トヨタ「ハリアー」は、日本製SUVのなかでも人気車だ。まもなく新型が登場する今、その理由を塩見智が考えた。
レクサス生まれ、トヨタ育ちのハリアー
「WILD but FORMAL」というキャッチコピーと、正装したライオンが出てくるテレビCMが衝撃的だった初代「ハリアー」が登場したのは1997年のこと。海外ではレクサス「RX」として販売され、レクサスを展開していない国内ではトヨタ・ハリアーとして売られた。
おなじようにセルシオはレクサス「LS」の、アリストは「GS」の、それぞれ国内版だった。レクサスの日本版各モデルには、それまでのトヨタ車にないバタ臭さがあった。トヨタ車でありながらオーナーへ、輸入車を手に入れたような満足感を与えたであろうモデルたちだった。2003年に登場した2代目ハリアーもおなじ“洋楽カバー”路線。当時一気に受け入れられたハイブリッドが追加されたことで人気にブーストがかかった。
ところが2005年、元々日本から出発した黒船が帰ってくるかのようにレクサスが日本でも展開されることになった。セルシオ、アリストはそのままLS、GSとして売られるようになった。そして2009年、3代目レクサスRXが登場。このタイミングでハリアーもお役御免……のはずが、ハリアー・ファンやドル箱モデルをレクサス店に取られる格好となったトヨペット店の「ハリアーを残してほしい」という要望を受け、3代目RX発売以降も2代目ハリアーは継続販売された。
13年にモデルチェンジした3代目からはRXとは別のクルマとなった。オリジナルのJ-POPとなったのだ。7年間近く販売され、安定した人気を保った。そしてこの6月に4代目へ切り替わる。春先の海外モーターショーでデビューするはずだったが、コロナ禍によって先日オンラインでお披露目された。
92290144新型は、ゴツゴツ、パキパキとした最近のトヨタ・デザインテイストとは異なり、歴代モデルに共通する正統派ハンサムルック。3代目から継承された吊りあがった形状のヘッドランプや、左右のリアコンビランプがガーニッシュでつながって光るなど、LEDが効果的に使われている。リアコンビおよびガーニッシュ部分が突出したデザインはジャガー「Fペイス」や日産の次期EV「アリア」などを思わせる。
これまでハリアーのエンブレムは例のトヨタマークではなく、ハリアー(チュウヒというトンビみたいな鳥)をかたどったものだったが、新型からは各車共通のエンブレムになった。この4月からトヨタが販売チャンネルを統合し、全車種を全店舗で販売することと関係しているようだ。
新型はTNGAコンセプトにのっとった「GA-K」プラットフォームを使い開発された。つまり中身は「RAV4」にかなり近いと考えてよいはずだ。パワートレーンもRAV4とおおむね共通で、上級版に2.5リッター直列4気筒ガソリン・エンジン+トヨタ・ハイブリッド・システムII上級版、廉価版に2.0リッター直列4気筒ガソリン・エンジンが載る。それぞれ4WD、FWDを選べる。
RAV4よりも全長が140mm長いこともあって車両重量は80~120kg重いが(全幅、ホイールベースは同一。全高は25mm低い)、この程度の重量差であれば動力性能はおなじと考えてよいだろう。ロードクリアランスもほぼおなじなので悪路走破性も同程度のはず。RAV4はオン/オフともにクラスベストの走りを見せるのでハリアーも期待できる。
ハリアーが歴代を通じて人気を保ったのはなぜか?
作詞・作曲、そしてモノマネでおなじみのマキタスポーツは著書『すべてのJ-POPはパクリである【現代ポップス論考】』のなかで、ヒットしたJ-POPの多くには「コード進行」「歌詞」「楽曲構成」などの項目においてある法則が当てはまると主張し、こうした法則を当てはめて楽曲を制作することを「工業製品のような楽曲作り」と呼ぶ。
たとえばコード進行では、コードのベースラインがひとつずつ下がっていくカノン進行と呼ばれる手法が用いられているヒット曲が多いという。パッヘルベルの『カノン』で用いられたコード進行で、規則に従って耳に心地よく響く進行であり、規則正しいことを好む日本人にフィットしやすいのだそうだ。確かにググってみるとカノン進行を用いたJ-POPのヒット曲は無数に存在する。山下達郎の『クリスマス・イブ』は曲の一部に『カノン』そのものをサンプリングしている。
歴代ハリアーにも、日本人が好む要素がきちんと計算高く盛り込まれてきた。日本人は立派に見えるクルマを好むが道路事情から大きすぎるクルマは売れない。歴代ハリアーはその絶妙な閾値周辺のサイズをキープしてきた。またラグジュアリーなクルマを好むが、同時に世界で最も他人の目を気にする民族でもあり、輸入車を選べない人も多い。レクサスは国産車だが、プレミアムな位置づけという意味で輸入車に近い。その点、“向こうではレクサス”のトヨタ車というハリアーの位置づけも絶妙だった。
過去、日本では、「マークII」、「チェイサー」、「クレスタ」に代表される絶妙なサイズで絶妙な豪華さの“ハイソカー”が大人気だった。また「セリカ」、「シルビア」、「プレリュード」に代表されるスペシャルティカーが一世を風靡した時代もある。ハリアーは豪華だけど豪華すぎないハイソカーの要素を備えており、実用性を犠牲にしてでもルックスにこだわるスペシャルティカーの要素も併せもつ。そして日本市場は“ハイブリッドにあらずんばエコカーにあらず”でもある。
世界中で人気カテゴリーのSUVであるという大前提のもと、過去日本でヒットした要素を漏れなく盛り込んだのがハリアーなのだ。マキタスポーツは「コード進行」「歌詞」「楽曲構成」などに法則を当てはめればヒット曲っぽい曲はできるものの、実際にヒットさせるには、個人のストーリーを歌っていたり、歌い方をはじめその人ならではの身体性を伴っていたりする「オリジナリティー」が必要だと論じている。その意味では、レクサスとして生まれ、トヨタ車として育ったというやや数奇なストーリーこそ、ハリアーのオリジナリティーだ。ハリアーはヒットすべくしてヒットし続けるJ-POPであり、新型のヒットも約束されたようなものではないだろうか。
文・塩見智
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