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な…なるほど!! ノーベル賞受賞者・吉野彰氏が語る「スタートアップ企業が成功する場所の5つの条件」と「危機感」【京都ZET-summit特別講演】

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な…なるほど!! ノーベル賞受賞者・吉野彰氏が語る「スタートアップ企業が成功する場所の5つの条件」と「危機感」【京都ZET-summit特別講演】

 2025年2月4-5日、京都府向日市にて、最新の脱炭素テクノロジー研究とスタートアップ企業の取り組みを知ることができる「ZET-summit 2025」が開催された。興味深い講演やセッションが盛りだくさんだったが、本稿では、特に興味深かった吉野彰氏(リチウムイオン二次電池開発で2019年にノーベル化学賞受賞)と西脇隆俊京都府知事の対談講演の様子をお届けします。吉野氏が語る「スタートアップ企業が成功する場所の条件」とは?

文:ベストカーWeb編集部/写真:寺田鳥五郎/取材協力:ZET-summit実行委員会(京都府、向日市、JR西日本、京都銀行)

な…なるほど!! ノーベル賞受賞者・吉野彰氏が語る「スタートアップ企業が成功する場所の5つの条件」と「危機感」【京都ZET-summit特別講演】

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ノーベル賞受賞者が語る「5つの条件」

「ZET-summit」とは、京都府が脱炭素社会へ向けて取り組む「ZET-valley構想」の一環のイベント。国内外の脱炭素テクノロジー(ZET:Zero Emission Technology)関連スタートアップ企業との協業、まちづくり・地域産業への技術実装をテーマに、産学公の関係者が一堂に会し、新たな交流と共創が生まれる場が提供される。

 このイベントの注目プログラムのひとつが「京都から日本のGAFAを」と題された特別講演。西脇隆俊京都府知事と、ノーベル化学賞受賞者である吉野彰氏(旭化成名誉フェロー)が、京都と新興企業について語り合う内容だった。

 この対談で吉野氏が「GAFAのような企業が生まれるのに必要な土壌」について語り、その内容が大変興味深かったので、以下、紹介したい。

「今日の対談のタイトル”GAFA”ということになっておりまして、いわゆるベンチャー的な形でスタートして、それが大きく育って、今や世界を動かしている企業についての話です。

 そういうような、新しい世界的企業が続々と同じ場所から出てくるというのは、世界でもごく限られたエリア、もっと具体的に言いますと、アメリカの西海岸、シリコンバレーだけです。では、なぜシリコンバレーからそういうものが次から次へと出てくるんでしょうか。

 これについて、私はどうも5つの条件がありそうだと考えています」

さすがに抜群に話がうまい、吉野彰氏(写真左)。リチウムイオン電池の開発者であり、世界のHEV、PHEV、BEVユーザーは恩恵に浴している。話を聞く西脇京都府知事(写真右)の受け方もお見事

「まずひとつめです。

 人が考えないような、何か新しい仕事、いわゆる知恵作りですね。これを支えるのは、やはり大学であり研究機関です。これがある地域でないといけない。シリコンバレーでは、やはりスタンフォード大学。あるいはSRI(Stanford Research Institute)、ああいった知恵袋が地元にありますね。

 ふたつめは、そういった知恵袋でアイデアが出てきたとして、それを形作るには当然資金が必要になります。資本、資金を提供する人たちが周りにいないといけない。

 この資金提供者には条件がありまして、お金というのは、ただお金を出せばいいというものではなくて、”ダメでもいいからやってみな”というようなお金の出し方をする人や企業がないとダメなんですね。”金を出すけど口も出す”みたいな出し方ではベンチャーは死んでしまいます。

 3番目、そういった新しい未来を思考する者たちには、集まって縦横無尽に未来を語り合う”場”がいります。当然そこにはお酒が必要になります。シリコンバレーの場合でいいますと、たぶん”ナパバレー”なんでしょうね。

 たぶんあそこで、スティーブ・ジョブズやスティーブン・スピルバーグなどがいろいろな思いつきを語り合って、そのうちいくつかが結び付いて形になったのだと思います。

 そして4番目、そういう未来を語る場があったとしても、言葉だけではなかなか未来は見えてきません。なにかこう、叩き台になるような、いわゆる”可視化”というんですか、”私の考える未来の姿はこうですよ”というのを絵にする、あるいは動画にする、そういった技術が必要になってくるかと思います。

 そういう時に、映像のプロフェッショナル集団が集うハリウッドがあって、これがシリコンバレーを支えるひとつの要因になっていたんだろうなと思いました。

 最後、5つめの要因ですが、シリコンバレーの最大の特徴は、ワシントン、ニューヨークから離れてることなんですね。政治や経済の中心から物理的に離れていないと、なかなかこういうスタートアップ企業というのは育ちません。

 以上、5つの条件をあげたわけですが、じゃあ、もし日本でそれに該当するような場所があるとすればどこですか、となったら、もう京都しかないでしょうね、というのが私の意見でございます」

 吉野氏の意見をまとめると以下のとおり。

【スタートアップ企業が成功するまで育つ場所の5つの条件】
(1)知恵を出せる研究・教育機関があること
(2)アイデアに(口は出さずに)お金を出す企業や篤志家がいること
(3)知恵やアイデアを語り合う場があること
(4)画像化、映像化、アイデアを可視化できる集団が近くにあること
(5)政治や経済の中心地から一定の距離があること

最近感じる「危機」と、若き起業家へ「肝に銘じて」と願うこと

 この「スタートアップ企業が成功するまで育つ場所の条件」は、吉野氏が数年前から語っている持論だそうだが、実は最近「危機感」を持っているという。以下、合わせてお届けします。

「ZET-summit」は京都府向日市にある「永守重信市民会館」で開催され、(昨年実績で)オンライン含めて参加者3000名、京都府内だけでなく全国から多くの企業が協業を狙って参加し、過去2回の開催実績で700件超のマッチング実績がある

「5年くらい前、私、京都府の西脇知事に、上記のとおり、スタートアップ企業として次々に成功させている場所は世界中でもシリコンバレーくらいですよ、日本でいうと京都ですよ、だから焦る必要はありません、そのうち出てきますよ、とお伝えしました。

 しかしですね、たとえば”タンパク質の立体構造を予測するAI開発”で2024年のノーベル化学賞を受賞したデミス・ハサビスCEOと研究チームのジョン・ジャンパー氏が務めるDeepMind(ディープマインド)社は、英国ロンドンに本社があります。

 ディープマインド社は創業2010年です。

 2014年にGoogleの親会社である「アルファベット」の傘下となって、ここらへんはさすがGoogleといえるんですが、それは置いておいて、2015年には囲碁の世界で「AlphaGo」を開発し、名人を破って話題になりました。

 この頃はまだ囲碁や将棋、つまり遊戯の世界で話題になっていたわけですが、それが10年でノーベル化学賞を獲るまでにに成長したわけです。

 それから2023年の生理学・医学賞は、メッセンジャーRNA(mRNA)を使った新型コロナウイルスワクチンの開発に道を開いた米ペンシルベニア大学のカタリン・カリコ客員教授とドリュー・ワイスマン教授に贈られています。

 この研究の基礎を支えたのは、ドイツのバイオ系ベンチャー企業であるビオンテック社です。創業は2008年。メッセンジャーなんてモノにならんよとバカにされながら研究を続けて、結果的にパンデミックで一気に世界的な知名度を得ることになりました。

 何が言いたいかと申しますと、今後もベンチャー企業発、アントレプレナー(起業家)発のノーベル賞受賞は続くでしょう、イギリス、ドイツからはもう出てきました、そう考えると日本だけちょっと取り残されていないか、という危機感があります。

 そのうち出てきますよ、とのんびり構えていたわけですが、世界情勢を見ると、もうすこし早くやってもらったほうがいいかもしれません、というのが本日の私の話したかったことです」

 上記の話を聞いていた西脇隆俊・京都府知事は「たしかに…」と学びを得つつ、「のんびりしていわけではなく頑張ってきたつもりなんですが、さらにスピードアップが必要だということがよくわかりました」と応じた。

 成長企業が生まれる土壌、背景、条件に京都がよく合っていることは間違いなく、また何かイベントを開けば世界中から人が集まってくれる魅力が京都にはある。

 そのための「場」をどう用意できるかが、今後の鍵となるだろう。

 イベントの最後に「若い起業家に向けて何かアドバイスを」と発言を求められた吉野氏が、これまた大変含蓄のあることを仰っていたので、以下に紹介して本稿を閉じたい。

「まず、新しいことをやろうとした時は、やっぱり夢と遊び心がないとなかなか前へ進まないと思います。どんな壁にぶち当たっても、その夢と遊び心だけは失わないようにお願いしたい。これがひとつ。

 それともうひとつは、皆さんがこれから新しいことをやろうとする時、必ず既得権益者が邪魔しますよっていうことを知っておいていただきたい。

 誰かが新しいことをやろうとすると、そんなことをやってもらったら困るという人が、いっぱい出てきます。絶対邪魔しに来ますので、ええ、必ず来ますよと、ちゃんとそれに備えておられますか、ということを肝に銘じて進めていただきたいなと思っております。はい」

 さすがとしか言いようがない。

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みんなのコメント

1件
  • ali********
    大学進学が前提のお話しですね。
    狭さを感じます。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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