クルマを選ぶにあたり、デザインや性能はもちろん重要だ。しかしそれらに加えて、乗る人に「ワクワク感」を与える、そんな魅力に注目してみるのはどうだろうか。ここではMINIクロスオーバー クーパーSEオール4とフィアット パンダ クロス4×4を乗り比べた。(Motor Magazine2021年4月号より)
単一車種名でなくブランド名に成長した「MINI」
「眺めているだけで、楽しいカーライフを想像させてくれるクルマ大賞」があるとしたら、今回扱う2台がミネートされるのは確実。これに異を唱える人は、世界中を探してもまずいないだろう。とはいえ「こんなに大きいともはやMINIじゃない」と、陰口が叩かれていることも事実だろう。MINIを4台も乗り継いできた私ですら、そう思ったくらいなのだから・・・。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
でもそれはまったくの食わず嫌いだったと、今では声を大にして言える。MINIはもはや単一車種名ではなく、ブランドの名前に成長したのだ。言うなればMINIは名字。「たとえば、太った細井さんとかと同じで、たまたまMINIが名字のクロスオーバーSUVなんですっ!」と、今ではそこら中で訴えているくらいで、それだけこの理論には自信がある。
大きくなったって、MINIの心を忘れたわけじゃない。MINIというブランドの真髄は「大真面目にふざける」だと、個人的には思っている。BMWの傘下に入って最初の新生MINIが登場した時、なにもかにもこんなに大きい必要ある?というくらいビッグサイズの、しかもまん丸の大きなスピードメーターがドーンと鎮座していたことは、皆さんの記憶にまだ新しいことだろう。と言っても、よくよく考えるとすでに20年近く前の話になるのだが・・・ 。
その間にMINIはすっかり成長し、いまやMINIクロスオーバーも2世代目となった。そこからさらにマイナーチェンジを果たしたのが、今回紹介するモデルとなる。このMINIクロスオーバーには、BMW X1やX2、MINIクラブマンと共通のアーキテクチャーが使われている。日本でのラインナップはディーゼルエンジンモデルが中心となるが、今回ご紹介するPHEVモデルも用意されている。
小改良にとどまるのは、もとの完成度が高い証拠
MINIはフルモデルチェンジしても、どこが変わったのかマニアにしかわからないのでは?と思うくらい、歴代モデルの「パッと見の違い」がわかりにくい。しかし今回は、リアコンビランプがユニオンジャック柄となったから、後ろから見れば誰もがすぐにわかるハズだ。
内装も、オプションのマルチディスプレイメーターが装着されていれば変わったことは一目瞭然。しかし、そのほかはルームミラーやナビゲーション選択時のダイヤルスイッチの形状変更、USBジャックの増設くらいの変化となり、とくにPHEVモデルは、他グレードでは変わったシフトノブも変わらなかったので、やはりパッと見ただけでは変化に気づくのは難しい。というように、マイナーチェンジ前のモデルのオーナーが羨むほどの変化はない。
でもそれは、登場した時からとても良くできていたからという証でもある。実際にこのクラスのライバルと比べると、リアシートがスライドする、ラゲッジルームにアンダーボックスがある、バックドアをキッキングモーションで開閉できるなど、機能的かつ実用的な装備が実はあれもそれもこれも付いてる。こういう具合に、このクラスのSUVの中でとくに充実度が高いのがMINIクロスオーバーだったりする。
まぁ、どれだけ悪路を走ったかをカウントするメーターとか、光の色を変えることでクルマと対話している気分になれる機能など、クルマを走らせる上では必要のない機能まで付いているし、ラゲッジルームの保護カバーを兼ねたベンチなんていう、他のクルマでは見たことのないものまでオプションで用意していたりするが、こういったところこそがMINIの真骨頂。このクルマでトコトン遊んで欲しいという、作り手の思いが伝わってきて、もはやクルマという乗り物の枠を超えて、ペットのような存在にさえ思えるようになってくるのだ。
ところが、そういうおふざけを盛り込みつつ、大真面目にちゃんと走るのがMINI。とくにこのPHEVモデルは10kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーの重量を、上質な重厚感に転化させているようだ。同時に重心高も下がるので、高すぎない全高(ルーフレールを外したら1550mmくらいしかないはず)と相まって、MINIの代名詞ともなっている、地面を這うようなオンザレール感覚やゴーカートフィーリングのコーナリングを具現化している。とはいえ、ほかのMINIシリーズに比べると最低地上高も高めなので、足まわりのストローク感を感じることもでき、普段使いに対応する乗り心地の良さも十二分に保っているのは巧い。
さらに、PHEVモデルならではの、アクセルペダルを踏んだ時のダイレクト感がまた良い。ディーゼルエンジンモデルのトルクの太さも捨てがたいのだが、特に再加速時などのレスポンスの良さは「さすがはモーター!」という感じでタイムラグがなく、クルマとの一体感が高まるのだ。そう、MINIクロスオーバーは、カワイイ顔してかなり無敵のヤツなのである。でも! 顔だけならコイツもかなりイカしている。それがフィアット パンダ クロス4×4だ。
4WDのパンダは見た目も駆動メカニズムも個性的
パンダ クロス4×4は、日本では150台限定だが、パンダ4×4は初代から設定されている、長い歴史を持つモデルである。まずビックリしたのは最低地上高だ。パッと見、200mmは軽くありそうに見える。小さい本格派4WD車の代名詞、スズキ ジムニーばりに悪路走行もこなせそう。只者じゃない感じが漂う。
事実ノーマルのパンダの四隅を丸めた円「スクワークル」をモチーフにしたキュートな感じとはまったく違い、いかつささえ感じるほどハードにまとまっている。オマケに6速MTと4WDのコンビネーション。これを選べるのではなくて、これしかないのだ。
限定モデルだからこそできたのかもしれないが、今時この選択は潔い。そしてこのクルマはMTだからこそ面白いのだと思う。というのも、エンジンが直列2気筒の875ccマルチエアインタークーラー付きターボだからだ。
このツインエアエンジンはフィアット500にも搭載されているが、ドコドコと走るのがちょっぴりレトロな感じもあり印象的だ。パワー感は軽自動車以上、リッターカー以下くらいの感じで、お世辞にも力があるとは言い難い。だからこそ、自分のタイミングでシフトチェンジしつつ走るのが愉しいのだ。これがもし、CVTとかだったら、物足りなさが際立ってしまったはず。MTだからこそ、走りも面白いクルマとして成立しているのだ。
実際、乗ると楽しい。速く走ろうなんていう気にはあまりならないけれど、高速道路でも少しゆとりを持ちながら流れには乗れるので、不満も首をもたげてはこない。それよりも、なんだか不思議とワクワクしてきてしまうのだ。シルクのようなエレガントさはないけど、肌触りの良いコットンの服を着たような感じと言えばいいだろうか。この味わいの深さは、飽きずに長く楽しめる気がする。
4WDのモードは、「オート→オフロード→ヒルディセントコントロール」という3つが用意されているので、高めの最低地上高と併せて、今回は試すチャンスがなかったオフロードも楽しめる予感がする。4WDとしては軽量な1150kgの車重を活かし、雪道などでも相当遊べるに違いない。
そう! ポイントはココ。MINIクロスオーバーもパンダ クロス4×4も「このクルマと一緒なら、きっとこういうことができるんだろうな~」と夢を思い描かせる力がピカイチなのだ。そしてこれこそが、クルマにいちばん大切な性能なのは間違いない。(文:竹岡 圭/写真:永元秀和)
MINIクロスオーバー クーパーSEオール4主要諸元
●全長×全幅×全高:4315×1820×1595mm
●ホイールベース:2670mm
●車両重量:1770kg
●エンジン:直3 DOHCターボ+モーター
●総排気量:1498cc
●最高出力:100kW(136ps)/4400rpm
●最大トルク:220Nm/1300-4300rpm
●モーター最高出力:65kW(88ps)/4000rpm
●モーター最大トルク:165Nm/3000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・47L
●WLTCモード燃費:14.8km/L
●タイヤサイズ:225/50R18
●車両価格(税込):510万円
*システム全体で最高出力35kW(224ps)、最大トルク385Nm
フィアット パンダ クロス4×4主要諸元
●全長×全幅×全高:3705×1665×1630mm
●ホイールベース:2300mm
●車両重量:1150kg
●エンジン:直2 SOHCマルチエアターボ
●総排気量:875cc
●最高出力:63kW(85ps)/5500rpm
●最大トルク:145Nm/1900rpm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・35L
●WLTCモード燃費:16.4km/L
●タイヤサイズ:175/65R15
●車両価格(税込):263万円
[ アルバム : MINIクロスオーバーとパンダクロス4×4 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
見出だし、そのターゲットに売れる商品を作って新しいユーザーを獲得し続けている印象です。
既存のユーザーの囲い込みを重視していないぶん、周囲のミニユーザーは、皆さん他のブランドに乗り換えられてしまいました。
元オーナーのお話で忘れられないエピソードは、「現行モデルになる前は整備で持ち込んでも個性豊かなクルマが多く見ていて飽きなかった。今ではノーマルをそのまま乗っている方が多く、個性を感じなくなった。BMWやAudiに行ったときと同じ雰囲気で、単なるクルマになってしまった。それに気付いた時、もう、ミニは自分のようなユーザーを受け入れてくれるブランドではないのだと感じ、乗り換えを決めた」という話をされていました。