表れだろう。家具やプロダクトを購入するとき、デザイナーに関連する書籍も一緒に買うようにしていると話す。「他の人はどういう観点でそのものに価値を見出したり、そのデザイナーをいいと判断しているのか。それを知ることで、自分の判断軸が相対化され、補強されていくと思うんです。まあ、個人的にそういう作業が好きなのもありますが」と大長は笑いながら答えてくれた。
こうした空間に、現代の作家やデザイナーの作品が交じ入るのも、このふたりらしさだ。「これ、面白いんですよ」と、関連書籍とともに見せてくれたのは、アルド・バッカーの水差し。オランダの「ドローグデザイン」と呼ばれるデザイン運動を牽引したハイス・バッカーを父にもつアルドは、“注ぐ”をコンセプトに多彩な形の水差しをデザインしている。「“注ぐ”という1つの概念だけで、様々な造形を展開しているんです。これは、未来の名品になるかもしれない。そういった視点も大切にしています」
さて、これからインテリアを充実させたい人は、どうやって第一歩を踏み出すのがいいだろう。
大長はこう答えてくれた。「これは、椅子研究家として知られる織田憲嗣先生の言葉ですが、“ダイニングチェアをひとつ置くことから始めてみるといい”。チェアは自分が腰掛け、生活の中で長い時間を共にするもの。そうしたものをまずは1つ選んで暮らしの中に入れると、無意識にも、“これは自分がこういう理由で選んだものなんだ”という感覚が刷り込まれていくと思います。それが選択眼を育むのにもいいのだろうと。暮らしの中で、学ぶ。それは何より織田先生が実践してきたことだったと思います」
織田邸と暮らしの哲学を継承この10月、ふたりは北海道・東川町にある織田憲嗣の自邸を受け継いだ。織田邸には織田が長年買い集めてきた名作家具や民具が、生活空間の中で使われながら、丁寧に置かれている。
「織田先生が集めてきたものは、もの単体で見てももちろん面白いのですが、それ以上に魅力的に感じられるのは、やはり暮らしと結びついているからだと思います。織田先生から、この家を買いませんかと言われたとき、家そのものと同時に、そこで実践されてきた織田先生の暮らしの哲学も継承し、後世に残していきたいと考えました」と大長は言う。余談だが、織田邸を引き継ぎたいと手を挙げた人物は他にもいた。その中で、織田がKIGENZENを選んだのは、ふたりが織田の哲学を継承しようと考えていたこと、また若く、子どもがいたこともポイントだったようだ。相澤はこう話す。
「私たちから、またその子どもたちへ、次の世代に継承されていくことも想定して織田先生は決めてくださったのではないかと思います。また、織田邸のある地域では冬は雪かき、広大な自然に囲まれた場所なので、定期的に草刈りや庭のメンテナンスが必要。それもあって、若く体力がある私たちに託してくれたのかもしれません。実際に何度も訪れてお手伝いをしているのですが、本当に大変(笑)。ただ、そうした自然の中に織田先生の家やコレクションが溶け込んでいるのに、心地よさを感じましたし、その魅力的な環境も引き継いでいきたい」
なお、織田がコレクションしてきた家具や民具の多くは、2017年に東川町に寄贈され、町の施設や旭川市内のデザインセンターで公開されてきた。コレクションをパブリックにすること、そしてミュージアム化することは、織田の長年の夢でもあった。実際に、その念願が叶い、数年後には、織田コレクションを中心にした新たなデザインミュージアムが東川町に建設されることも決まっている。それもあって、ふたりは、この織田邸を、東川町やそのデザインミュージアムと連携し、まさに織田の暮らしの哲学を後世に伝える場にしていこうと考えている。
「例えば、ヘルシンキにあるデザイナーのアルヴァ・アアルトの自宅は、今、アアルトの暮らしを伝えるリビングデザインミュージアムとなり一般公開されています。私たちも現地を訪れたことがありますが、その残し方、活用の仕方が素敵だなと感じました。近くには国立のデザインミュージアムもあり、そこを訪れた多くの人は一緒にアアルト邸もまわります。この織田邸もそういった場にしていければ」
ふたりの自宅兼アトリエに加え、東川町の織田邸も、真価を貫きながらも新たなインテリアの美を見出す場所になるだろう。
KIGENZEN大長はプロダクトデザイナー、ブランディングエージェンシーBIGLONG代表。相澤はデンマーク発のブランド、テクラとノルディックスリープの日本代表も務める。23年よりKIGENZENの名で活動をスタート。監修した書籍に『ポール・ケアホルム 共鳴する日本の美意識』。
写真・加藤純平 文・松本雅延 編集・橋田真木(GQ)
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