佐藤ことぶきのレース通信
レースも市販車も! 2023年は日本バイク界のカーボンニュートラル元年に……〈多事走論〉from Nom
2022年シーズンを制した4人のチャンピオン。JSB1000の中須賀克行は何と11回目のタイトル獲得。J-GP3の尾野弘樹とST1000の渡辺一馬は2年連続。ST600の荒川晃大が初タイトルだ。
2022年シーズンもいろいろなことがありましたが、全日本ロードレース選手権も最終戦を終えました。JSB1000クラスは、前戦の岡山ラウンドで中須賀克行が11回目のチャンピオンを最終戦を待たずに決めていましたが、他のクラスはチャンピオン決定戦。各クラスとも、見応えのある、すばらしいレースが繰り広げられました。
―― 2022年シーズンのJ-GP3クラスを席巻した3人。この3人以外で表彰台に上がったのは、SUGOラウンドで木内が転倒して3位に入った若松怜のみだ。
J-GP3クラスは、2連覇に王手をかけた尾野弘樹を上原大輝と木内尚太というTeam PLUSONEの2人が大いに苦しめました。三つ巴のバトルは、今シーズンの縮図とも言えるレースでした。尾野は上原が優勝しても9位以内に入ればよかったのですが、優勝の可能性がある限り攻め続けました。上原は、高いコーナリングスピードを見せ、ラストスパートで尾野と木内を引き離し今シーズン2勝目を手に入れました。尾野は2位でゴールしV2を達成。昨年は最終戦に大逆転でタイトルを決めましたが、今年はPLUSONEの2人を巧に抑え込んでの2年連続チャンピオン獲得でした。
今シーズンよりJ-GP3クラスにスイッチした上原。初めてコンペティブなレーサーを走らせたにも関わらず開幕戦から速さを見せ、全日本初優勝を含む2勝を挙げシリーズランキング2位となりました。来年も活躍が期待されるところですが、新たな夢に向かい違う道を歩むことを決めているようです。
―― 南本宗一郎が序盤からレースを引っ張ったが、最後はタイトル争いを繰り広げる3人が意地の張り合いを見せた。
ST1000クラスは、渡辺一馬と國峰啄磨が同ポイント、高橋裕紀が12ポイント差で続いている状況で最終戦を迎えていましたが、流れは一馬が持っていましたね。予選で啄磨が出したタイムも驚異的でしたが、アベレージは一馬が一歩上手でした。裕紀も開幕戦で優勝していますが、一馬のペナルティがあってのことだったので、勝って終わりたい一心でした。残り2周となったところでヘアピンで仕掛けようと思ったそうですが、デグナーカーブ2個目立ち上がりでミスをしてしまったため、最終ラップのシケイン勝負と決めていました。
一馬に対し、コーナー立ち上がりで離されていたため、スプーンカーブの立ち上がりは、ギリギリのところを攻めました。マシンを起こしタイヤをグリップさせてアクセルを開けていきますが、縁石の切れ目のほんの僅かなところでダートにリアタイヤを落としてしまい万事休す。かわって啄磨が2番手に上がりましたが、勝負するところまでいけず2位。一馬がオートポリスから4連勝を飾り2連覇を達成しました。一馬は、SUGOの決勝以外は安定した速さを見せていましたね。ゼッケン1にふさわしい強さでした。惜しくもランキング2位となった啄磨ですが、今シーズン大きく成長しました。1000ccルーキーということも忘れるような走りは、来シーズンも楽しみですね。
―― 全日本ST600クラスで揉まれ成長してきた#3荒川晃大。岡本裕生、埜口遥希などST600でチャンピオンを獲ったライダーが1000ccでも速さを見せているだけに晃大も期待したいところだ。
ST600クラスは、荒川晃大が全日本4年目で念願のタイトル獲得を果たしました。鈴鹿を得意としており、ポイントでは有利な状況で最終戦を迎えていた晃大は、コースレコードを更新し、勝ってチャンピオンを決める気満々でしたが、走り始めから、今ひとつ調子が出ていませんでした。予選では、ただ一人2分10秒台に入れ、コースレコードをたたき出しましたが“他力を使って無理矢理出した”と不本意なアタックだったと言います。それでも600ccで2分10秒台は前人未踏であり驚異的ですよね。
決勝では、本人はリラックスして走れたと言っていましたが、タイトルのプレッシャーが何処かしらあったようです。来シーズンはST1000へのスイッチを希望していますが、もっと走る機会を与えて欲しいですね。まだ20歳になったばかり。晃大のさらなる成長に期待しましょう。
―― 渡辺がトップを奪い、ついに中須賀の連勝記録にストップがかかるかと思わせた瞬間。
そして史上初めて3レース制で行われたJSB1000クラスは、すでに中須賀のチャンピオンが決まっていましたが、最高峰クラスにふさわしいレースを見せてくれました。中でもレース3の渡辺一樹の健闘が光りました。レース1では中盤までレースを引っ張りながらもタイヤを温存していたつもりでしたが、中須賀の策略にはまり、レース終盤のスパートについていけず2位。12周という短期決戦となったレース2は、中須賀がトップに出た際に、清成龍一の前になかなか出ることができずに、勝負もできずに終わり、パルクフェルメでは悔し涙を流した。レース1、レース2の結果を受け、チームマネージャーの加賀山就臣から“今できる最大限のことをやるのが使命だ”と言われ気持ちをリセット。序盤は、後方に下がってもタイヤを温存し、中須賀がトップに出たタイミングに素早く反応し追従。ラスト2周で中須賀をシケインのブレーキングでかわしてトップに浮上します。この周の130Rで見せたハイスピードの両輪ドリフトを伴う突っ込みを見たときは思わず唸ってしまいましたね。
―― ここ2シーズン、レースに出られずくすぶっていた渡辺にとって2022年は忘れられないシーズンになっただろう。
MotoGPサンマリノに代役出場し、ボルドール24時間に参戦した渡辺にとって8月のオートポリス以来の全日本。後半戦に入り、大きく足回りを見直し、岡山ラウンドでは“代打オレ”で加賀山が実戦テストを行いマシンを検証。そのデータを生かしての最終戦でした。3レースとも結果こそ同じ2位でしたが、レース3は最も絶対王者を追い詰めたレースとなりました。
来シーズンからJSB1000クラスにカーボンニュートラル燃料を導入することと暫定カレンダーも発表されました。エントラントのほとんどがプライベーターとなっている現在。みんな必死にチームを運営し、その中で、レースを盛り上げようと努力しています。必死に踏ん張っているエントラントが、もっと楽にレースをできるようになっていってもらいたいものですね。
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