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【マツダ MX-30】「光の動きを引いて、魂動デザインの壁を押し広げた」前田育男常務[インタビュー 前編]

東京モーターショー2019でマツダが発表した電気自動車『MX-30』。「あれ?」と思った人は少なくないだろう。最新の『マツダ3』や『CX-30』とは、デザインのテイストが明らかに違う。筆者の印象を言えば、ネコ科肉食動物ばかりだった魂動ファミリーに「おとなしい犬」が加わったかのようだ。

その真意はどこにあるのか? マツダのデザインを率いる前田育男 常務取締役(デザイン&ブランドスタイル担当)にインタビューした。

◆魂動の表現の幅を立体的にする

前田氏は2年前の2017年、コンセプトカーの『ビジョン・クーペ』のデビューに際し、魂動デザインを次世代に進化させるテーマとして、日本の美意識である「反り」、「余白」、「移ろい」の3つを掲げたのだが…。

「今回のMX-30のデザインは、ビジョン・クーペのときに言った3つのテーマとはシンクロしていないんです」と前田氏。マツダ3やCX-30で新世代商品群が始まったばかりだというのに、早くもそれとは違うことをやり始めたとは驚きだ。

3つのテーマとは別に、魂動デザインには「艶と凛のブックエンド」という戦略がある。これについてはレスポンスの『「マツダ3」から始まる新世代車は「凛」を極めることができるか』で詳説したが、それをご覧になっている前田氏は「凛がちょっと足りないと指摘されていますけど」と前置きしつつ、こう語った。

「艶と凛という2つの方向性をあの2台(15年のRXビジョンと17年のビジョン・クーペ)で表現した。ブックエンドの幅(=魂動の表現の幅)をもっと広げていきたいと思う一方で、今回のMX-30は縦に延ばしてみたんです。艶でも凛でもない方向で、新しい引き出しを開いてみよう、と」。

もともと魂動デザインにはダイナミズム=「動」、妖艶さ=「艶」、凛とした佇まい=「凛」というキーワードがある。「動」を基本に、車種ごとに「艶」と「凛」の表現比率を変えてそのクルマの個性を打ち出す。表現の幅を本棚に喩えて、本棚の端に位置すべきデザインを「ブックエンド」と呼んだわけだ。

量産車でいえば現在、マツダ3のファストバックが「艶」のブックエンド、同セダンが「凛」のブックエンドに位置している。本棚の真ん中付近は『CX-5』や『CX-8』。CX-30は「艶」に寄ったところにいる。

◆ブックエンドを押し広げる難しさ

この本棚をメタファーにしたデザイン戦略には、実は先例がある。00年代にBMWが展開した「ブックシェルフ・コンセプト」だ。当時BMWのデザインを率いていたクリス・バングルは02年の初代『Z4』と01年の4代目『7シリーズ』を「ブックエンド」とし、03年の5代目『5シリーズ』を本棚の真ん中に置いた。そして06年に3代目『X5』が登場したとき、それが本棚のどこに位置するのかをバングルに問うと、「本棚の奥行きを広げた」との答えだった。

ブランドを確立するためにはデザインの一貫性が必要だが、車種ごとの個性も大事。それを両立させるのが、本棚という概念だ。ひとつの本棚に載る=一貫性、その本棚のどこに位置するか=車種の個性…である。

しかし車種ラインナップが多様化するにつれ、2次元的な幅だけでは対応しにくくなる。そのきっかけが、BMWではX5に始まったクロスオーバー系Xシリーズの展開であり、マツダにおいては初の電気自動車のMX-30だったのだろう。

だがマツダには、もうひとつの事情もあったようだ。「艶と凛という2つの方向をそれぞれ突き詰めていくと、壁に当たり始めるんです。その方向で押しても、なかなか次の答えが出ない」と前田氏。

そこで、「いったん違う方向のデザインをやってみて、何らかの発見があれば壁を押し広げることに役立つのではないか? それにチャレンジしなくてはいけないという境地に達して、MX-30をデザインしました」。

振り返ればBMWは本棚の幅を広げることができないままバングルが引退し、「ブックシェルフ・コンセプト」を葬り去った。ブックエンドとはその時点の限界ギリギリ。それをさらにプッシュしながら量産車として需要を獲得する難しさは、容易に想像できるところだ。

◆光の動きを引いても命は宿る

前田氏はMX-30で「本棚の幅を縦方向に広げた」。もう少し具体的な説明を求めると、「実はこれ、光の動きを引いたんです」とのことだ。

「反り」、「余白」、「移ろい」という3つのテーマの背景にあるのが、同じく日本の伝統的美意識である「引き算の美学」。要素を引き算しながら、ショルダーに延びる強いハイライトで「反り」を見せ、その下の研ぎ澄まされた「余白」に、クルマが動くにつれて映り込みが変化する「移ろい」を宿す。マツダ3とCX-30はそこにチャレンジし、それぞれ異なる答えを見出した。

「反り」はハイライト、「移ろい」は映り込みだが、どちらも光の動きで表現するもの。MX-30はそれを引き算した。ショルダーにハイライトが走るが、その「反り」はかなり控えめだ。マツダ3やCX-30ではS字を描く映り込みで「移ろい」を強調したが、MX-30にそれはない。

「我々がメインでフォーカスしていた光の動きを引き算した。それを引いたら、何も残らないかもしれないし、何かが残るかもしれないと思いながらね。ただ、とにかく立体を手できちんと造り込む。そこは今回も変わりありません」。

光の動きを引いてみて何が残ったのか? 魂動デザインが目指すのは、クルマのカタチに命を与えること。冒頭に述べたように、MX-30を見て筆者は「おとなしい犬」を想起した。それはつまり、従来のネコ系の魂動デザインとは違う生命感を感じたということだ。「反り」や「移ろい」を強調しなくても、カタチに命は宿る。

「その通り。そこがこのMX-30のいちばん大きな成果です。MX-30の商品コンセプトは『自然体』。お客様が自然体でいられる時間と空間を提供したいクルマなので、肩が凝らないデザインにしたい。光の動きを研ぎ澄まそうと思うと、どうしても緊張感が出てくるので、それも引き算しました」。

◆魂動の未来はさらに広がる

MX-30で本棚を縦方向に延ばしたとはいえ、あくまで魂動という本棚であることに変わりはない。内燃機関車の魂動とEVの魂動で、デザイン表現を変えようとは思わなかった?

「それも考えたのですが、やめました。欧州メーカーがやっているように、EVに新しいネームプレートを付けてサブブランドにして…というのも、最初に少しは検討したんです。でも、マツダの企業規模でそれをやっても意味はない。それよりもこのMX-30がEVであることをきっかけに、魂動の表現の幅を縦に広げたいと考えました」。

ということは、今後は内燃機関車でも表現の幅を縦に広げるものが登場してくるかもしれない? そう問うと、前田氏は即座に「それはありですね」と答えた。これは面白い。それに加えて、MX-30で得たノウハウが本棚を横方向にプッシュすることに役立てば、魂動デザインの未来は大きく広がりそうだ。

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