スーパーフォーミュラ第6戦決勝20周目、3番手牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)とその背後につけたチームメイトの太田格之進、このふたりのこの周の選択が結果的に勝負の分岐点となった。この周の終わりに太田はピットインして逆転優勝を果たし、結果的にピットタイミングを29周目まで引っ張った牧野は3番手でフィニッシュ。そしてレース後には、この20周目の時点で牧野もピットインを希望してチームに無線で訴えていたことが判明し、波紋が広がることになった。
「どこまで(『SFgo』の)無線を聞いているかはわからないですけど、ピットのタイミングがポイントだったのは間違いない。僕は『アンダーカットさせてくれ』とずっと言っていた」とレース後の会見で戦略について話した牧野。
【動画】2026年スーパーフォーミュラ第6戦・第7戦富士予選&第6戦決勝ハイライト
20周目の時点で牧野は8番手から3番手までオーバーテイクで順位を上げていた。マシンのペースは速く、前を行く2番手の大湯都史樹(SANKI VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING)を追い詰めていたが、なかなか抜けない状況が続いていた。背後には、予選13番手から順位を上げてきたチームメイトの太田が迫り、太田はOTS(オーバーテイクシステム)を使って牧野に攻めかかるも、太田も牧野を抜けずにいた状況だった。
DANDELION RACINGだけでなく、ほとんどのチームで同じ2台が争っている場合、前を走っているマシンにレース戦略の優先権がある。この場合、牧野と太田がピットインを希望した場合、牧野が先に優先されることになるが、それが実行されることはなかった。『SFgo』を聞き返すと、ちょうどこのタイミングで担当の杉崎公俊エンジニアは牧野と順位を争っていた前の大湯、そして後の太田のOTSの状況を無線で説明しているタイミングだった。
「5号車に優先権があって、ちょうど雨が降ってきていて、この状況で(ピットインして)コールドタイヤで出て行くのはリスクがあるとドライバーと話をしていたのでステイしました。ストラテジーの失敗があった。(太田の)次の周に入ってもまだ勝負権はあったと思う。そこのジャッジができなかった」と、杉崎エンジニアは振り返る。
これはあくまで推測になるが『SFgo』で聞く限り、杉崎エンジニアが話しているタイミングで牧野がアンダーカットを伝えていたが、不運にも無線のタイミングが良くなく結果的に牧野の声はチームに届いておらず、時を同じくして牧野がステイすると判断したことで、太田車がピットインを実行することになった。
太田はその時の状況を以下のように振り返る。
「(牧野に)オーバーテイクを仕掛けようとしたけど抜ききれなくて、雨粒が止まると僕と牧野選手のペースの差はなくて、抜くチャンスはさなそうだった。雨粒が落ちている時にタイヤを替えるのはアウトラップのペースにも響きますし、その後に雨がドンと来ると先に入るのは正攻法ではなくなる。正攻法で行くのか、勝ちを狙って攻めるのかは正直、悩みましたけど、(20周目の)第3セクターでピットに入りたいということを無線でチームに伝えました。それに対してチームもすぐに反応してくれて、素晴らしいタイミングでピットに入れた」
太田車を担当する吉田則光エンジニア。
「ターゲットは(2周前にピットインしてピットを終えた最上位の)阪口晴南(SANKI VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING)で、あの時は一番、雨が弱い時だった。ホットタイヤ(タイヤが温まった状態)だと小ぶりの雨でも意外と平気だけど、小ぶりの雨でのコールドタイヤはロスタイムが一番大きい。それであの雨が弱い時に決めました」
つまり、太田と吉田エンジニアの見解が一致し、前を行く牧野車がステイしたことで、太田車はすぐにピットインのジャッジを実行することができた。
もちろん、牧野もすぐにその状況を察知して無線で話したわけだが……無情にもタイミングが悪く、その瞬間のその意図が伝わることはなく、結果的に終盤までピットタイミングを引っ張ることになり、3番手のままでフィニッシュとなってしまった。
「6号車(太田車)の状況はわからないですけど、状況としては雨が上がってきて、(大湯)都史樹に追いついて、都史樹を抜ききれなかったので、アンダーカットしたい。引っかかるくらいならアンダーカットしたいと。それはトップのザック(オサリバン)選手に対してもアンダーカットできると思っていた。クリーンエアになったら、絶対にペースがあると思っていた。まだチームと話していないので、どういう状況だったのかはわかっていないので、まだ詳しいコメントはできない」と、レース直後の牧野。
今季の牧野は未だ表彰台がなく、一方のチームメイトの太田がそれまで2勝を挙げてランキングトップに立っている中で、この富士での3戦は逆転チャンピオンに向けた背水の陣とも言える週末だった。その状況で、クルマの調子がよく、チームメイトよりも前を走っていた状況で逆転優勝を許してしまったことに、レース直後は大きなショックを受けていたことは明らかだった。
「信じられない……信じられない……マジで受け入れられない」
チェッカー後に無線で話す牧野。
「勝てるレースを落とした」
マシンを降りた牧野はヘルメットを取るとパルクフェルメ端まで歩き、しゃがみ込み、両手で顔を覆った。悔しさか怒りか、いずれにしても激しく涙を流している様子だった。「明日のレースに向けて切り替えろと言われても、今は無理です」と牧野。20周目に訪れた一瞬の判断、そして不運が、大きな遺恨を残すかたちとなってしまった。
[オートスポーツweb 2026年07月18日]
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