12月12日から13日にかけて、約18時間のなかで、F1チームの40パーセントのチームプリンシパルの変更が発表された。ウイリアムズ、ザウバー/アルファロメオ、フェラーリ、マクラーレンが立て続けに代表の人事について公表したのだ。これほど短時間に多数のチームのトップの移籍が発表されたのは、前例のないことだ。
フェラーリはフレデリック・バスール、マクラーレンはアンドレア・ステラをそれぞれチーム代表に任命、ザウバーはCEOとしてアンドレアス・ザイドルを起用、ウイリアムズは代表を務めたヨースト・カピートの離脱を発表した。これら4チームには、体制変更によりしばらくは日々のチーム運営にネガティブな影響が出ると考えられ、そういう面では残りの6チームの方が2023年への準備を有利に進めることができるだろう。しかし、長期的に見るとトップ交代を行った4チームにはポジティブな効果が表れてくることが期待される。
アルファロメオF1のバスール代表、2023年1月よりフェラーリのチーム代表兼ゼネラルマネージャーに就任
■フェラーリ:チーム代表としての手腕を発揮してきたバスールに期待される、新しい視点での改革
バスールがフェラーリのチーム代表に任命されることは、かなり以前に決まっていた。本格的な交渉が始まったのは、9月のイタリアGPの前だ。この時点で、フェラーリ会長ジョン・エルカーンとCEOベネデット・ビーニャは代表マッティア・ビノットのリーダーシップ能力への信頼を失っていた。アルファロメオF1チームの代表を務めていたバスールを強く推薦したのは、バスールとは昔から親しい間柄にあるステランティスのCEOカルロス・タバレスだった。タバレスは、エルカーンが重大な決断を下す際に頼りにする数少ない人間のひとりだ。
外部からやってくるバスールは、ビノットには実現できなかったことのいくつかをフェラーリにもたらすことができるかもしれない。まず、28年間同じ会社にいる人間には見えないものを新鮮な視点で見ることができる。バスールは、ルノーには短期間しか所属しなかったが、その間に状況を改善し、その後、加入したザウバーでは、より大きな好転を成し遂げた。豊富な経験を持つ彼は、チームの欠陥がどこにあるかを理解し、それを解決する方法をすぐに見つけ出すだろう。
過去に所属した2チームよりも、フェラーリでの方が仕事はやりやすいはずだ。人的リソースが圧倒的に強力であることに加え、ハースに貸し出している80人から呼び戻すこともできる。そのひとりは、シモーネ・レスタで、彼はビノットと不仲だったこともあり、2度にわたってハースへと出向したが、ついにスクーデリアに戻って、新テクニカルディレクターに就任するのではないかといわれている。
■ザウバー:アウディの意向を反映し、ザイドルを起用か
バスールが抜けた後にザウバーが選んだのが、マクラーレンのザイドルだったというのは興味深い。この選択には、2026年にザウバーと提携してF1に参戦するアウディの意向が強く働いていたのではないかとも推測される。ザイドルはポルシェのWEC活動においてチームプリンシパルを務めていたことがあり、この時期にポルシェは世界タイトル獲得を3回、ル・マン24時間優勝を3回達成した。ポルシェと同じフォルクスワーゲン・グループのアウディは、ザイドルについてよく知っているはずだ。
ザイドルはバスールと似て、レーサーであると同時に、非常に社交的で、一緒に働く人々と過ごす時間を楽しむようなリーダーだ。ドイツ出身であることから、言語的に、ザウバーのメカニックやジュニアエンジニアたちとの意思疎通もスムーズにいくだろう。ザウバーがアウディのファクトリーチームへと移行する際に、ザイドルは両者の統合に大きな役割を果たせるものと思われる。
■マクラーレン:控えめだが資質があるステラを昇格。“ピラニアクラブ”で生き残れるか
マクラーレンが新チーム代表にステラを任命したのは、少し意外な選択だった。イタリア出身のエンジニアであるステラは、長年チームを陰で支える役割を担い、注目を浴びるのが好きなタイプではない。だがこれからは、チームのパートナー、メディア、スポンサー、ファンとのつきあいをうまくこなさなければならない。ステラはフェラーリやマクラーレンで、ジャン・トッド、ステファノ・ドメニカリ、ロン・デニス、アンドレアス・ザイドルの下で働いてきた。彼らから多くのことを学んできたステラは、彼自身、優れたリーダーであることを証明してきた。イタリア人でありながら、純粋にイギリス的環境のマクラーレンで成功したことが、彼の資質を示している。
もしかすると今後は、今までザイドルが担っていた、表に立つような仕事の一部を、CEOのザク・ブラウンが引き受けることになるかもしれない。ブラウンはメディアやスポンサーと付き合う仕事が非常に向いている人間だ。そうしてステラはチームを自分が好きなように運営することができる環境に置かれれば、この体制変更はスムーズにいくだろう。
マクラーレンの2022年型シャシーの出来は期待を下回っており、今後、技術面を向上させていく必要がある。ステラは、チームを正しい方向に戻すため、技術担当エグゼクティブディレクターであるジェームズ・キーを助けるのにふさわしい人物であると思われる。チーム代表たちの“ピラニアクラブ”で彼が生き残ることができるのかどうかは、時がたてば分かるだろう。
■ウイリアムズ:スタッフ流出が続く懸念すべき状況。早急な体制確定が必要
最後にウイリアムズに目を向けよう。いまやウイリアムズには、チーム代表とテクニカルディレクターが不在で、若手のスタッフがマクラーレン、アルピーヌ、アストンマーティンへとどんどん移籍していっている。2022年にウイリアムズは期待外れのシーズンを過ごした。チームを救い出すため、新しい投資家が登場し、資金、アイデア、リーダーシップをもたらす可能性が非常に高いが、伝統のウイリアムズが2023年に中団争いに加われるようになるためには、すぐさま行動を起こす必要がある。
18時間の短い間にこれほど多くのチームのトップが移動したのは、70年以上のF1の歴史のなかで、これが初めてだ。この日に起きたことが2023年にどういう変化をもたらすか、注目していこう。
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