ポルシェ911ターボ(964T)を最新技術で電子制御インジェクション化!
タービンは純正K26のままVプロ制御でノーマル比70psアップを達成
空冷ポルシェ911をフルデジタル制御化! 速さと快適性を手に入れた964ターボ
90年代には、すでに大衆車まで含めて電子制御インジェクションが当たり前になっていた国産車に対して、メーカーなりの理由があったにしてもエンジン制御の部分で旧態然としてたのがドイツ車。964ターボも例に漏れず、ボッシュKEジェトロを採用していた。
KEジェトロとは、吸気量を測定するフラップ式エアフロが、燃料噴射量を制御するポンプ(プランジャー)をダイレクトに動かす機械式インジェクション。排ガス対策のためにO2センサーが備わり、その信号を受けたCPがポンプに指示を出して燃料を絞りこむ制御も行われてるけど、とうぜん電子制御インジェクションのような緻密さは持ちあわせているはずがない。
そんなKEジェトロが、エンジンチューンを進めていく上で大きなネックになるのは目に見えている。しかも、経年劣化によってエンジン不調の原因にもなってたりするから困りものだ。
ガレージ八幡が手がけた964ターボも、オーナーから「エンジンの調子をもっと良くしたい」とのリクエストを受けてチューニングが進められた1台で、制御系の全面的な見直しが行われた。
その中核を成す“頭脳”といえるコンピュータは、森田代表が国産車チューンで慣れ親しんだHKSのF-CON Vプロをチョイス。燃調、点火時期のほか、エンジン回転数に応じた燃料ポンプの稼働率などもフルコントロールする。
それに合わせて、燃料系はポンプ以降のラインを全面的に引き直し。ワンオフ製作されたデリバリーパイプに800ccインジェクターが組みあわされる。また、空冷リヤエンジンだけに熱量も多いが、インジェクターに対する熱の影響を最小限に抑えるためインジェクターホルダーはノーマルの樹脂製を加工して使っている。
リヤエンジンの964ターボは燃料タンクをフロントに搭載。燃料ポンプはボッシュ製で、タンク近くのフロア下とエンジンルーム右側に1基ずつ備わる。「国産車チューンでよく使われるボッシュ製ポンプそのものだから容量は十分。あとは、ポンプの負担を減らすためにVプロで2段階の回転数制御をしてるよ」と森田代表。
エンジンルーム左側に装着された調整式燃料レギュレーター。KEジェトロはイニシャルの燃圧が5キロ前後と高いため、電子制御インジェクション化にあわせて適正化している。
点火系はデスビに代えてRB用クランク角センサーを加工装着し、コイルもRB26用が流用されている。ポルシェだからといって特別なことはなにもなく、チューニングの考えかたや手法としては国産車と全く同じだったりする。
EXマニだけははじめから社外品が装着されていたが、エンジン本体もタービンもノーマル。セッティングは最大ブースト圧1.5キロまでキッチリ取りつつ、現状1.3キロでノーマル実測値に対して70ps以上アップとなる360ps+αをマークしている。
なお、タービンがアクチュエーターを持たないK26のため、ノーマルでウエストゲートを標準装備。ブースト圧の制御はブリッツデュアルSBCで行われる。
森田代表いわく「ノーマルでも2000rpmあたりからトルクの盛り上がりを感じられるけど、最大ブースト圧はたったの0.6キロ。だから、速さに関してはたかが知れとるよね。それがVプロ制御+ブーストアップで激変。パワーはもちろん、レスポンスも別モノになる。エンジン特性はSR20のブーストアップ仕様とかGT-SS仕様みたいに、低回転域からトルクがバン! と立ち上がってくれるよ」とのこと。
さらに、コールドスタート時のエンジン始動性の向上や幅広いトルクバンドの実現など、日常域での扱いやすさもアップ。デメリットはどこにも見当たらないし、タービン交換などのステップアップにも対応できるなど、発展性も十分なチューニングと言っていい。
ちなみに、Vプロ制御化にかかるコストは約100万円。一方、KEジェトロの修理には40万円くらいかかって、Vプロほどのキメ細かな制御は望めない…となれば、どっちを選ぶのが得策か? それは言うまでもないだろう。
取材協力:ガレージ八幡 TEXT:Kentaro HIROSHIMA
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