移動の均質化が招く分断構造
2025年の日本社会は、一見すると移動がかつてないほど便利で洗練されている。都市と地方、公共交通と個人移動、MaaSと格安航空会社(LCC)が複雑に絡み合い、利便性は確実に向上したように見える。
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駅ナカには全国どこでも同じチェーンのカフェが並び、LCCは地方空港から首都圏への安価な移動を可能にする。地方自治体もMaaSの導入に積極的だ。誰もが自由にどこへでも行ける社会が、実現しつつあるように映る。
だが、果たしてその「自由」は誰にとってのものなのか――。
移動手段が均質化したことで、
「誰もが同じように移動している」
という幻想が生まれた。この幻想は、移動にまつわる格差や困難を覆い隠す。結果として、交通弱者の声は社会や政治から締め出される。
均質性の裏には、見えにくい排除の構造が潜んでいる。それは連帯を損ない、社会全体の分断を静かに進行させている。
本稿では、「見せかけの移動平等」がいかに過剰包摂社会(多様性を受け入れ、誰もが平等に扱われているように見える社会)と結びつき、移動関連産業を通じて格差の固定化を促しているのかを検討する。
表層的平等が生む移動格差
現代社会では、移動が商品として平準化されている。LCCは地方空港から成田や関空までの安価な移動を実現し、新幹線は快適な車内と共通サービスによって均一な移動体験を演出する。交通系ICカードも全国に広がり、SuicaやPASMOが標準的な移動インフラとして定着した。
これらの仕組みは、移動を均質な体験としてパッケージ化し、利便性と安心感を与えているように見える。しかし、それは表層的なインターフェースにすぎない。実際の移動には、時間、空間、経済状況といった制約が複雑に絡み、個々の体験は大きく異なる。
同じ飛行機や電車に乗っていても、
・移動の動機
・費用負担
・拘束時間
・身体的負荷
・精神的ストレス
は利用者ごとにばらついている。外見上の平等が、内実の格差を覆い隠している。
新幹線のグランクラスと自由席を比較すれば、その差は明確だ。グランクラスでは指定席や軽食、接遇サービスが提供される。一方、自由席では混雑や立ち乗りを強いられることも多く、同じ列車内に「経験の格差」が存在している。
また、出発点や到達点の条件も無視できない。都心の駅近マンションと、1日3本の路線バスを経由しなければ駅にたどり着けない地方の集落とでは、
「移動の意味そのもの」
が異なる。制度上は誰もが移動可能であっても、現実には生活環境や費用構造が分断を生み出している。その分断が、あたかも存在しないかのように扱われる。これこそが過剰包摂の本質である。
地方に目を向ければ、日常の移動を自家用車に依存せざるを得ない地域が多い。公共交通は縮小し、高齢者にとって運転免許の返納は生活手段の喪失を意味する。
一方、都市部では「車を持たない」ことが合理的な選択とされている。交通網が密に整備された都市では、車の保有は負担と見なされる。この価値観の非対称性もまた、見えにくい断層を形成している。
このように、「誰でも自由に移動できる」社会の裏側では、移動の自由を奪われた層が静かに周縁化されている。しかしその声は、制度や政策の中で不可視化され、政治的な争点になりにくい構造がある。
スマホ依存が招く移動格差
交通関連企業や自治体は、移動手段の
・快適さ
・お得さ
を前面に打ち出すことで、利用者間の違いを意図的に消し去ろうとする。LCCを使う者は「賢い消費者」とされ、Suicaやアプリによるチケットレス移動は洗練された都市生活の象徴として扱われる。MaaSの導入もまた、交通手段の接続性を効率性として高く評価される。
たしかに、これらは生活者にとって一定の利便性を提供している。しかし同時に、移動にまつわる個別の困難を覆い隠してもいる。例えば、スマートフォンを前提とした乗車券の購入や情報取得は、高齢者や端末を持たない層にとって大きな参入障壁となる。交通系ICカードに対応していない地域や、小規模交通事業者で電子化が進んでいない現実も、
「均質化」
という幻想のなかで見落とされやすい。誰でも使えることをうたうサービスが、皮肉にも
「一部の人しか使えない構造」
を生んでいる。こうした逆説は、消費者を画一的に捉える広告戦略と連動している。結果として、移動における格差が巧妙にマーケティングの言語によって覆い隠される事態が進行している。
地方高齢者の交通インフラ崩壊
問題は、これが単なる「サービス格差」ではなく、政治的な課題である点にある。移動の不自由さは、
・居住
・就労
・投票
といった基本的権利に直結する。にもかかわらず、誰もが移動できるという前提が疑われないことで、その制約が政治空間に反映されにくくなっている。とくに地方では、高齢者や低所得者が
・交通インフラの縮小
・行政サービスの撤退
に直面している。それでも、彼らが十分な発言権を持つ場は少なく、政策形成の枠外に置かれている。行政がMaaSを導入しても、スマートフォンやクレジットカードが前提となれば、支援の届かない人が必ず生まれる。これは包摂ではなく、新たな「排除の形式」にすぎない。
移動の困難が見過ごされれば、公共サービスや社会保障へのアクセス格差も広がる。
・投票所にたどり着けない人
・通勤に過剰な時間がかかり働くことを諦める人
・交通手段がなく受診を断念する人
こうした声なき声をすくい取らなければ、移動の平等は名ばかりの理念にとどまる。
移動困難者の声なき消失
都市の若者も地方の高齢者も、スマホを持ち、似た服を着て同じ電車に乗り、SNSを利用しているように「見える」。この「見える」ことこそが、現代の包摂社会の最大の罠である。
実際には、車を持てず買い物に困る人や、通勤に4時間以上かける人、経済的にLCCや高速バス以外を選べない人、公共交通の廃止に直面する郊外の高齢者など、移動の自由を持たない層が存在する。こうした人々の存在は、社会意識のなかで次第に
「ノイズ」
として処理されていく。
不可視化が進むほど、交通問題は技術や効率性の議論にすり替わる。結果、移動に困難を抱える人々の声は政治に届かず、格差が固定化されていく。これはやがて民主主義の基盤を揺るがしかねない。
移動は人間の基本的権利である。その前提が揺らげば、社会の包摂性も危うくなる。いま必要なのは、移動できるように見える社会ではなく、
「本当に移動できる社会」
への冷静な問い直しである。(伊綾英生(ライター))
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みんなのコメント
とにかく何かに文句言いたくてしょうがないんでしょうかね。