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ポルシェ718ボクスター購入顛末記 第25回──「初トラブルと、イヤな予感」

掲載 更新 29
ポルシェ718ボクスター購入顛末記 第25回──「初トラブルと、イヤな予感」

『10年10万キロ・ストーリー』の著者によるポルシェ986ボクスターから718ボクスターへの買い替え顛末記の今回は、パンクの次にやってきたトラブルについて。なにが起きたか?

ドアを開けると……

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購入から2年半を過ぎ、わが718ボクスターは快調に走り続けている。前回のリポートで報告したパンクは予期せぬトラブルだったが、実はその後にもうひとつトラブルが発生した。幌の内部の何かが切れて、そのヒモが垂れ下がってきたのである。

パンクと違って、クルマそのものに由来するから心配になった。718ボクスターの幌は1枚の布が張られているだけの単純なものではない。布は表用と裏の内張り用の2枚が張られ、その間には骨組みや開閉メカニズム、さらには補強のための天板も組み込まれ、複雑な仕組みになっている。

718ボクスターの前に乗っていた986型ボクスターも電動開閉式の幌を備えていたが、ヒモが垂れ下がってくるようなことは起きなかった。

いったい何があったのだろうか?

ヒモの先端は、切断されたように繊維がボワボワッとほつれている。ソッと引っ張ってみるが、何も起こらない。何かが引き出されてきたり、幌のどこかが引っ張られるような様子も認められない。その位置で止まるだけだ。

そして、開閉は支障なく作動している。

だったら、構わないではないか!?

気にしないで乗り続けていればいい。どちらにしろ、数カ月後に車検でディーラーの工場に預けるのだから、その時に一緒に診てもらえばいいではないか!?

そう思ったものの、乗るたびにドアを開けるとヒモがブラーンとちょうど眼の前に垂れ下がっているので気になって仕方がない。

「幌のどこかのヒモが切れました。このまま乗り続けても大丈夫でしょうか?」

ディーラーの担当者に画像付きでショートメールを送った。返信はすぐに来た。

「拝見してみないとわかりません」

そうとしか答えられないだろう。考えていても仕方がないので、ディーラーに向かった次第である。

ディーラーであるポルシェセンター浦和では、メカニックの岡田 大さんが準備をして待っていてくれた。

「切れたのは、内張りを含めた内装をピンッと張るためのヒモです」

パイソングリーンも鮮やかな718ボクスターGTS 4.0の展示車を例にして岡田さんが説明してくれた。

「718ボクスターでは、幌を閉めると天井の内張りがシワなくきれいに張られますが、そのために端をヒモで引っ張っているのです。そのうちの1本が切れたようですね」

内張りの最も外側の部分が折って縫われ、袋状になっている部分の2ミリぐらい内側にヒモは通されている。内張りの奥の方から伸びてきたヒモの先端は折り畳みのアームに組み込まれた可動パーツに固定されている。固定する際に、ヒモの先端にマッチ棒の頭ぐらいの大きさの金属がかしめられていた。切れたのはその部分だった。

内張りを張るためのヒモが切れても、内張りがダランと垂れ下がってきていたわけではなかった。

「ええ。内張りも幌と一緒に開閉メカニズムによって引っ張られながら閉められて固定されますので、垂れ下がるまでにはなりません」

あくまでも補助的なもののようだ。

「このままにしておいても、ダラリと垂れ下がってくるまでにはならないです」

しかし、せっかく来たのだからと手際良く交換してもらった。部品代や工賃などは、新車から3年を経過していないので保証によって無償で済んだ。

幌はフクザツです

以前に僕が乗っていた986型の白いボクスターの幌のことを思い出してみると、718ボクスターの幌は大きく変わっている。986型もキャンバス製の幌で、内張りや天井部分に天板が挿入され、電動で開閉するという基本は変わらない。しかし、986型は電動で開閉できても、幌をウインドスクリーンに固定するためのロックは最後にガッチャンと手でレバーを締めなければならなかった。それに対して、718ボクスターはロックも電動で、センターコンソールのレバーを引き続けているだけで一緒に施錠され、開ける時には解錠される。

「自動で最後のロックまでできるようになりましたから、利便性は向上しましたね」

岡田さんによれば、利便性の向上と同時にカッコ良く見せるようになったのだともいう。

「例えば、このロールバーサイドのトリムカバーです。986型では中のメカニズムが剥き出しになっていましたが、718にモデルチェンジしてからはカバーが付いて、内臓物を見えなくしています」

たしかに、シートの後ろのちょうどシートベルトが固定されているところの10センチ四方ぐらいが剥き出しだった。運転中に眼に入ることはないけれども、幌を下ろしてクルマを降りると内部が良く見えた。

「商品性向上のためにカバーが被さるようになりました。そのために、細かいリンクやワイヤーなどが増えましたね。開閉システムには各種のセンサーなども備わっています。986型と較べて、幌の内部はとても複雑になっています」

986型ボクスターは当時の911カブリオレに較べても、シンプルな良さがあった。ただ、シンプルであるがゆえなのだろうけれども、走行中の開閉ができないのが一番の不満だった。718ボクスターではそれが可能となり、幌が小型であることを活かして、開閉時間は911カブリオレの約半分の11秒と短く、とても好ましい。

今回はヒモの端が切れただけで済んだけれども、今後は複雑な開閉システムにトラブルが起きないとも限らないことは忘れないでおこう。

ポルシェに限らず、最近のクルマは3年未満ではトラブルが起きることなど想像しづらい。デジタル制御される領域が増えるに従って、デジタルは「0か1」だからトラブルというよりも、まったく作動しないか問題なく作動するかの違いで、その部分のパーツを交換してしまえばまた動き出す。

アナログが司っていた時代のクルマのような「コンディションのグレーゾーン」が少なくなっていっている。その良し悪しは措くとして、岡田さんに確かめておきたいことがもう一つあったのだ。

それは、ドライバー側のサイドシルに設けられている前後のトランクの開閉レバーのことだ。雨天時にドアを開けると、幌を伝わって雨が盛大に落ちてくる。雨樋がなく、前述した幌の縁の部分を雨水が伝わって、ウインドスクリーンとの境目のところから落ちてくる。その位置が、開閉レバーのちょうど真上なのである。位置が最悪だ。開閉レバーの下や奥には可動部分やレバーの動きを電気信号に変換する回路などが存在しているはずだから、こんなにジャージャーと落ちてくる雨水を受け続けたらトラブルが起こらないはずがないではないか?

と、まくし立てたら、岡田さんは認めた。

「たしかに、その可能性はゼロではないですね」

718ボクスターの開閉レバーの位置は良くない。986型では、同じように開閉レバーはシート脇のサイドシル上に設けられていたが、718よりも10センチぐらい後ろ側だったので幌から落ちてくる雨水に攻撃されることはなかった。大雨でなくても、幌に落ちた雨滴が集まり、大袈裟でなく滝のように開閉レバーに向かって落ちていく。ポルシェは開発中に確認しなかったのだろうか?

完璧主義を標榜していると自他ともに認めているポルシェらしくないケアレス・ミスではないだろうか?

将来、開閉レバーの接触不良でトランクが開けられなくなることがないことを祈るばかりだ。

文・金子浩久

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