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鋭いハンドリングと加速性能で「和製アルファロメオ」とまで賞賛された”もうひとつの『GT』”

掲載 更新 18
鋭いハンドリングと加速性能で「和製アルファロメオ」とまで賞賛された”もうひとつの『GT』”



明治の近代化を牽引した石川島造船所をルーツに持ち、帝国海軍や陸軍の要請に応える形で技術を磨き上げた「いすゞ自動車」。その歩みは、常に国家の命運と最先端のテクノロジーと共にあったのだ。戦後、商用車で確固たる地位を築いたいすゞは、満を持して乗用車市場へと進出する。しかし、初の自社開発車「ベレル」では、凝った意匠に生産技術が追いつかず、品質問題に直面するという手痛い洗礼を浴びることに。その失敗を糧に、生産性とデザインを高次元で両立させ、市場を熱狂させたのが名車「ベレット」だったのだ。

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●文:横田 晃(月刊自家用車編集部)

―― ボディサイドのキャラクターラインを低い位置に走らせて、下半身の安定感を表現したスポーティなデザイン。

―― 十分なウインドウ面積を取りつつ、ピラーを傾斜させてスピード感を出している。

造船から自動車へ。「ディーゼルエンジン」のいすゞへと進化した訳

明治以降の日本の近代化を牽引したのは、政府が後押しする国策企業。その仕事の中心は、富国強兵の旗印の下で、軍が資金を出すプロジェクトだった。いすゞ自動車の前身も、帝国海軍の軍艦を数多く建造した東京石川島造船所。さらに辿れば、ペリーの黒船来航に対抗するために、徳川幕府が設立した造船所まで遡ることができる名門だ。

1900年代初頭には、米英に次ぐ世界第3位の造船王国となった高度な設計、製造技術を活かして、1916年に始めたのが自動車の開発だ。英国のウーズレーと提携して、1922年には第一号車が完成している。もっとも、船の建造と同様に、ほとんど手作りとあってはビジネスにはならず、1926年までに100台余りが売れたに過ぎない。それでも、1929年には自動車部門が独立して、石川島自動車製造所が設立される。それを後押ししたのは陸軍だった。

当時、すでにフォードとGMが日本に組立工場を設立し、自動車販売を拡大していた。海軍が後ろ楯となった造船業と同様に、陸軍には、米国車に技術と市場を席巻されていては、有事の際に軍用車を賄えないという危機感もあったのだろう。そうして、欧米列強に追いつけ追い越せと技術を磨き、1932年に、鉄道省などと共同開発した商工省標準形式自動車と呼ばれるバスとトラックの車名として初めて使われたのが、いすゞの名だ。1933年には欧米でもまだ発展途上だったディーゼルエンジンの研究を始め、1936年にそれを完成させている。

2ドア1600GT(1964)

―― ベレGは、1963年の第10回全日本自動車ショーで、2ドアクーペ「ベレット1500GT」(プロトタイプ)として初公開される。1600GTのデビューは1964年4月。同年9月には1500GT(77PS)も追加設定されたが、これは1年ほどでカタログ落ちしてしまった。写真は2灯+フォグランプの1964年9月以降のモデル。

2ドア1600GTtypeR(1971)

―― 117クーペに積まれていた1.6LのDOHCツインキャブエンジンをベレットに移植、GTRを名乗った(後にGTtypeRに改称)。このGTRのベースとなったレーシングバージョンGTXは、スカイライン2000GT-Rやポルシェ6などとサーキットを舞台に激戦を繰り広げ、1969年の鈴鹿12時間では総合優勝を果たしている

黒船から始まった名門の血筋

日本の近代化の歩みは、そのままいすゞ自動車の源流へと繋がっている。そのルーツは、1853年のペリー来航という国家的危機に際し、徳川幕府が設立した石川島造船所にまで遡る。明治以降、政府が主導する「富国強兵」の旗印の下、軍の資金援助を受けて軍艦建造などを担った国策企業、それが後のいすゞの前身である。

1900年代初頭、日本は世界第3位の造船王国へと躍進する。その高度な設計・製造技術を背景に、石川島造船所が自動車開発に着手したのは1916年のことだった。英国のウーズレー社と提携し、1922年には第一号車を完成させている。しかし、当時はまだ巨大な船を造るような「手作り」に近い生産体制であり、ビジネスとしては1926年までにわずか100台余りを販売するにとどまっていた。

1929年、自動車部門が独立して「石川島自動車製造所」が設立される。この動きを強く後押ししたのは陸軍であった。当時、国内市場はフォードやGMといった米国メーカーが席巻しており、軍部には「有事の際に自国で軍用車を賄えない」という強い危機感があった。海軍が支えた造船業と同様に、自動車産業もまた、国防という重責を背負って成長を加速させていく。

「欧米列強に追いつけ追い越せ」という至上命令の下、1932年には鉄道省などと共同開発した商工省標準形式自動車が誕生。ここで初めて、現在の社名の由来となる「いすゞ」の名が冠された。さらに、世界的に見てもまだ発展途上であったディーゼルエンジンの研究を1933年に開始し、わずか3年後には完成させるなど、いすゞは「技術のいすゞ」としての地位を確立していく。

戦後の混迷と「ベレル」の苦い教訓

ベレルの失敗を糧に、いすゞは1963年、より小型でスポーティな「ベレット」を投入する。デザインは生産性を考慮しながらも、低いキャラクターラインや傾斜したピラーにより、スピード感溢れる造形を実現。さらに、四輪独立懸架やラック&ピニオン式ステアリングなど、当時の国産車としては画期的なメカニズムを惜しみなく投入した。

特筆すべきは、1964年4月6日に発表された「ベレット1600GT」である。これは、名門プリンス自動車がスカイラインGTの市販を発表するわずか3日前のことであり、国産車として初めて「GT」の称号を公式に名乗った記念碑的なモデルとなった。その鋭いハンドリングと加速性能は、当時の愛好家から「和製アルファロメオ」と絶賛される。その後も、ディスクブレーキの採用や、自社製DOHCエンジンを搭載した「GTR」の投入など、ベレットは常にクラスをリードする進化を続けた。

時代の奔流と名車の終焉

しかし、1966年にサニーやカローラが登場すると、日本のモータリゼーションは激変する。大衆車市場は、短いサイクルでモデルチェンジを繰り返し、コストと利便性を競う「スピード勝負」の世界へと変貌したのである。

対するいすゞは、トラックと同様の長いスパンでじっくりと車を育てる「悠長な商品計画」を変えられなかった。ベレットは1973年までのおよそ10年間、大きな基本構造を変えることなく造り続けられたが、その間に時代は2世代先へと駆け抜けていったのである。

幕末の志から始まり、国防の重責を担い、和製アルファロメオとまで呼ばれる名車を産み落とした。いすゞの歴史は、高い志と卓越した技術を持ちながらも、時代の激流に翻弄された孤高のエンジニアたちの物語そのものである。

ベレット2ドア1600GTR(1970年式)

―― ●全長×全幅×全高:4005mm×1495mm×1325mm●ホイールベース:2350mm●トレッド(前/後):1260mm/1240mm●車両重量:970kg●乗車定員:4名●エンジン(G161W型):水冷直列4気筒DOHC1584cc●気化器:SUキャブレター×2●最高出力:120PS/6400rpm●最大トルク:14.5kg・m/5000rpm●最高速度:190km/h●最小回転半径:5.0m●トランスミッション:前進4段オールシンクロ後進1段●サスペンション( 前/後):ウィッシュボーン式独立/ダイアゴナルリンク式独立●タイヤ:165HR13◎新車当時価格(東海道統一価格)116.0万円

―― G161W型1.6LDOHCエンジン。最高出力120PS、最大トルク14.5kg-mを発揮した。

―― 回転計と速度計をドライバー正面に、水温計や燃料計など5つの計器やトグルスイッチをフェイシア下に配置した初期の1600GTは、レースカーを意識したデザインとなっている。フロアチェンジのミッションはショートストローク。ステアリングはアルミスポークに皮巻きグリップを組み合わせたスポーツタイプ。

―― センターコンソールに備え付けられた3連メーター。左から燃料計、電圧計、水温計となっている。

―― 「ベレG」の名を不動のものにした1600GTタイプR

―― 117クーペ用に開発された自社製のDOHC1.6Lエンジンは120PSを発揮。最高速は190km/hに達した。

サーキットでも証明されたベレットの実力は、いすゞの技術の高さを証明した

いすゞの技術力が当時の最先端レベルにあったことに、疑う余地はない。それは数々のレースでの戦績も証明している。登場当初から幾多のモータースポーツに参戦して優れたハンドリングを見せつけたベレットは、1964年の1600GTの登場後は多くのイベントで勝利を重ね、「ベレG」の名を不動のものにした。

1969年には、開発中のDOHCをチューニングしたエンジンを搭載するプロトタイプレーシングカー、ベレットGTXで鈴鹿12時間レースに参戦。スカイラインGT-Rなどの国産車勢のみならず、純レーシングカーのポルシェカレラ6を抑えての総合優勝もしている。

同年の日本GPには、同エンジンをリヤミッドに搭載するグループ6スポーツプロトタイプレーシングカー、ベレットR6も参戦している。そのエンジンを搭載したベレットGTRが、生まれながらの悍馬としてファンの喝采を浴びたのも当然のことだろう。

幻となったスーパーカー「ベレットMX1600」

さらに多くの人の度肝を抜いたのが、ベレットMX1600だ。当時のグループ4カテゴリーでのレース参戦を目指し、ごく少数ながら市販前提で開発されたそれは、デ・トマソ・バンテーラを手がけたトム・ジャーダの手になる、正真正銘のミッドシップスーパーカーだった。MX1600は、1969年と1970年の東京モーターショーに出展され、市販間近とまで報じられたが、結局、実現することはなかった。この時代になると、いすゞの乗用車事業は完全に行き詰まり、施行が決まった排ガス規制に対応する投資さえ、難しくなっていたのだ。いかに高度な技術を持ち、高性能なクルマを造ることができても、それを売る技術が伴わなければビジネスにはならない。その厳しい現実を乗り越えるために、いすゞは1971年にGMと資本提携。ベレットの生産終了翌年の1974年、待望の後継車となるジェミニを送り出す。

GMグループのオペルカデットをベースに、いすゞらしいトルクの太いエンジンを搭載したFR駆動のジェミニは、ふたたび欧州車テイストの走りでファンを喜ばせ、1979年にはDOHCエンジンのZZも加えて好評を得る。ただし、やはりその後も、技術に商売は追いつかなかった。紆余曲折の末、2002年にいすゞは乗用車事業から完全撤退。創業以来の姿であるトラックメーカーとして、世界で存在感を示す道を選ぶのだ。ちなみに、ベレットの生産台数は足掛け11年で17万台あまり。うちGT系が約1割。目の肥えたファンには愛された名車も、大衆に支持されたとは言い難かった。

サーキットで活躍した本格ミッドシップスポーツ「ベレットMX1600(プロトタイプ)」

―― ベレットMX1600は、当時のグループ4カテゴリーでのレース参戦を目指し、ごく少数ながら市販前提で開発された。それは、デ・トマソ・バンテーラを手がけたトム・ジャーダによるものだった。

―― ベレットMX1600(プロトタイプ) さらに市販に近づいたMX1600-IIはボディがFRP製となり、エンジンも117クーペに載る140馬力の1.6LのDOHC「EG161WE型」とされた。4本スポークのステアリングや7連メーターなどインテリアも完成度が高かったが、3台が試作されただけでついに生産は夢に終わってしまった。

―― ヘッドライトは4灯式を採用。低いスラントノーズよりさらに低い位置に装備されている独特のデザイン。

―― 市販前提で開発されたそれは、デ・トマソ・バンテーラを手がけたトム・ジャーダ氏によるデザイン。

ベレットの変遷

文:月刊自家用車WEB 月刊自家用車編集部

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みんなのコメント

18件
  • kmq********
    ベレットは、止まってても尻が下がっている
  • fuk********
    80年代半ばまでは結構ベレGは街中で見かけたなあ。
    当時小学生低学年だったけど、純粋にかっこいいと思った。
    ダルマセリカや117クーペよりもこのベレGの方がコンパクトでアルファジュリアGTを少し不細工にしたような感じで愛嬌があって好きだった。
    当時母親が117に乗っていたのでいすゞに傾倒していたってところもあるが、
    いすゞのデザインはよかったなあ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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