いまや国産車では珍しい駆動方式に
【Q&A】もはや昔話︎ ベテランライダー憧れの「ナナハン」は、なぜ消えた?【バイクトリビア013】
BMWやモト・グッツィなどが積極的に採用しているシャフトドライブは、頑丈そうなルックスだけど一般的なチェーンより何だか構造が複雑そうだし、重そうな感じもする……。バイクに採用されている理由って何ですか?
バイクの後輪、どうやって回してる?
現行バイクのほとんどが後輪駆動。そしてエンジンが後輪を駆動する方法はチェーンが主流で、双璧を成す……まではいかないかもしれないが「シャフトドライブ」もけっこうメジャーだ。
とはいえシャフトドライブは、なんとなく外国車やツアラータイプ専用の駆動方式……というイメージかも。そこでハーレーなどが採用するベルトドライブも含めて、まずは代表的な駆動方式によるメリットとデメリットを簡単に挙げてみた。
チェーンドライブ
―― メリット:最終減速比の変更が容易、汎用性が高い、製造コストが安い
デメリット:定期的なメンテナンスが必要、ライフが短い、騒音が大きい [写真タップで拡大]
シャフトドライブ
―― メリット:耐久性が高い、ほぼメンテナンスフリー、静粛性に優れる
デメリット:最終減速比の変更が困難、トルクリアクションが発生する、重い、製造コストが高い [写真タップで拡大]
ベルトドライブ
―― メリット:チェーンのように伸びない、ほぼメンテナンスフリー、静粛性に優れる
デメリット:異物等の噛み込みで切れる可能性がある、最終減速比を変更しにくい [写真タップで拡大]
この他にも重要な項目として「伝達効率」の違いがある。じつはチェーンドライブは損失が5~10%ほどあり、シャフトドライブは約2%と言われる。となると、同じエンジン出力のバイクなら、理屈の上ではシャフトドライブ車の方が速いということになる……が、スーパースポーツやレーシングマシンには採用されない。
これは前述のように最終減速比の変更が困難なのと、マニアックなところではスイングアームのピボット部の高さを調整しにくい、というのも要因。これはハンドリングやアンチスクワットなどを設定するのに重要なポイントだ。
とはいえレースに出ない市販車なら、伝達効率が良い=燃費が良い、というだけでもシャフトドライブの方が有利なハズ……なのだが、ここは製造コストが影響する。シャフトが後輪を回す部分のファイナルドライブギヤは、精密な加工が必要な「まがりばかさ歯車」が使われることも多く、チェーンやスプロケットと比べるとかなり高コスト。そのため高額なモデル(豪華なツアラーやクルーザー系)でないと採用しにくいのだ。
シャフトドライブの歴史は意外と古い
バイクの駆動方式を歴史的に見ると、ごく初期の自転車にエンジンを積んだようなモデルは、自転車と同様にチェーンドライブが多かった。当時は「革ベルト&プーリー」の方式も少なくなかったが、エンジンの馬力が二桁になる頃には、このタイプは消滅した。
そしてシャフトドライブの登場は意外と古く、1900年代初頭には存在した。当時はクランク軸を車体に対して縦方向に配置した「縦置きエンジン」のバイクが次々と登場し、シャフトドライブは縦置きエンジンと相性が良く、技術的にも、四輪車では一般的な駆動方式だった。
ちなみにスポーツバイク用のベルトドライブは比較的近代の1980年頃から。これはスチールやケブラーなどのコードを織り込んだコグドベルトの登場とリンクしている。
―― FN
銃器で有名なベルギーのFN社は、1900年代初頭から縦置きエンジンのバイクにシャフトドライブを採用していた。写真は1913年の4気筒500ccモデル [写真タップで拡大]
四輪車はシャフトドライブが主流
―― かつて主流だったFR(フロントエンジン・リヤドライブ)は、縦置きのエンジンから長いドライブシャフトを経て後輪を駆動。縦置きエンジンのバイクは、基本的に同じ構成だ。 [写真タップで拡大]
縦置きエンジンといえばシャフトドライブ
縦置きエンジンといえばBMW(Rシリーズ)やモト・グッツィが有名で、これらはもちろんシャフトドライブを採用。ホンダのフラッグシップであるゴールドウイングも、初代から現行モデルまでシャフトドライブだ。
縦置きエンジンでチェーンドライブ(またはベルトドライブ)は、市販量産車ではおそらく存在しない。ところがアメリカのボスホス(四輪車のV8やV6エンジンを搭載)や、同系統のカスタム車は縦置きエンジンにもかかわらずチェーンやベルトドライブが多い。
ちなみにシャフトが後輪を回す部分を、四輪車に倣って「デファレンシャルギヤ」とか省略して「デフ」と呼ぶことも多いが、これは間違い。デファレンシャルギヤは四輪車の左右のタイヤがカーブを曲がる時の回転差を吸収するための「差動歯車」のことなので、後輪がひとつしかないバイクには必要ない。バイクメーカーによって多少異なるが、一般的に『ファイナルドライブギヤ』が正しい呼び方だ。
BMWといえばフラットツイン&シャフトドライブが定番
―― BMWの水平対向エンジンは、クランク軸もトランスミッションの軸も車体に対して縦方向に配置されるので、そのままドライブシャフトを連結できて効率が良い(エンジン写真は水冷化以降のミッション一体式構造になったもの)。かつての縦置き並列4気筒(または3気筒)のKシリーズもシャフトドライブを採用した(写真はR nineT)。近年はエンジン型式や車種のジャンルが広がり、チェーンドライブやベルトドライブを採用するモデルもある。 [写真タップで拡大]
縦置きVツインエンジンのモト・グッツィもシャフトドライブ
―― モト・グッツィは1950年代のワークスレーサーにシャフトドライブを採用し、1960年代に登場した縦置きV型2気筒のV7以降、ずっとシャフトドライブを使い続ける。写真はV7 Special。 [写真タップで拡大]
ホンダのフラッグシップもシャフトドライブ
―― 1975年に北米で販売を開始したゴールドウイング。999ccの水冷水平対向4気筒エンジンやシャフトドライブなど、ホンダの従来モデルとはまったく異なる機構を満載。当初はスポーツモデルの頂点としての位置づけだったが、徐々に長距離スポーツツアラーへとコンセプトを変えた。現在は国産メーカーが国内販売する数少ないシャフトドライブ車だ。 [写真タップで拡大]
市販量産車最大排気量もシャフトドライブ
―― トライアンフ ROCKET 3
直列3気筒2457ccが生み出す22.5kg-mの途方もない大トルクを、240サイズの極太の後輪にシャフトで伝達。 [写真タップで拡大]
横置きエンジン車もシャフトドライブを採用
1970年代頃からバイクの大排気量化や高出力化が顕著になり、欧米では高速・長距離ツーリングがメジャーになってきた。すると(当時の)チェーンの耐久性が問題になり、メンテナンスの手がかからないシャフトドライブが注目され、横置きエンジンのバイクへの採用も拡大した。
80年代に入ってもその傾向は続き、国産メーカーも多気筒の大排気量車だけでなく、中型アメリカン(ホンダのNV400、ヤマハのドラッグスター400、スズキのイントルーダー400、カワサキのエリミネーター400など)も採用。ヤマハは50ccのファミリーバイクにもシャフトドライブ車があったほどだ。
巨大なパワーをシャフトで伝達
―― 1978年 カワサキ Z1300
1978年に登場した水冷6気筒1286ccの巨艦。当時、世界的にシャフトドライブが注目されており、大パワーに対処する必要もあり、さらにカワサキは社内にシャフトドライブを製作する技術と設備を持っていたので迷わず採用。この後もZ1000STや750GT等のツアラーモデルにシャフトドライブを装備した。 [写真タップで拡大]
―― 1976年 ヤマハ GX750
長距離ツーリングを好むヨーロッパからの要請もあり、耐久性に優れるシャフトドライブを採用。当初は動力を伝えるベベルギヤのユニットを西ドイツのゲトラグ社からアッセンブリーで購入し、設備やノウハウが揃った後に自社生産に移行した。
―― 1979年 スズキ GS750G
スズキ初の4ストロークのナナハンGS750をベースに、メカニカルダンパーでショックを吸収する機能を持たせたスズキ独自のシャフトドライブを採用し、メンテナンスフリーを実現したツアラー。当時のスズキは、車名末尾にGが付くとシャフトドライブだった。
―― 1984年 ホンダ CBX750ホライゾン
静粛性に優れ低振動なシャフトドライブをはじめ、油圧式バルブクリアランス自動調整機構やブラシの交換が不要なブラシレスACジェネレーター、油圧式クラッチなど各部でメンテナンスフリー化を促進したスポーツツーリングバイク。
―― 1985年 ヤマハ VMAX1200
ドラッグレーサーをイメージさせるマッチョなスタイルに、当時としては破格の145psを発揮するV4エンジンを搭載。大パワーに対応し、シャフトドライブを採用。
デメリットを克服し、美しさも追求するBMWのシャフトドライブ
シャフトドライブはスロットルを開けると車体後部が持ち上がり、スロットルを閉じると車体後部が沈む「トルクリアクション」という特性があり、この独特な癖を好まないライダーもいる。そこでBMWはダブルジョイントのシャフトと、ギヤケースにスイングアームと並行するトルクロッドを設けた「パラレバー」を1980年代後半に考案し、トルクリアクションを大幅に軽減することに成功した。
構造は異なるが、カワサキが近年まで生産していたスポーツツアラー1400GTRのテトラレバーリヤサスペンションや、トライアンフの現行タイガー1200のトライリンクスイングアームも、トルクリアクションを抑制する機構だ。
またシャフトドライブは重量がかさむのもデメリットとされているが、片持ち式のスイングアームにシャフトを内蔵するなどして構造を簡素化したり、近年はファイナルドライブギヤやギヤケースもコンパクト化することで、初期のシャフトドライブより軽量化も進んでいる。
ルックス的にもシャフトドライブはゴツい印象があるが、BMWのR18は美しいニッケルメッキのシャフトを敢えてオープンタイプにすることで力強さと美しさを演出している。
―― スイングアーム(シャフト)と並行したトルクロッドを設けたBMWのパラレバーシステムは、スロットルを開けた際に車体後部が持ち上がる「トルクリアクション」を抑制する。
―― イラストはBMWのK1600のドライブシャフト周り。片持ち式のスイングアーム内にシャフトを収め、ファイナルドライブギヤもコンパクトなため、重量はかなり抑えられている。
―― 2020年 BMW R18
最新技術で開発した1802ccの空油冷水平対向2気筒エンジンを搭載するクラシカルなデザインの大型クルーザー。オマージュしたR5や初期のRシリーズ同様に、ドライブシャフトは敢えて剥き出しで、ニッケルプレートメッキを施した美しいシャフトが回転する姿を見ることができる。 [写真タップで拡大]
海外勢は旺盛だが、国内のシャフトドライブは……
外国メーカーは縦置きエンジンに限らず、BMWのK1600やトライアンフのタイガー1200など横置きエンジン車にも、最新技術のシャフトドライブを採用。対する国産の現行モデルは、実質的にホンダのゴールドウイングのみと寂しい状況。近年までホンダのVFR1200やヤマハのVMAX1700などの大型モデルではシャフトドライブ車が存在したが、ほとんどが生産終了した。
そもそも近年は国内メーカーの縦置きエンジン車は、ゴールドウイングくらいしか存在しない。また70~80年代頃と比べ、チェーンの性能(伝達効率や耐久性など)が各段に進化しているので、横置きエンジン車にシャフトドライブを採用する理由も薄れてきたのかもしれない。とはいえメンテナンスに手がかからなかったり、静粛性などメリットも多いので、国産メーカーもシャフトドライブの火を消さないで欲しい……、と感じる部分もある。
―― 2022年 ヤマハ FJR1300AS/A
2001年に欧州でデビューした本格スポーツツアラー。水冷1297cc並列4気筒エンジンを搭載し、トラコンや電子制御スロットル、走行モード切り替えや電子制御サスペンションをいち早く装備。残念ながら写真の20周年記念モデルをもって、国内向けモデルは生産終了となる。
―― 2022年 ヤマハ PW50
1981年に登場したオフロードタイプの超長寿なキッズバイク(公道走行不可)。エンジンやシャフトドライブの駆動系はファミリーバイクからの転用。当時のタウニィやポップギャル、マリック等のファミリーバイクはシャフトドライブだった。
―― BMW K1600GTL
並列6気筒エンジンを搭載するラグジュアリーなツアラーだけに、静粛性や低振動なシャフトドライブを採用する。
―― トライアンフ タイガー1200 RALLY PRO
不等間隔爆発のTプレーン並列3気筒エンジンを搭載するビッグアドベンチャー。シャフトドライブ&「トライリンク」スイングアームはかなり軽量に仕上げられる。
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みんなのコメント
トルク反動が大きいから、右バンク・左バンクの挙動が違う
ハイスピードのコーナーリングに向かない、曲がらない
ツーリングバイク向き・・・。
車体が重いのと、後輪のパンク修理や交換がやりにくいのがネックだった。