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なぜ物流業界は“声を上げるドライバー”を排除するのか? 地裁も認定「配車差別」の闇──物流危機の陰で進行する人手不足の“自作自演”

掲載 更新 54
なぜ物流業界は“声を上げるドライバー”を排除するのか? 地裁も認定「配車差別」の闇──物流危機の陰で進行する人手不足の“自作自演”

見えない懲罰

 物流業界で「配車差別」が深刻な労働問題として浮上している。

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 配車差別とは、トラックドライバーへの業務割り当てを意図的・恣意的に操作する行為を指す。会社への不満の表明や労働組合への加入を契機に、ドライバーに対して収入が下がる短距離・低単価の仕事ばかりを配車し、間接的な懲罰を加える仕組みである。

 福岡地裁は2025年3月、こうした配車差別を不当労働行為と認定した。労働者の訴えを正面から認めた司法判断である。

 それでも、再発は後を絶たない。ドライバー不足が深刻化するなかで、声を上げた労働者を排除する構造が温存されている。
制度の隙間に入り込む「見えない懲罰」が、2024年問題の陰で労働環境をさらに悪化させている。

制度の穴と裁量の悪用

 運送業界における配車は業務の割り当てだけではなく、実態は収入の振り分けであり、ドライバーの生活水準を左右する決定行為だ。

 トラックドライバーの給与は、固定給ではなく変動制が一般的だ。運行距離や拘束時間に応じて報酬が決まる。1日500km以上の長距離便は1回あたりの単価が高く、繁忙期の休日運行にはさらに上乗せがつく。逆に、近距離や日勤の仕事ばかりが続けば、月収は下がり、生活は成り立たなくなる。

 この重要な配車の決定権は、現場の

・配車係
・管理職

に一任されている。制度としての透明なルールや外部の監査機構はほとんど存在しない。その結果、現場の裁量で懲罰的な配車が行われる余地が残されている。実際に、労働組合への加入や待遇改善の要求をきっかけに、長距離便の配車が急減したという証言が各地で報告されている。

「会社に従わない者 = 稼げない者」

という構図が、制度の隙間で温存されている。経営側は

「業務需要やドライバーの適性を踏まえた判断だ」

と説明するだろう。だが、それが事実であれば、なぜ組合加入の直後に極端な配車変更が起こるのか。配車という裁量権の濫用が、制度の背後に隠されている。この構造に対し、法制度や行政は今も十分に対処できていない。

「違法」と認定された実例

 実際、配車差別はすでに複数の裁判所や労働委員会によって不当労働行為と認定されている。

 例えば福岡県の運送会社の事例では、2021年末に運転手らが労働組合を結成し、待遇改善を求めた。すると翌月から、組合員3人の長距離配送が極端に減り、収入が急減した。月収は最大で13万円減り、生活が圧迫される事態となった。これに対し、福岡地裁は不当労働行為を認定。会社側に未払い賃金などの支払いを命じた。

 配車差別を不当労働行為とした事例は、他にも多数存在する。大阪の観光バス会社や関東の中小運送企業、日雇い形態の業者まで、

・労組結成
・団体交渉の申し入れ

を契機に配車数が激減し、実質的な経済制裁が課される構図が繰り返されている。

 厚生労働省の「労働委員会関係 命令・裁判例データベース」で配車差別を検索すると、多くの事件例が公開されている。命令文では一貫してこう述べられている。

「企業による配車の裁量権そのものは否定しない。しかし、それが組合員への報復として機能した時点で不当労働行為に該当する」

その結果、単なる謝罪にとどまらず、配車復帰や未払い賃金の補填を命じられる例もある。なかには再発防止を誓約した会社名入り文書を組合に手交させる命令も出ている。

 実のところ、配車差別を訴えた案件の多くで、会社側に非を認める判断が下されているのが実態だ。

「グレーゾーン運用」と構造的誘惑

 労働審判や裁判に発展した場合、会社側が敗訴する可能性は極めて高い。それでもなお、配車差別は繰り返されている。

 背景には、業界特有の賃金構造がある。多くのトラックドライバーは、運行距離や拘束時間に応じて賃金が決まる。固定給よりも変動給の比重が大きい。

 運輸労連の「賃金・労働条件報告書」(2022年度版)によれば、男子事務職と男子大型運転職の賃金構造には明確な差がある。

●男子事務職
・所定外労働時間:23.7時間
・所定外賃金:5万4704円
・総支給額:39万4526円
・所定内賃金(固定給):33万3794円
・所定内賃金比率(所定内賃金/総額):約84.6%
・1時間あたり総賃金:2089円

●男子大型運転職
・所定外労働時間:36.7時間
・所定外賃金:8万1701円
・総支給額:39万4400円
・所定内賃金(固定給):29万4723円
・所定内賃金比率(所定内賃金/総額):約74.7%
・1時間あたり総賃金:1951円

 このデータから見えてくるのは、総支給額は同水準であっても、大型運転職の固定給は明らかに低く、変動給でようやく追いついているという構造だ。そのため、会社が配車を絞れば即座に収入が減る。労働者は会社に逆らいづらい。つまり、業界そのものが、

「労働者が声を上げることを許さない設計」

になっている。実際、現場で声を上げる人はごく少数にとどまる。そのため企業側は、配車で締め付けても問題ないと考える構造が温存されていると考えられる。

 その背景には、行政による抑止力の弱さもある。配車差別や不当労働行為の摘発・是正は厚生労働省の所管だが、一方で物流の効率化や時間外労働の上限規制は国土交通省が主管している。それぞれの役割は以下のとおりだ。

●厚労省
・所管事項:不当労働行為
・政策文書での配車言及:あり
・実効性:事後対応のみ

●国交省
・所管事項:労働時間規制
・政策文書での配車言及:なし
・実効性:限定的

要するに、会社側に有利な給与体系が問題の根底にある。しかし、国の政策はいずれもその構造に踏み込もうとしていない。

 とくに国交省の「物流効率化ガイドライン」などの資料では、輸送効率化について詳細に議論されているが、労働環境への視点は欠けている。この結果として、制度改革が逆説的に

「従順な者だけを生かす」

裁量人事を加速させている。こうした断絶は、政策の狭間で進行する見えない労働リスクにほかならない。

不足なのに「辞めさせる」矛盾

 職場環境や待遇の改善を求めたドライバーが、配車を減らされ、実質的に現場から締め出される。こうした構造が温存されてきた結果、人手不足を招いている側面は否定できない。人が足りないといいながら、声を上げる人間は排除される。そんな業界に魅力を感じる人は少ない。

 仮に締め付けが厳しくても、賃金水準が高ければ状況は違っただろう。しかし、現実にはそうなっていない。その結果、業界を離れる人が後を絶たない。残されたドライバーには、過剰なシフトや長時間の拘束が重くのしかかる。

 ドライバー不足が深刻化する一方で、人を減らす管理の仕組みが同時に作用している限り、問題は解決しない。

 配車差別は、特定の企業に限った話ではない。背景には、業界全体が

「走って稼げ」
「長時間働いて一人前」

といった旧来型の価値観から脱却できていない実情がある。加えて、行政もこれを是正しようとしていない。

 働き方改革では労働時間の短縮が求められた。しかし、賃金体系は変動給の比率が高く、依然として

「走らなければ生活できない」

構造が続く。この状況下で、配車差別が管理手法として黙認されている。声を上げた者は干されるというメッセージが、業界全体に暗黙のうちに浸透している。

 その結果、若年層の就業忌避や人材の流出に拍車がかかっている。日本の物流インフラは、今や危機的な状況に直面している。業界の労務管理に残る前近代的な体質を解消しない限り、人手不足の抜本的な解決はあり得ない。

労務管理の前近代性

 自由配車や現場の裁量といった言葉は、これまで運送現場の柔軟性や即応性を象徴する仕組みとして肯定的に語られてきた。だが実態は、給与や生活をコントロールする手段としても機能している。

 本来は業務効率の向上を目的とした仕組みが、従業員の生活を脅かす道具になっている。これは本末転倒だ。意見をいえば走らせない――そんな前近代的な労務管理が横行する職場に、人が集まるはずがない。

 最低限の権利保障がなければ、物流問題の解決はあり得ない。(業平橋渉(フリーライター))

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みんなのコメント

54件
  • hid********
    そこそこ名のある運送会社に勤めていましたけど、少しでも意見すると、高速道路メインで行けてた納品先が殆ど一般道で行かされたりした経験ありますね。ドライバーなんて駒にすぎないんですよね~。
  • nak********
    そりゃあ、ドライバーは使い捨ての駒程度にしか思われてないから。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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