1980年代に印象的だったクルマのCMソングのなかでも、“邦楽”にフォーカスして小川フミオが振り返る。
1980年代に日本の自動車メーカーが送り出したテレビコマーシャルは元気だった。
日本のポップスを使ったCMもそれなりにあった。歌は世につれ世は歌につれ……なんていうけれど、それにクルマをくわえてみると、当時の世相がよくわかる。日本のクルマも元気だったのだ。
歌には多くの場合、作り手のメッセージがこめられる。最たるものとして、1930年代から1970年代初頭までの米国のプロテストソングが思いつく。いっぽう、ラブソングが心を打つときにも、メッセージ性が大きな働きをするのである。
1980年代に販売された日本車のコマーシャルを観ていておもしろいのは、曲のえらびかただ。いってみれば、メッセージ性が弱い点が、逆に曲のメッセージになっている。メロディは1960年代~1970年代の楽曲よりうんと洗練され、ソフト&メロウなどと呼ばれることもあったやわらかなものを特徴とした。
楽曲の背景にあったのは、“おとな志向”だろう。1980年代初頭の「女子大生ブーム」とそれに続くように「おニャン子クラブ」ブームがあったものの、ミドルティーンの幼い世界観が大きく台頭してくるのは、1990年代に入ってからだ。1980年代の楽曲の多くは、当時の女子大生が、社会に出たらやってみたいこと、海外旅行やおとなの恋愛などを主題にしていた。米国的な風景をビジュアルに使うのも、その象徴ではないだろうか。
1980年代には曲作りが多様になり、日本のミュージシャンの演奏技術も飛躍的に向上した。そのため、ここで採り上げている楽曲は、当時へのノスタルジーを抜きにして、いま聴いても、なかなかあなどれない。コマーシャルではごくわずかな部分を切り取っているだけなので、この機会にちゃんと向き合うのはいいことのように思います。
(1)トヨタ「カローラ」(5代目)×郷ひろみ『素敵にシンデレラ・コンプレックス』
郷ひろみ(当時28歳)による『素敵にシンデラレラ・コンプレックス』を使った1983年発売のトヨタ・カローラのテレビコマーシャル。前輪駆動化された5代目カローラは、“スポーティハンサム”と定義された。広告コピーは「素敵にNEWカローラ」だった。
5代目カローラは、カローラ史上あとにも先にも、もっともシンプルな線と面による、洗練されたスタイリングを特徴としていた。セダンがメイン車種で、くわえてハッチバックも設定された。さらに前輪駆動化は、カローラの歴史において特筆すべき出来ごとといえる。
いっぽう、スポーティな2ドアクーペである「カローラ・レビン」と「スプリンター・トレノ」もタイミングを合わせてフルモデルチェンジとなった。こちらはあえて後輪駆動方式が引き継がれた。「あえての後輪駆動はさすが!」と、当時も高く評価された点である。
モータースポーツに参加するひとには、後輪駆動のスターレットも人気が高かったものの、1984年に前輪駆動化されてしまう。パッケージングの効率や重量などのことを考えると、前輪駆動化は世の趨勢となりつつあった時代だ。カローラの前輪駆動化は避けて通れない道だった。
コマーシャルでは、郷ひろみが自分にとって47枚目になるシングル曲を背景に、友人たちとラグビーを楽しむ様子が描かれる。舞台は、そのあとの走行シーンからかんがみるに、ハワイ。現在のカローラでは、熊本とか高知を舞台にしているから、当時はコストがかけられていたのだ。
5代目カローラシリーズは、(とりあえずレビンとトレノは別として)欧州的なスタイリングコンセプトで、私としてはグローバル感覚の採用に、とても好感をもったものだ。ハイデッキのトランクに、あえて高い位置を選んだリアコンビネーションランプのレイアウトもよかったし、ハッチバックもゲートがバンパーのすぐ上から開くので機能的だったし、スタイルもセダン同様、洗練されていると感じられた。
前輪駆動化され、ホイールベースも30mm延びた結果、室内空間は4代目よりはるかに余裕が生まれた。
運転した印象は、あいにく、飛び抜けて強いものは感じられなかった。サスペンション・ストロークがもうすこしたっぷりしているとか、エンジンが上の回転までよくまわるキャラクターを持っているとか、どこかに突き抜けたキャラクターがあるといいのになぁ、と、思ったものだ。
(2)マツダ「ファミリア」(5代目)×秋本奈緒美『ジェントルじゃいられない』
“スポーツ合衆国ファミリア”の文字とともに始まる5代目ファミリア(85年)のテレビコマーシャル。じつをいうと(あとで思うと)直球勝負でもこのクルマ、成功したんじゃないだろうか。
前輪駆動化されたファミリアは、みなさんご存知ように、空前ともいえる大ヒット。当時学生だった私のまわりでもオーナーが多く、違いといえば車体色ぐらいだった。クリーンなスタイリングで、ハッチバックというボディ形式いがい、似ているクルマはほかになかった。オリジナリティが抜群に高かったのだ。
生産開始から18カ月で累計生産台数が50万台に達するという、ものすごい、とさえ言いたくなる好調な販売を記録。2ドア・ハッチバックが看板車種で、3カ月遅れで登場したノッチバック(セダン)は必要ないのでは? と、思えるほど、デザインが新鮮だった。
マツダは今、“デザインで勝負するメーカー”というイメージもある。このファミリアが発売された頃が、従来の、いわばドメスティックなデザインから、グローバルな市場を意識したものへと変わる節目だったように思えるのだ。
たとえば「コスモ」は、モデルの宇佐美恵子がコマーシャルに出演して話題を呼んでいた2代目(1975年から1981年のCD型)はけっこうアメリカン。続く3代目(1981年から1990年のHB型)は4灯式リトラクタブルヘッドランプを備えたシャープなデザインへと大きく変わったのだ。
初代FWD(前輪駆動)ファミリアは、セーリングを楽しむような欧米のライフスタイルに憧れをもつ層への訴求も狙ったはずだ。映像はヨットを楽しむ欧米人たちであるものの、秋本奈緒美の楽曲は、“ジェントルじゃいられない”、と、歌う。
メインユーザー層である若者に行動をうながすCMソングのメッセージは、手頃な価格(当時、VW 『ゴルフI』の最廉価仕様が約200万円だったのに対して約110万円)と、2ドアをメインに、すっきりというかんじでデザインされた外観でもって正当化された。
(3)ダイハツ「シャレード」(3代目)×久保田利伸『GODDESS ~新しい女神~』
久保田利伸といえば、テレビドラマ『ロングバケーション』(フジテレビ系列・1996年)の主題歌で、ナオミ・キャンベルが踊る『LA・LA・LA LOVE SONG』がもっとも知られている、ということに異論の余地はないだろう。
でも、それに先立つこと約10年、まだまだ若い“クボタ”の歌とともに、南の島の砂浜のようなところで金髪の男女のモデルとともに登場する3代目シャレード(1987年)のテレビコマーシャルもかなりのもの。眺めているだけで気持ちよかった。
このときダイハツでは「ツーサム」なる言葉を使い、2人用というイメージを強調。2ドア・ハッチバックのボディにパーソナル感を強く付与していた。ラインナップには4ドア・ハッチもあるし、4ドア・ノッチバックも、とオカネのあった時代だけあってボディバリエーションは豊富だった。2ドア・ハッチは“南の島とカップル”というイメージに惹かれる層だけ狙っていればよかったのだ。
シャレードは先代に「デ・トマソ ターボ」や「926ターボ」といったスポーティモデルを設定。それなりに評価を受けたため、3代目でも「GTti」という4バルブの3気筒DOHCにターボチャージャーを組み合わせたモデルを送り出した。エレガントなライフスタイルを訴求しつつ、いっぽうで走りも追求したのだ。
たしかにハンドリングもよくて、走らせて楽しいクルマだった。ただ個人的な印象としては、スタイリングがすこし重厚すぎるというか。かたまり感を出したのはデザインとしてはおもしろいけれど、サイドスカートまで車体色と同一にしたことで、重さを感じさせるのがタマにキズだった。
(4)三菱「ミラージュ」(2代目)×RCサクセション『ベイビー!逃げるんだ』
大ヒットした初代(1978年)につづき、1983年にフルモデルチェンジを受けたミラージュ。スタイリングはキープコンセプト。個人的に、初代のほうが、パワフルさがそれなりにうまく表現されていて好きだった。
2代目は当時の三菱車、たとえば「トレディア」や「コルディア」、初代「シャリオ」などとおなじく、直線定規を多用したような、あまり官能的とはいえないスタイリングである。もっともバランスがよかったのが、4ドア・ハッチだ。
ノッチバックセダンをみると、ホイールベースが先代と同一で、とりわけかわりばえしなかった。が、ハッチバックのホイールベースは80mmも伸び、居住性がうんと向上した。それでも2380mmしかなかったのだからコンパクトである。まぁ、日本の市街地での使い勝手には、このぐらいで十分なのだけれど。
テレビコマーシャルは故・忌野清志郎が登場。「ベイビー、逃げるんだ。」というキャッチコピーにあわせてダンスを披露していた。でも、キャラクターのイメージといい、このコピーの内容といい、はたしてこのミラージュとのマッチングがよかったのか、よくわからなかった。いまでもわからないが。
1987年まで作られたこのミラージュは、あまり強い印象を残していない。ミラージュ・シリーズのなかでは、初代と、カーブを多用したボディと高性能化でイメージを一新した1987年の3世代めがとりわけ記憶に残っている。
(5)横浜ゴム「ASPEC」×稲垣潤一『ドラマティック・レイン』
すごいテレビコマーシャルである。かなりマニアックな演出だ。レーシングドライバーにしてジャーナリストのベルギー人、故ポール・フレールが、BMW「6シリーズ」ベースのアルピナ「B9」をニュルブルクリングのコースで走らせる。それだけ。
撮影クルーの乗る車両が先行し、業界用語でいう”引っ張り”でムービーカメラをまわし続けている。そのブレが臨場感を高めている。でも一般的にはクルマ酔いしそうな映像だ。そして時速のカウンターが同時に表示される。
横浜ゴムは超がつくサーキット用の高性能タイヤ「アドバン」(1978年)で一世をふうびした。日本の技術力はクルマだけでなく、高性能車にとって、もっとも重要な部品のひとつであるタイヤでも、というのを誇らしく思えたものだ。
「アスペック」は、音のひびきこそアドバンに近いものの、快適志向のタイヤとして開発された。そのためにテレビコマーシャルでは快適性も重要な6シリーズベースのB9が使われたのだろうか。そのあたりのメッセージ性は希薄である。
楽曲は稲垣潤一の『ドラマティック・レイン』。男女と夜とクルマという情景が浮かぶ歌詞である。ドイツらしく曇天の下での撮影と雰囲気があっていて、歌詞との整合性を追求しなければ、作品としてはおもしろいテレビコマーシャルだった。
文・小川フミオ
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みんなのコメント
でも、それ以降のクルマCMって洋楽とかクラシック全盛になるんだよね…