270ドル値上げの波紋
複数のメディアによると、トヨタ自動車は2025年7月1日から米国内で車両販売価格を引き上げる見込みである。値上げ幅の平均は、トヨタ車が270ドル(約3万9000円)、レクサスブランドは208ドル(約3万円)に達する。
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これに先立ち、6月16日には納車費用も改定し、トヨタ車で平均71ドル(約1万円)、レクサスで平均108ドル(約1万5000円)の値上げを実施している。
トヨタはこれらの値上げについて、トランプ政権による自動車追加関税の影響ではないと明言した。しかし、米国市場では5月以降、多くの自動車メーカーが相次いで価格を引き上げている。
本稿では、トヨタの米国市場における値上げを定例的な価格改定と市場変化の兆候というふたつの側面から分析し、その背景を詳しく掘り下げる。
定例改定に隠れた潮流
トランプ政権による自動車追加関税の発動を目前に控えた2025年3月末、トヨタは米国での車両価格引き上げを当面見送り、現状維持の方針を示していた。ロイター通信はトヨタ広報の発言として、
「関税を含めた米国当局の動向を注視しつつ、引き続き固定費の低減等に取り組みながら、当面は現在のオペレーションを維持していく」
と報じている。また、2025年5月8日のトヨタ自動車2025年3月期決算発表では、米国政府の自動車関税の影響について記者から質問が寄せられた。これに対し、佐藤恒治社長は
「ジタバタしない」
と明言している(トヨタイムズ2025年5月13日付け)。今回の値上げについて、トヨタ広報はブルームバーグの取材に応じ、
「値上げは通常の価格改定の一環。車両価格は商品性に加え、市場や競合他社の動向を踏まえて決定している」
と説明した。納車費用の改定とも連動しているが、あくまで定例的な価格改定だと強調している。
自動車の価格改定は通常、装備変更をともなうことが多い。原材料価格の上昇を理由にした値上げはあまり例がないが、1台あたり数万円程度が相場だ。今回の値上げの実質負担は300ドル(約4万3000円)を超え、消費者にとって許容範囲内と考えられる。
日本勢相次ぐ価格改定の波
自動車追加関税が発動された2025年4月3日以降、フォードは早期に値上げを実施した。5月2日には、メキシコで生産する電気自動車(EV)「マスタング・マッハE」など3車種の価格を最大約2000ドル(約28万9000円)引き上げた。
ブルームバーグは、この値上げが例年の年央価格調整に加え、関税の一部影響を受けたものの、関税コスト全てを顧客に転嫁しているわけではないと報じている。
6月には、日本メーカーも相次いで値上げに踏み切った。スバルは750ドルから2055ドル(約10万8000円から29万6000円)までの値上げを6月入荷分から適用した。三菱自動車も平均2.1%の値上げを実施したが、追加関税によるものではなく、インフレ対応を含む通常の価格調整の一環と説明している。
トヨタが過去に実施した値上げでは、2018年から2022年までの5年間で約20%の値上げがあった。値上げ率は年ごとに異なり、2021年は約10%だった。2023年には約1%の値下げを行い、2024年に約1%の値上げで値を戻した。今回の値上げも約1%であり、例年と大差はなく、影響は軽微と考えられる。
今後の焦点は、トヨタが追加関税(25%)の影響をどこまで価格に織り込むかにある。
関税と為替が押し上げる車価
米国のコンサルティング会社アリックスパートナーズは、世界の自動車市場に関する年次見通しで、自動車メーカーが関税コストの約80%を価格に転嫁すると予測している。その結果、自動車価格は1台あたり
「約1760ドル(約25万3000円)」
上昇すると試算している。トヨタの値上げ幅はまだ全体の2割程度にとどまっており、今後さらなる値上げが予想される。
今回の値上げの背景には、関税コストの存在が明確である。加えて、日本から輸出される自動車に対する円安・ドル高の為替影響も大きい。さらに、北米での生産に必要な部品や原材料の価格高騰も続いている。パンデミック収束後も物流費の上昇が続き、コネクテッド化や安全装備の強化により装備品の価格も実質的に上昇している。
このように、値上げは単なる価格転嫁だけでなく、装備の変更も含まれている。内訳はメーカーから公表されていないが、複数の要素が絡み合っていることを理解しておく必要がある。
平均665万円の車両価格
レクサスの値上げ幅は平均208ドル(約3万円)で、トヨタの62ドル(約9000円)を下回っている。高級ブランドであるレクサスの値上げが抑制された背景には、高価格帯の価格弾力性の限界があることが示唆される。
米国市場では車両価格の高騰が続いている。2025年5月時点の車両平均価格は4万6193ドル(約665万円)で、前年同月比で3.1%増加した。自動車メーカー各社は価格抑制を模索しており、レクサスも原材料高騰の価格転嫁に慎重な姿勢を見せている。
一方で、新車購入時に消費者へ還付されるインセンティブは減少傾向にあり、
「実質的な値上げ」
につながっている。米調査会社コックス・オートモーティブによると、一時は自動車の平均取引価格の10%に達していたインセンティブは、2025年5月には6.8%まで下落した。フォルクスワーゲン、ランドローバー、ボルボ、BMWなどの欧州メーカーはインセンティブ支出を10%以上削減しているなど、状況は変化している。
レクサスによるさらなる値上げは販売に直接的な影響を及ぼすため、実施時期には慎重にならざるを得ない。
すでにトヨタは全米ディーラーに今回の値上げを通達しているが、現時点での反応は報じられていない。6月末までは駆け込み需要による販売急増が見込まれ、トヨタおよびレクサスのディーラーにとって一時的な繁忙期となる見通しだ。
今回の値上げが比較的少額であることから、購入を早めるべきかは消費者にとって判断の分かれ目となるだろう。ただし、リース契約を希望する消費者にとっては月額で1か月分のリース料金に相当する値上げであり、購買を促進させる可能性がある。
北米生産網の再構築課題
米国政府は2024年以降、中国からの輸入製品に対する関税を再強化する方針を明確に示している。特にEV用バッテリーが主要な対象となっている。
この措置は表向きにはエネルギー安全保障や国内産業保護を目的としているが、その影響は日本メーカーのサプライチェーン全体に及んでいる。EV化が進むなか、バッテリー調達が中国に偏る現状では、関税引き上げは実質的に原価上昇と同義であり、最終製品価格への影響は避けられない。
トランプ政権以降、米国は貿易赤字縮小を主要課題とし、通商政策を通じて圧力を強めてきた。こうした方針はカナダやメキシコなど周辺国との経済関係にも及び、北米地域での生産ネットワーク再構築を企業に迫っている。トヨタも例外ではなく、米国、メキシコ、カナダにまたがる生産体制を拡充し、米国内には部品工場を含め九つの工場を展開している。2024年の車両生産台数は110万台を超えるが、この規模でも追加関税を完全に回避できていない。
生産移管は理論上の選択肢として常に検討されているが、短期的には
・供給網の最適化
・品質管理
・工場稼働率維持
など複数の制約がある。関税によるコスト増を完全に吸収することは現実的でなく、最終的には販売価格への反映が避けられない局面も想定される。
一方で、こうした価格変動は自動車市場全体に複合的な影響を及ぼす。新車価格の上昇は中古車価格やリース契約条件の変動を招き、購入層の動向にも影響する。特に米国市場ではインセンティブ削減も進み、実質的な負担増が購入判断に影響を及ぼしている。
トヨタは長年にわたり「長期保有に耐える高品質」を掲げ、価格以上の価値を提供してきた。だが、買い替え周期が延びるなかで製品ラインの更新と需要の持続的喚起は容易ではない。さらに、EVへの移行期には、従来のエンジン車やハイブリッド車との価格差設計が企業戦略上の重要課題となる。
今回の価格改定が関税コスト吸収の一過性対応か、市場構造の長期変化の兆しかは現時点で断定できない。ただし、重要なのはこうした変化が企業の単独判断ではなく、国際通商環境や需給動向と密接に連動している点である。短期的な反応にとどまらず、冷静に全体像を捉える視点が今後一層求められるだろう。
数万円値上げの背景分析
トヨタの値上げ幅は数万円程度であり、現時点での影響は軽微と考えられる。しかし、これは追加関税を見据えた通過点なのか、それとも抜本的な構造変化の兆候なのかを見極める必要がある。
値上げを単なる悪と決めつけるのではなく、その背景にある企業戦略を多角的に検証することで、真の意図を読み解けるだろう。
ここまで価格変動を分析してきたが、トランプ政権の関税政策下では、こうした多角的な視点が一層求められていくに違いない。(成家千春(自動車経済ライター))
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