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レッドブルF1のレース戦略責任者が語る、決勝前からの「数10億回の仮想レース」と最新ITテクノロジー

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レッドブルF1のレース戦略責任者が語る、決勝前からの「数10億回の仮想レース」と最新ITテクノロジー

 待望の2023年F1第17戦日本GP開催が目前に迫るなか、今季も他を圧倒し続けるレッドブル・レーシングでレース戦略責任者(ヘッド・オブ・レースストラテジー)を務めるウィル・コートニーが出席する日本のメディア対象の取材会が、同チームのタイトルパートナーを務めるオラクル主催で行われた。レッドブルF1を戦略面から支えるコートニーに、最新のITテクノロジーとシミュレーションを活用したレース戦略の組み立て、そしてレース中の判断のプロセスについて聞いた。

「私の仕事はピットストップのタイミングや、予選・決勝でどのタイヤを履くのかという決定をサポートすることだ」

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 そう語るコートニーは、レッドブル・レーシングのレース戦略責任者(ヘッド・オブ・レースストラテジー)を務め、グランプリの現場ではクリスチャン・ホーナー、エイドリアン・ニューウェイらとともにピットウォールスタンドに座る。コートニーはレース戦略を組み立てるほか、レース中の意思決定に必要な情報をシミュレーションから導き出し、戦略面での最終決定を下すホーナーらに差し出す役割も担っている。

 なお、コートニーは必ず毎戦レースに帯同しているということはなく、1グランプリごとにプリンシパル・ストラテジー・エンジニアを務めるハンナ・シュミッツと交代で帯同。現地入りしないグランプリではイギリスのミルトン・キーンズにあるチームのファクトリーからサポートする。それはレッドブルの戦略作りのルーティーンも影響しているようだ。

「レース戦略を組み立てるにあたって、グランプリ前の週末から仮想空間でモンテカルロシミュレーション(乱数を活用したシミュレーション手法)をかけ続けているんだ。タイヤの特性、クルマのペース、ピットストップで起こりうるタイムロスなど、レース中に起こりうるすべてを想定した上で数百万から数十億回という膨大かつランダムな仮想のレースを実施し、仮想空間でずっとクルマを走らせている。その結果を実際の戦略作りに反映するんだ」

「ただ、気温や路面温度を含めた実際のコンディションは週末を迎えてみなければわからない。だからこそ、実際のコンディションに合わせ洗練させるべく、セッション中も常にシミュレーションをかけ続けているんだ」

 実際の決勝レース中も仮想空間では膨大な数のレースが行われており、レース中に突如として入るセーフティカー(SC)やバーチャル・セーフティカー(VSC)への対応の判断にも活用するとコートニーは説明する。

「今年のオーストリアGPの決勝を例にすると、ポールポジションからマックス・フェルスタッペンがレースをリードし、2番手、3番手にフェラーリが続いていた。最初のピットストップのタイミングが近づく15周目にVSCが導入されたが、このVSC中に最初のピットストップを終え新たなタイヤを履くのか、それともコースに留まり、スタートタイヤ(ミディアム)での周回数を長めにとるのかという判断が求められた」

「フェルスタッペンの背後にいたフェラーリ勢を含め、多くの車両がこのVSC中にタイヤを交換したが、我々はステイアウトを選択した。この判断によりフェルスタッペンは容易にリードを守ることができた。そして15番手からのスタートのセルジオ・ペレスは、VSC中のステアイアウトも功を奏し、見事なリカバリーを見せ、3位でチェッカーを受けた」

「VSC中のピットストップ実施の可否という難しい判断が迫られるなか、適切な判断ができたのは実際のレース中も仮想空間で走り続けるライブシミュレーションのおかげだ。常にリアルタイムにシミュレーションを走らせることができていることは我々のレース戦略決定に関して大きな力となっている」

 シミュレーションソフト自体はレッドブル・レーシングがコードから書き上げた内製ソフトウェアとなる。以前はこのシミュレーションソフトをグランプリを転戦するコンピューター上で走らせていたが、数百万から数十億回という膨大かつランダムな仮想のレースシミュレーションに加え、このシミュレーションソフトはレース戦略部門だけではなく、ビークルダイナミクス部門でも使用しており、現地に持ち込んだコンピューターだけでは処理速度といったハードウェア上の限界を迎えてしまった。

 そこでレッドブルはデータベース管理ソフトなど、ビジネス向けのソフトウェアの開発、販売を手掛けてきたオラクルと2021年シーズンよりタッグを組み、オラクルが手掛けるクラウドプラットフォーム『オラクル・クラウド・インフラストラクチャ』を導入し、シミュレートをクラウド環境に移行。クラウドを介して繋がるデータセンターの演算リソースを活用することでシミュレーション速度は25パーセント速くなり、その分迅速な意思決定ができたとコートニーは説明した。

 現在のF1では全チームがソフトウェアを介したレースシミュレーションを実施し、レース戦略作りに反映させている。それだけに、シミュレーションの精度、回数の差が、実際のレースでの判断に大きく影響することは想像しやすい。2021年3月よりオラクルが『公式クラウド・インフラストラクチャ・パートナー』として関わって以降、フェルスタッペンとレッドブルが選手権をリードし続けているのは、車体やPU(パワーユニット)といったハード面に加え、戦略面や決断力というソフト面でもライバル以上のパフォーマンスを見せているのはこれまでのレース内容、結果からも明らかだ。

 また、F1ではコストキャップレギュレーションが敷かれているが、このクラウド環境への移行によりシミュレーションにかけていた予算も抑えることが叶ったという。「浮いた分のコストはさらなる開発に使える」とコートニーはクラウド環境のメリットを口にした。

 現代のF1は目に見えない領域での戦いが熾烈を極めている。急激に進化するAI、仮想空間でのシミュレーションを通じた戦略作りやクルマ作りなど、ITなどの最新テクノロジーを制したものがF1を制する時代と言っても過言ではない。ただ、それでもコートニーは「今シミュレーションでできることは現実の50パーセントほどだ」と語る。

「細かな情報を読み取るなど、人間にしかできない、理解できない部分は数多く残されている。適切にシミュレーションを運用し、シミュレーション結果をいかに解釈するのか。この部分は人の力によるものだ。完全な自動化、人間を解しない戦略作りという領域はまだ先の話になるだろうね。そんな時代が訪れた日には私も仕事を失ってしまうだろう(笑)」

 最後に、コートニーに日本GPの舞台となる鈴鹿サーキットでのレースをシミュレーションするにあたって重視している要素を聞いた。

「鈴鹿サーキットは本当に素晴らしいサーキットなので、日本GPは今年も楽しみだ。低速から高速までさまざまなコーナーがあり、路面の攻撃性が高いからタイヤには厳しいサーキットだね。戦略面では例年どおり2ストップとなると思う。ただ、タイヤに厳しいサーキットに挑む際にもっとも大切なことは、走行当日のコンディションにどのタイヤがベストマッチなのかを見極め、的確な判断をすることだね。そのためにもシミュレーションを重ね、常に最適化を行なっていくよ」

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みんなのコメント

2件
  • シュミレーションゲームと同じ
    ドライバーはただCPの事情通りに走らせるだけ
    アクシデントがあれば即ゲームオーバー
  • レッドブルは リアルタイムシミュレーションを参考に、ストラテジーする人間が主軸だから このコメント
    ドリンク売りが主体で その金で自らがオーナースポンサーのチームであり、各スタッフも 他のチームから引き抜きの、力があると判明している 個人経営者のプロ組織で、仕事が出来て当たり前 出来なければ全て自分の責任
    フェラーリは 繋がりのあるモデナの大学から、見込みのある者を入社させ ステップアップでF1で活躍できる人物を育てる、その生え抜きがベースで 他から引き抜く者は 大抵名のある大物になり、今は 大物がアイデアを出すと言うより、レギュレーション内で目標を定め その数値を出す為の一番効率の高いソリューションを決定するのが、引き抜いた大物で 実際に数値を出す技術開発は下の者がやるが
    現場で責任を和らげる相談する時間が無い レース中の判断を、リアルタイムシミュレーターに頼り過ぎているのが フェラーリの弱点
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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