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最新の技術トレンドを盛り込んだメルセデス・ベンツのガソリンエンジン デルタシリンダーヘッドとは何か?

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最新の技術トレンドを盛り込んだメルセデス・ベンツのガソリンエンジン デルタシリンダーヘッドとは何か?

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メルセデス・ベンツCクラスのビッグマイナーチェンジ・モデルは2018年7月にデビューした。C200 アバンギャルドは新開発のダウンサイジング・エンジンの1.5L・直列4気筒・直噴ターボの「M264型」を搭載した。このエンジンはBSG(ベルトドリブン・スタータージェネレーター)、48V電装システムなどを採用した48Vのマイルドハイブリッド・システムとなっている。

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このエンジンの試乗記はこちら。
※関連記事:【メルセデス・ベンツCクラス試乗記】電動化された新パワートレーンはダイナミックでパワフルに

48Vマイルドハイブリッドを採用したM264型エンジン

以前から紹介しているような48Vとスターター/ジェネレータを組み合わせたマイルドハイブリッドがいよいよヨーロッパでは普及段階に入っていることを物語っている。このマイルドハイブリッドは、ブレーキ時にスターター/ジェネレーターがエネルギー回生を行ない、発電された電力は1kWh容量のリチウムイオン電池に蓄電される。

そして、発進時にはスターター/ジェネレーターがエンジンを始動するとともに、加速時にはターボの過給圧が高まる段階までモーターによる駆動アシストを行なう。この仕組はすでに国産車でも少なくないが、それらは12V電圧だ。

一方、このM264型エンジンのように48Vでは当然ながら12Vのスターター/ジェネレーターより出力が大きく、M264型の場合は14ps(回生時は16ps)/160Nmを発生することができ、駆動アシストとして十分と言える。

それだけではなく、このスターター/ジェネレーターにより生み出される駆動力はギヤチェンジ時にも使用され、エンジン回転がギヤチェンジ時の設定回転数に達するまでの時間を早め、より短時間にスムーズにギヤチェンジできるように働く。

末広がりなシリンダー形状

この新開発されたM264型は排気量1496ccで、ボア×ストロークは80.4mm×73.7mmで、圧縮比は10.5。最高出力184ps/5800-6100rpm、最大トルク280Nm/3000ー4000rpmを発生する。ターボチャージャーはツインスクロール式だ。

直噴インジェクターは高応答のピエゾ式で、燃焼室中央に噴射するスプレーガイド・多段噴射式だ。日本のエンジンに多く見られる側方からの噴射では強いタンブル流を発生させないと燃焼速度を上げるのが難しいが、燃焼室直上からの中央噴射ならそれほど強いタンブルがなくても、低負荷であっても十分に高い燃焼速度を実現することができるからだ。

また、可変バルブタイミングの「カムトロニック」を装備しており、部分的にミラーサイクル運転も行なう。高出力を狙っているため、最近の過給エンジンとしては最大トルク回転数は高めだ。

このエンジンから摩擦低減対策として、メルセデス・ベンツが特許を取得した「コニシェイプ加工」が採用されている。

「コニシェイプ」とはコニカル・シェイプを縮めた単語で、コニカルとは円錐形を意味する。これは、鋳鉄製シリンダーライナーをホーニング加工する際に、シリンダーウォールを底部に向けてやや末広形にすることで、ピストンスカート部に発生する摩擦を低減する効果・目的で採用されている。

その理由は、ピストンの肉薄のスカート部が高負荷で外側方向に熱膨張することに対応し、熱膨張しても摩擦抵抗が増大しないようにするためだ。

ピストンは超ショートスカート形状で、ピストンリングは低張力・薄型を採用し、ピストンピンはDLCコーティングするなど徹底した低フリクション対策が採用されている。さらにクーリングチャンネルを備えており、燃焼室をオイル冷却するとともに、ピストン冠部の熱膨張を抑えている。このため、ピストン・スカート部の熱膨張対策を行なうことでピストンの発生する摩擦抵抗を最小限にしていることがわかる。

ピストン、シリンダー部、さらにエンジン装備などで徹底的に効率を追求しており、ピエゾ式直噴インジェクター、48Vのスターター/ジェネレーターによるマイルドハイブリッド、ツインスクロールターボ、クーリングチャンネル式ピストンなど、いわばエントリークラスのベースエンジンともいえる1.5Lエンジンに、これだけコストアップを厭わず最新の技術を投入しているのは驚異的といえる。

M282型ルノーと共同開発した1.3LエンジンをAクラスに搭載

メルセデス・ベンツCクラスに搭載された1.5LのM264型エンジンがメルセデス・ベンツの最小排気量エンジンではない。実は新型AクラスのA180に搭載されている横置きFF用のM282型エンジンは1331ccで、さらに排気量が小さい。

もっともAクラスのラインアップで日本未導入のA220、A250などには2.0LのM260型エンジンを搭載している。このM260型はCクラスに搭載されているM264型と同一シリーズのモジュラーエンジンで、排気量の違いだけでなくM264型は縦置きFR用、M260型は横置きFF用という作り分けがされている。ちなみにM260型のFR用の高性能仕様は2.0Lで300ps/400Nmを発生する。

A180に搭載されるM282型エンジンは、ルノー・日産・三菱アライアンスとダイムラー社が共同開発したエンジンというユニークな素性を持っている。メルセデス・ベンツではこのエンジンはM282型と呼ばれるが、ルノーでは「エナジーTCe」シリーズと名付けられ、エナジーTCe115(115ps)、エナジーTCe130(130ps)、エナジーTCe140(140ps)、エナジーTCe160などがラインアップされ、今後の主力エンジンとなる。現時点ではルノー・セニック/グランセニック、カジャーに搭載されている。

4気筒エンジンの気筒休止システム

ルノーはこのエンジンをヨーロッパだけでなく中国でも生産する。一方のダイムラーはこのM282型エンジンはチューリンゲン工場(MDCパワーGmbH)で生産している。このMDCパワー工場は、なんと三菱との合弁時代にスマートForfour、スマートFortwoを製造していたところで、現在はエンジン製造ラインで、これまでの主力4気筒エンジンのM270型などを製造している工場だ。

この1.3LのM282型エンジンは、250Barの高圧直噴システム、10.6という高圧縮比、シリンダー休止システム、電動ターボ過給圧制御、低フリクション技術など最新の設計だ。シリンダー休止システムは、1250~3800rpmの回転数域で低負荷走行の場合、2番と3番シリンダーの吸排気バルブが閉じて休止状態になり、1番、4番シリンダーのみで走行するようになっている。

当然ながら2気筒での負荷が大きくなりスロットルはオープン状態のためポンピング損失が低減できるのだ。またメルセデス・ベンツにとって4気筒エンジンでの気筒休止システムの採用は初となる。

排気量1332cc、ボア×ストロークは72.2×81.4mm、ボアピッチ85.0mmで、圧縮比は10.6。ソレノイド・インジェクターは燃焼室中央に配置されるスプレーガイド式を採用。小型ターボを装備している。排ガス対策は最新スペックを採用し、ガソリン粒子フィルターも備えている。

デルタ・シリンダーヘッドとは何だ?

このエンジンは「デルタ・シリンダーヘッド」というユニークな設計だ。シリンダーヘッドは燃焼室の上屋だが、現在の市販エンジンではカム、バルブ&バルブ駆動システム、吸排気ポートを一体化した長方形の形状が常識だ。では、デルタ・シリンダーヘッドとは何だ?

このデルタ・シリンダーヘッドはまさに新発想の設計で、バルブ挟み角を狭角に配置し、高圧直噴インジェクターを燃焼室中央に直立配置。そして内側にハイドロリック・ラッシュアジャスターを配置しロッカーアームにより吸排気バルブを駆動する。そのため吸排気のカムシャフトはバルブの頂点より内側のロッカーアーム上に配置されている。

つまり内側支点のロッカーアーム、狭いバルブ挟み角とすることでコンパクトにまとめ、その一方で通常の吸気ポート、排気ポートがないのだ。そのためこのエンジンを前方から見ると3角形、つまりデルタ型となっているのだ。

この3角形のシリンダーヘッドに別体の吸気ポート+マニホールドと一体型排気ポート+マニホールドを組み合わせるというユニークな構造になっている。

現在のダウンサイジング・ターボエンジンは、シリンダーヘッド側の排気ポートが集合タイプとなり、その排気出口に直接ターボを取り付ける方法が主流になっている。そのため排気ポート+排気マニホールドが一体化された別ユニットとした、このデルタ・シリンダーヘッドは合理的な設計といえるし、整備サービス性も高いはずだ。

またこのエンジンはアルミ製クランクケースでライナーレス構造としているのも画期的だ。通常のアルミ製エンジンはシリンダー内側に鋳鉄製のシリンダーライナーを使用しているが、プレミアムメーカーのV8エンジンなどは鋳鉄ライナーを使用しないオールアルミ製だ。鋳鉄ライナーがなければ軽量化でき、さらにピストンとシリンダー部の熱膨張率が同一のため摩擦抵抗の低減にもなる。

しかしアルミ製のシリンダーでは潤滑性能が十分確保できないので、シリンダーのアルミ壁面に加工処理をする必要がある。昔の技術では、ニッケル・シリコン処理をして微小な凹凸面を作って潤滑性能を確保していたが、これはきわめて生産性が悪く、高コストになる。

そこでこのM282型エンジンはナノスライドと呼ぶ加工を行なっている。アルミ製シリンダーボアに鉄をプラズマ溶射する技術だ。実はこの加工法は日産GT-RのVR38型エンジンでも採用されている。アルミの表面に鉄の薄い被膜ができ、その被膜は微小な凹凸があるためオイルが保持でき、潤滑性能が十分確保できるのだ。

このようにM282型エンジン、ルノー・エナジーTCe130シリーズは、量産されるベースエンジンでありながら最新のテクノロジー、独自のアイディアを実現したユニークなエンジンとなっている。

メルセデス・ベンツ Aクラス 諸元表
メルセデス・ベンツ Cクラス 諸元表

メルセデス・ベンツ 関連情報
メルセデス・ベンツ日本 公式サイト
グループ・ルノー 公式サイト

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みんなのコメント

4件
  • 現行Cクラス乗ってますが、基本的に欠点の少ない車で、エンジンも低回転域から最大トルクを発揮し、燃費性能も高いまさに優等生です...が、一点、エンジンフィールに関してはどうしても誉められないというのが正直なところです。
    雑味というか、ガラガラ感というか、音もフィーリングも美しくないし、回しても全然気持ち良くないんですよね。官能性が皆無。4気筒なので仕方ないですが、現状そこが最大の不満。

    以前乗っていたBMWのNA直6エンジンのフィーリングを知らなければ気にならなかったのかもしれませんが、あれを経験すると、最近のエンジンはどれもフィーリングに不満が残りますね。最近のBMWも、直6でも全てターボ化されていて、NAのフィーリングには及ばないですし。
    政治的パフォーマンスでしかない行き過ぎた排ガス規制のせいで、近年は一部のスーパーカーを除いて官能性に欠けるエンジンばかりになってしまっているのが残念です。
  • 文章を読んでもよく解らんかったが、画像を見て納得。
    百聞は一見に如かず。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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