この記事をまとめると
■1975年にレースカーにアート表現を施したことから始まった「アートカー」
ド派手なエアロで誰が呼んだか「バットモービル」! 軽量化命で誕生した「BMW 3.0CSL」というたった1000台の名車
■過去にはアンディ・ウォーホルや日本人の画家もプロジェクトに参加していた
■クルマを通した新しい文化の醸成が「アートカー」最大の意義
通算20台目のBMWアートカーが誕生
BMWは、今年5月にMハイブリッドV8による最新のアートカーを発表しましたが、9月20日からはいよいよ日本にて初展示となりました。
同車は通算で20台目のアートカーとなりますが、そもそもBMWはなぜこのシリーズを続けているのでしょうか? 今回は、こうしたクルマによるアート表現の意義について考えてみたいと思います。
●50年間に及ぶアート表現の歴史
アートカーの誕生は1975年に遡ります。そもそもは、アートに造詣の深かったレーサーのエルヴェ・プーランが所有するBMWのレースカーにアート表現を施すことを着想し、BMWのスポーツ部門へ提案したことが発端といわれています。では、その意義を考える前に、この初代を含めた印象的なアートカー3台を振り返ってみましょう。
エルヴェ・プーランがもち込んだBMW 3.0CSLにペイントしたのは、アメリカの彫刻家であるアレクサンダー・カルダー。モビールの発明と制作で有名な氏ですが、同時に「色彩の魔術師」とも称され、原色で塗られたモビールが代名詞です。
クルマへのペイントもこれに準じており、彩度の高い赤と黄色をメインにした大胆な配色は氏のモビールそのもの。じつはボーイング社の航空機にもペイントしたという氏ですが、アートカーの1台目にふさわしい明るさをもっていました。
●日本人も参加した幅広いアート表現
次にピックアップするのは1979年に制作されたBMW M1で、シリーズ中もっとも有名とされる1台です。手がけたのはポップアートの旗手、アンディ・ウォーホル。もともとイラストレーターとして活動していた氏ですが、キャンベルのスープ缶など、シルクスクリーンによる作品で強烈な印象を残しました。
M1への仕事を見ると、版画表現というよりは、初期のファインアート的な奔放さを感じさせるもの。面白いのは、メインカラーが赤や黄色、青と、初代の色使いに近いところでしょう。
3台目は1990年のBMW 535i。手がけたのは京都出身の日本画家である加山又造で、初のアジア出身アーティストとなりました。「雪の結晶の印象を与えたかった」という氏は、エアブラシと箔を使うことで見事に雪の繊細さを表現。岩絵の具らしいグリーンやパープルも見所です。
このクルマは、1982年のBMW 635CSi以降、3台目となる量産モデルがベースとなっていることも特徴です。たしかに、加山氏の優雅な世界観を表現するには、派手なレースカーより端正なオリジナルボディがお似合いです。
BMWはアートカーでクルマによる新しい文化の情勢を目指す
●アートとデザインの新しい融合を目指す
こうして展開されるアートカーの意義はどこにあるのか? これは間違いなくクルマを通した新しい文化の醸成といえます。
たとえば2008年、BMWアートカーコレクション30周年記念ワールドツアーの展覧会が日本で行われましたが、このときの会場構成を担当したのが気鋭の建築家である青木 淳氏。ここでは、建築・空間デザインとクルマの融合が試行されたのです。
また、2023年にはBMWアートカーとスポーツシューズで知られるプーマとのコラボレーションが行われ、スニーカーやジャケット、Tシャツなどの商品展開が行われました。すなわち、クルマとファッションデザインとの融合です。
クルマのスタイルはともすると「好き嫌い」で語られがちですが、カーデザインはプロダクトデザインの領域であり、そこには文化的な側面が存在します。欧州ではもともとアートやデザインなど、生活のなかに文化が根付いており、クルマもそうした視点で語る土壌があったと思えます。
近年、日本でも同様の動きが見られ、レクサスは2013年から独自のデザインアワードを創設しましたし、マツダの前田育男氏(前デザイン本部長 現シニアフェロー ブランドデザイン)は著書「デザインが日本を変える」で、広義のデザインがモノ作りだけでなく、企業のブランド力にも影響すると語っています。
クルマを単なる移動手段や趣味の対象に止めることなく、豊かな文化を創り出す上質なプロダクトとして捉える。BMWのアート・カーは、50年間を掛けて着実にその役割を果たしているのです。
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