垂直に立ち上がったフロントフェイス、ガラスエリアを縁取る骨太なピラー、ボディ下部のプロテクター、そして力強くスタイリッシュなプレスラインなど、全体としてタフな印象のある外観。
昨年、ステランティスジャパンから登場したプジョーのマルチパーパスヴィークル(MPV)「リフター(RIFTER)」。広く使いやすいラゲージと、フランス車らしい乗り心地の5人乗りMPVとして人気を得ていた。そして今回、中入りしたのは3列シート7人乗り仕様の「リフター・ロング(RIFTER LONG)」だ。基本的なデザインは変わらず、全長が355mm延長、ホイールベースも190mm拡大されたことで、果たしてどんな世界が新たに広がったのだろうか?
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フランス車は実用性の高さで見極める
「ミシュランガイド」と言えば、いまやレストランやホテルの格付けガイドとして誰もが認める地位を確立し、中には「美食家のバイブル」などと評価する人までいるほどの存在。ここで星をひとつでも頂戴することに、血道を上げる人も多い。しかし、本来は歴史あるフランスのタイヤメーカー「ミシュラン」が、ドライブを少しでも快適に楽しんで貰おうという目的の下に発行したガイドブックに由来。その意味からすれば現在のビブグルマンこそが、ミシュランガイドの本筋ではないかと思う。
現在のように星の数ばかりが注目される前のことだ。ヨーロッパをドライブ旅するときには、ミシュランガイドと、そしてやはりミシュランの「ロードマップ」さえあれば、フランスばかりかヨーロッパの道なら、我々のようなアジアからの来訪者も大きなストレスを感じることなく走れる、頼もしい存在だった。80年代のフランス取材などでは必ず現地で購入し、ドアポケットかグローブボックスに備えていた。現在のようにナビゲーションや地図アプリが普及する以前は、この「ミシュラン」のガイドブックと、道路番号やストリート名、番地や施設名など、必要最小限の情報がしっかりと書かれていたロードマップがあれば、快適な旅や仕事をこなすことが出来たのだ。本当にシンプルで分かりやすく、そして十分に実用的な物を作らせると、フランスは独特の上手さを見せるなぁ、と感心するばかりだった。
そしてもうひとつ、忘れてはいけないのが使いやすいレンタカーだった。経費のことを考えればFF(前輪駆動)のコンパクトハッチがリーズナブルでいい。だが、多くの取材機材や3名ほどのスタッフが長距離移動するとなれば、ゆったり乗れて荷物もたっぷりと積み込めるクルマが欲しくなる。あるときシャルル・ド・ゴール空港でレンタカーを予約する際に、快適に移動できる足として、マルチパーパスヴィークル(MPV)を借りたいと考え、ヨーロッパ初のMPVとして1984年に発売され、大ヒット作となったルノーのエスパースを借りようとした。ところが、この便利で快適なクルマのレンタカー代は、メルセデスの190シリーズよりも高く、予算オーバーだったと記憶している。
渋々予算内に収まる190のディーゼルモデルを借り出した。もちろん190Dもトランクは広く、走りも良く、スタッフ3人の移動は快適ではあったが、使い勝手や実用性においてMPVに適うはずもなく、少々悔しい思いをしたものである。ここフランスというか欧州では、便利で実利的なものが「正義だ」と改めて痛感した瞬間でもあった。
本当に8人分のシートが必要かどうかをよくよく考える
現在も、こうした正義を形にし「本当に使いやすいクルマ」を考えさせると、何とも上手い答えを提示してくれるのがフランス車。それも実用性の高さと乗用車的な乗り心地の味つけの良さは「クルマ界のミシュランガイド」と言ってもいいほど。シンプルで価格も安いことから敷居が低く、誰もが手軽に使えることから言えば「ビブグルマンとロードマップの合わせ技」のような存在であり、便利さを満喫できるのが、ライト・コマーシャル・ヴィークル(LCV)というセグメントだ。コマーシャル(商用車)としてのポジションにあり、作りや仕上げも乗用車ほどの質感レベルまでは求めていない。シンプルなインテリアや外装、その内側には排気量の小さなエンジンを携え、軽量でありながら十分な広さのボディをガンガン引っ張りながら走るという、極めてフランス車的な魅力も強く、生活への密着感もかなり高いのだ。
そんなLCVの代表的な1台といえばルノーのヒット作、カングー。それに強力なライバルとして対峙しているのがプジョー・リフターと、その兄弟車となるシトロエン・ベルランゴだ。実際にはこの兄弟車はカングーよりも少しだけ大きいのだが、実用面や乗り心地における味つけ、さらには使用状況をからみれば、ライバルとしてがっぷりと組み合っているのだ。
ところがこの日本ではこれまでカングーが圧倒的な強さを見せて一人勝ち状態。そんな状況を変えようとして先頭を走るのがリフターであり、さらにその魅力を加速させようとしているのが3列シート7人乗り仕様のロングバージョンだ。ちなみにリフターの兄弟車、シトロエン・ベルランゴのロングバージョンはひと足早く上陸を果たしている。
さて標準ボディをベースに、全長とホイールベースを延ばし455万円の価格となったロングを試してみると、荷室は拡がり、人も乗れて実用面での有意は説明する必要もないだろう。だが反面で、ボディが伸びたことでリフターGTより50kgほど重くなっているし、ホイールベースが20cm延びて、小回りも効かなくなっていることは現実としてある。まずはその懸念をチェックしたのだが、結論からいえば、それほど心配する必要はなかった。むしろ乗り心地はよりしっとりとした感触で、1.5Lのディーゼルターボエンジンも車重の増加分をしっかりと吸収して、どんなシーンでも物足りなさや力不足など感じさせない。その走りは、標準ボディとはひと味違う魅力があり、悪くないのである。
一方で、8人乗りという機能をつねに必要とするなら問題ないが、これを“いざというときの備え”として考えるなら、やはり30万9千円安い424.1万円の標準ボディのリフターGTで十分ではないだろうかと思う。標準ボディのレスポンスのいい軽快な走りや小回りの良さを選択するほうが、普段使いにはフィットするだろうと考えながら、ドライブを続けた。結局は最後まで実用性以外に標準かロングのどちらがいいか結論は出せなかった。
さらに困るのは、追いかけるようにして登場してきたルノーの新型カングーの存在。ライバルは乗用車としての快適性をさらに向上させてきたと、正面から宣言して挑んできているのだから、迷いは深まるばかり。装備で比較する手もあるが、これはカタログとにらめっこになるだろう。フランス生まれのMPVに、これほど悩まされるとは……。家族が多く、友達も多い、そしてスキーやサーフボードといった長物をたくさん積む。そしてクルマはやはり、ちょっぴりしゃれたスタイルのブランドに乗りたい。リフター・ロングを選択する理由は色々とありそうだが、ライバルの存在も含めてなかなかに悩ましい選択になるはず。最後には、誰か格付けの星でも付けてくれないかと、自らの仕事を放棄するようなことを考えてしまったのである。
エクステリア・デザインは標準ボディとほぼ同じ。全幅は1850mm、全高は1900mmで、ホイールベースは190mm拡大された2975mmとなって3列シートの7人乗りを実現。
2列シートの「リフターGT」と基本的に変わらないインテリアは質感も高く、商用の雰囲気名はほとんど感じられない。
径の小さなステアリングホイールの上から、メーターパネルが見える。視線移動が少ないプジョー独自の「i-Cockpit」を採用。
アイシン製の8速ATはダイヤル式のセレクターで操作する。シフトパネルの左上には路面状況に合わせて5つの走行モードが選べる「アドバンスドグリップコントロール」のダイヤルも設置。
フロントガラスの上部に設けられた棚は容量もあり、重宝する装備のひとつ。
2列目シートの乗員のために用意された格納式のテーブル。
かっちりとした作りで体のホールド性も高い2列目シート。ロングドライブでも疲労感は少ない。
2列目シートは折りたたむと床に格納できる上、床もほとんどフラットになる。
3列目にも乗車した場合、荷室の奥行きは40センチほど確保できる。ドライブのお土産ぐらいは積み込める。
3列目シートを前方に持ち上げるとかなり広めの荷室スペースが確保できる。
3列目シートは取り外し可能。取り払うとスクエアで広々としたスペースが出現する。
(価格)
4,550,000円~(プジョー・リフターロングGT/税込み)
(スペック)
全長×全幅×全高=4,760×1,850×1,900mm
ホイールベース:2,975mm
車重:1,700kg
最小回転半径:5.8m
最低地上高:180mm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:FF
エンジン:直列4気筒ディーゼルターボ 1,498cc
最高出力:96kW(130PS)/3,750rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1,750rpm
燃費:18.1km/ℓ(WLTPモード)
問い合わせ先: プジョーコール 0120-840-240
TEXT:佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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