■運転支援技術「グラウンド・トゥルース・パーセプション」とは
現在、市場に投入されている自動車運転技術は「高速道路の単一車線の運転支援技術」となりますが、その先は「一般道の……」を目指しています。
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しかし、高速道路と比べると複雑なシーンが多いため、安全のために必要な要件の“明確化”が必要となります。
世の中で起こり得る複雑な事故を回避するひとつの突破口が、日産の「グランド・トゥルース・パーセプション技術」になります。
何がすごいのか。ズバリ、運転に必要な認知・判断・操作のうち、「認知」のレベルを飛躍的に高めたことでしょう。
自動運転技術で人間の「目」に当たるのがセンサーですが、グランド・トゥルース・パーセプション技術のキーとなるのが、大幅に性能を引き上げた「次世代LiDAR」になります。
LiDERとは「light detection and ranging(=光により検知と計測)」の頭文字をとった言葉で、光を用いたセンシング技術です。
もう少し解りやすくいうと、リアルタイムに3Dプリンターのように空間の構造や物体の形・位置を正確に再現可能なセンサーといったらいいでしょう。
実は「スカイライン」で初採用されたプロパイロット2.0発表時に、日産のAD/ADAS先行技術開発をおこなう飯嶋俊也氏は「現時点では、レーダーとカメラの性能を超えるパフォーマンスのLiDERは存在しないので使っていません」と語っていましたが、今回はメインのセンサーとして活用しているのは、「検知距離・検知範囲・分解能(測定の細かさ)共に大幅に向上したため」と語っています。
ちなみにタッグを組むのは自動運転向けLiDER開発では最先端を行くアメリカ・Luminar社です。
現状のLiDERは検知距離:100~150m、検知範囲:5~10度、分解能:0.1~0.25度に対し、この次世代Liderは検知距離:300m、検知範囲:25度、分解能:0.05度とレベルの違いが解るでしょう。これによりLiDER本来の利点を発揮することができるようになったのです。
この次世代LiDERとカメラ、レーダーのセンサーフュージョンにより、周囲の物体の方位と座標を高い分解能で送れなく検出可能(ダイナミック・トラフィック・トラッキング)、遠方の障害物を捕捉可能(ロング・レンジ・ディテクション)、そして正確な周辺計測により自車両の進路/移動量の微小な変化の検出可能(ダイナミック・スラム)と、より高度な周囲の認知を可能にしています。
その情報から判断→操作となりますが、ここも瞬時におこなわなければ意味がありません。
ここはLiDERの能力(=正確な空間認識)を有効活用した日産独自のアルゴリズムを活用して、瞬時に状況判断と操作を可能にしているといいます。
今回、このグランド・トゥルース・パーセプション技術を採用したテストカー(スカイラインがベース)に同乗、自動で緊急回避操作をおこなうシーンを体験してきました。
これまで筆者(山本シンヤ)はさまざまなメーカーの先進技術を取材していますが、実は言葉だけでなくモノとして体験させてくれるメーカーは非常に少ないです。
もちろん競争領域は簡単には明かせないというのもありますが、日産は「開発途中でも見せる」という姿勢を以前から取っています。
もちろん「自信があるから見せる」という所もありますが、将来ビジョンが解りやすいので我々としては本当にありがたいです。もちろん「技術PR」の側面もあると思います。
テストカーのシステム構成はフロントの次世代LiDER/カメラ/レーダーに加えて、サラウンドカメラ×9、サイドレーダー×4、リアレーダー×2で構成されています。
次世代LiDERはルーフにタクシーの行燈のように装着されていますが、その理由は高い位置のほうが周りの検出がしやすいからです。
この辺りはテストカーならではといった風体ですが、当然、量産時には車両に上手にビルトインするように設計されるはずです。
体験したシーンは3つ。まずはダイナミック・トラフィック・トラッキングのデモです。
ひとつは突然目の前にバックしてきた車両が出現。車両は「ブレーキを踏んでも衝突する」と判断し自動でステアリングを切って対向車線へと回避と思いきや、その先には横断中の子供が存在するので、自動ブレーキで緊急停止という複雑な状況。
もうひとつは前方を走るクルマの先からトラックから外れたタイヤが迫ってくるのを自動でステアリングを切って回避と思いきや、目の前に飛び出てくるクルマとの衝突を避けるために自動ブレーキで緊急停止というこれまた複雑な状況です。
どちらもスキルを持ったドライバーでも回避は難しいタイミングで起こるアクシデントにありますが、車両はそんな状況でも躊躇することなく瞬時にクルマを安全な方向に正確に導きます。
これは是非とも後述の動画と合わせて見ていただきたいのですが、タイヤのスキール音からも緊急回避→急制動であることが解っていただけると思います。
ちなみにテストカーにはこれらのセンサー情報を可視化したモニターが装着されており、2回目のデモはそれをずっと見ていましたが、道の状況、クルマの飛び出し、歩行者の横断と目の前の状況がリアルタイムで認識されていることを確認できました。
■本当の意味での「ドアtoドア」を可能にするかも…
ふたつ目はロング・レンジ・ディテクションのデモです。
ひとつは高速道路のインターなどで目の前の車線が渋滞中→事前に車線変更、もうひとつは路上障害物を車線変更で回避になります。
普通に運転していれば当たり前の行為ですが、現在の運転支援デバイスではブレーキしか選択肢はなく。
しかし、グランド・トゥルース・パーセプション技術で300m先まで認識できているので、クルマは事前に車線変更を自動でおこなって回避をします。
モニターを見ていると、肉眼では車両が停止しているのかどうか、障害物なのかどうか判断が付きにくい遠い距離でもシッカリと認識していることが確認できました。
そして、最後はダイナミックスラムのデモです。ホテルの敷地内のアプローチのように地図が整備されていない道でも、正確な停車位置だけ入力しておけば、センサーが正確にリアルタイムに周辺検索を行ないながら自動で走行。本当の意味での「ドアtoドア」を可能にする技術といえるでしょう。
もちろん、これらのデモができたからといって「すぐに自動運転が可能」というわけではありませんが、今回のグランド・トゥルース・パーセプション技術により、日産の自動運転技術は次のステージに進み始めたのは間違いないでしょう。
ただ、これらの技術は普及しなければ意味がありません。
日産はこの技術の開発を2020年代半ばまでに完了させ、順次新型車へ搭載。2030年までに全ての新型車に搭載することを目指しています。
最後に飯嶋氏に「車両側の進化は自動運転に影響しますか?」と聞くと、「ハードの進化は自動運転技術の“操作”の部分に大きく影響しますので、もちろんYESです。さらにいうと電動化による応答性の高さも強みになるでしょうね」と答えてくれました。
つまり、電動化と電脳化の相性は高く、並行して開発を進めることが重要だということです。
「全個体電池」と「グランド・トゥルース・パーセプション技術」、個人的にはここ数年くすぶっていた感が否めなかった「技術の日産」が戻ってきたような気がしています。
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