迫る電動化と非MT化の波……。令和の国産スポーツカー、その展望は?
国産スポーツモデルにとって、重大な転機が訪れつつある。すでに電動化の波が押し寄せていることは、当サイトで何度もお伝えしているが、電動化とセットでなくなりそうなのがマニュアルトランスミッション(MT)車だ。
クラッチペダルを含めた3ペダルのMT車は、ドライバーが意のままに操れるクルマとしてスポーツモデルに欠かせない存在だが、実は新車で買えるのはあと10年しかないという。以下、国沢光宏氏がその理由を解説。
文/国沢光宏
写真/日産、xiaosan-stock.adobe.com、撮影/小宮岩男、奥隅圭之
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速さはATでも走る楽しさではMTで乗ってこそ
写真のロードスターを筆頭に、NSX、ポルシェなどスポーツモデルの中古車でもMTの人気が高い
スポーツモデルといえば「ハイパワーエンジン+マニュアルトランスミッション」だと思う。実際、ポルシェ 911にしてもNSXにしてもロードスターにしてもフェラーリにしても、中古車人気はハッキリとマニュアルだ。
そもそもスポーツモデルって利便性より走る楽しさが重要。ATのスポーツモデルに乗っても、あまり刺激的じゃありません。
こう書くと「今やF1だって2ペダル操作。最新のスポーツカーはマクラーレンやフェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェ、GT-RだってATでしょ」みたいな意見も出てくれるかもしれない。
確かに超ハイパワーエンジンになるとマニュアルミッションじゃ速く走れない。そればかりかシフトミスしたら危険だし、エンジンだって簡単に壊れてしまう。
加えて最大トルクが500Nmを大きく超えるようなエンジンと組み合わせられる「気持ち良いシフトフィール」のマニュアルミッションは作れないと思う。
大きなトルクに耐えるようにしたら「楽しい」と反対方向の鈍くて重いシフトフィールになっちゃいます。ただし。400馬力/500Nm以下のエンジンだったらマニュアルもイケる。
シビックタイプRには2L直噴ターボエンジン(320馬力/400Nm)が搭載。トランスミッションは6速MTオンリーだ
先日鈴鹿サーキットで320馬力/400NmのシビックタイプRに乗ったけれど、もう楽しくて楽しくて辛抱堪りませんでした。
変速時のタイムラグがないツインクラッチ式であっても、ATじゃドライバーの意のままに操ることなどできない。同じく270馬力/370NmのGRヤリスだってマニュアルで乗ってこそ楽しいと思う。
あと10年しか新車でMTは買えない!
2030年に施行されるCAFE(企業平均燃費)では、マニュアル車は生き残ることが難しい。MTの新車を購入できるのは、2030年までとなる可能性が高い
ところが今やマニュアルミッションは絶滅危惧種になろうとしている。なぜか? 厳しいCAFE(企業平均燃費)をクリアしようとすれば電動化しなければならないからだ。
燃費を考えるとマニュアルミッションと組み合わせられるマイルドハイブリッドじゃなく、モーターパワーで発進するようなフルハイブリッドがマストになってしまう。
そもそも人間がエンジン回転数を操作するようなシステムでは燃費など追求できない。常に最適な回転数を使って走らないとダメなのである。
総合して考えると、2030年に施行されるCAFE 2030時点でマニュアルは生き残れないだろう。最大限、あと10年しか新車でマニュアルミッションを買うことは出来ないということです。「どうしても無理か?」と聞かれたら答えは簡単。
「絶対無理!」。100歩譲りCAFE 2030のクリアだけであれば、電気自動車をフルラインナップしているようなメーカーなら可能。
あり得ないけれど、テスラがトヨタからGRヤリスの生産ラインを譲り受け、テスラブランドで販売するのならOK。でもそんなことありえないでしょう。
マニュアルミッション車に乗りたいクルマ好きは、今のうちに買って置くことをすすめておく。私の予想だけれど、新設計のマニュアルミッションはGRヤリスに搭載されている6速が世界で最後になると考えている。
今からマニュアルミッションを新設計したって使い道ありませんから。作っても大赤字になってしまうこと確実なので作らない。
MTで最後の新車は次期フェアレディZかタイプR?
2020年にプロトタイプが発表された次期型フェアレディZは、MTがある最後の国産スポーツになるかもしれない
新型車として最後になりそうなのは、開発中止にならず市販に辿り着いたとすれば、次期型フェアレディZか次期型シビックタイプR、次期型WRX STIになると思う。
少なくともフェアレディZとタイプRはマニュアルミッション仕様があるという話を聞く(WRX STIはB4と合体してATだけになるかもしれません)。
新車を買う予算がないという場合、今のうちにマニュアルミッションの中古車に乗っておくのも良い。
中古車の売り物を多数掲載しているカーセンサーやGOOでマニュアルミッション車を検索すると、1月5日時点で商用車を除き2万2千台のマニュアルミッション車がヒットする。必ずや予算内で届く魅力的なクルマに出会えることだろう。
新車を買う予算がない場合は、中古車で探すことで、予算範囲内かつ素敵なMT仕様車が見つかるだろう(写真:xiaosan-stock.adobe.com)
参考までに書いておくとカーボンフリーが当たり前になる30年後の2050年には、おそらく「ガソリン」を販売していない。
いや、ガソリンは売っているかもしれないけれど、藻や植物などから人工的に精製した”ガソリンのような燃料”か、どこからで二酸化炭素を吸収する分のコストが上乗せされた高い高いガソリンになってしまう。
どのくらいの価格になるか不明ながら、今の5倍以上になることは間違いない。とはいえガソリンエンジンを搭載するマニュアルミッション車に乗れなくなってしまうことはないと思う。ヒストリックカーとしてイベントや休日に楽しむのなら問題なし。
今でも30年前のNS-XやGT-Rが元気に走っている。30年後もGRヤリスを楽しむことはできると思う。
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みんなのコメント
あとは二台に一台がMTというジムニーにも残って欲しいな。