2026年8月13日から14日にかけて、千葉県では線状降水帯の発生などにより記録的な大雨となり、豪雨で浸水するなどして公道上で動けなくなった車両は3000台以上に上った。ほんの数十分の大雨でも道路が冠水し、アンダーパスなどでは一気に水深が増すこともある。「SUVだから大丈夫」「このくらいなら行ける」という判断は禁物だ。では、水深何cmから危険なのか? 冠水路の走行限界と、水没した場合の対処法を解説する。
文:ベストカーWeb編集部/写真:Adobe Stock(トビラ画像:Diamond Fuji@Adobe Stock)
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冠水路は水深30cmでも油断禁物! SUVだから大丈夫は大間違い
ゲリラ豪雨に遭遇し、目の前の道路が冠水していたらどうするか。「タイヤの半分くらいまでなら大丈夫だろう」「前のクルマが走っているから自分も行ける」と、そのまま突っ込みたくなるかもしれない。
しかし、冠水路を見つけたら進入せず、迂回するのが大原則である。では、実際にクルマはどの程度の水深まで走れるのか? 参考になるのがJAFの冠水路走行テスト(引用)だ。
JAFがセダンとSUVを使い、冠水したアンダーパスを想定した全長30mのコースで行ったテストでは、水深30cmと60cm、進入速度10km/hと30km/hで検証している。
水深30cmではセダン、SUVともに時速10km、30kmで走り切ることができた。しかし水深60cmになると状況は一変。セダンは時速10kmでも走り切ることができなかった。
一方、エンジン位置が高いSUVは水深60cmでも時速10kmなら走破できたものの、時速30kmではわずか10mでエンジンが停止した。車体が一瞬浮き上がり、ハンドルを取られる現象も発生している。
つまり、「大型SUVだから60cmくらいまで大丈夫」という意味ではまったくない。SUVは最低地上高やエンジンの吸気口などの位置で乗用車より有利な場合があるだけで、水に浮けばタイヤのグリップも4WD性能も役に立たなくなる。
実はSUVの最低地上高は約180~210mmと、一般的なセダンの最低地上高約130~150mmと50mm程度しか変わりません。
さらにJAFが2024年にEV、HV、ガソリン車で実施したテストでは、水深30cm、時速10kmでは3車とも走破したが、時速30kmになると、EVはアンダーカバーが外れ、HVではホイールカバーと牽引フックカバーが外れ、ガソリン車では車内とボンネット内部に水が浸入した。
ここが重要だ。「走り切れた=クルマに問題がない」ではないのである。
では「何cmだったら走らせるな」と聞かれれば、30cmを超えたらではなく、道路が冠水して水深や路面状況を確認できない時点で進入しない、と考えるのが正解だ。
実際の冠水路では水深30cmなのか60cmなのか、運転席から正確に判断することなどできない。しかも手前が10cmでも、その先のアンダーパスでは一気に深くなっている可能性もある。
濁った水の下には開いたマンホールや側溝、流木、落下物などが隠れていることもある。縁石が見えなくなるほど水が増えているようなら、なおさら進入してはいけない。
ましてや前を走る大型SUVが通過できたからといって、自分のクルマも通過できる保証はない。車種によって最低地上高や吸気口の位置は異なり、進入速度によっても巻き上げる水量は大きく変わるからだ。
ゲリラ豪雨では「あと100mだから」「いつもの道だから」という油断が命取りになる。冠水路に遭遇したら、勇気あるUターン、あるいは安全な場所で雨が弱まるのを待つのが正解である。
冠水したらクルマに発生するトラブルは?
冠水路で最も恐ろしいトラブルのひとつが、エンジンの吸気系から水を吸い込むことだ。
エンジンは空気を吸い込み、それを圧縮して燃焼させている。ところが空気の代わりに大量の水がシリンダー内へ入ると、水はほとんど圧縮できないため、コンロッドなどエンジン内部に大きな力が加わる。いわゆるウォーターハンマーである。最悪の場合、エンジンに致命的な損傷を与える。
怖いのはエンジンだけではない。水位が高くなれば床下から車内へ浸水し、ECUや各種センサー、配線などの電装系にも影響が及ぶ可能性がある。
タイヤ周辺まで深く冠水すれば、ハブベアリングやブレーキなど足まわりにも水が入り込む可能性があり、その場では問題なく走れても、後になってサビや異音などのトラブルにつながるケースがある。
さらに水深が増すと浮力も無視できない。タイヤの接地力が低下すれば、ハンドルやアクセルを操作しても思う方向へ進めなくなる。流れがある場所では車体そのものが流される危険まである。
EVならエンジンがないから冠水に強いと思うかもしれないが、これも油断は禁物だ。JAFのテストでは、水深60cmを走破したEVでも複数の警告灯が点灯したケースが確認されている。HVもエンジンを搭載しているため、吸水によるエンジン停止の危険がある。
パワートレーンが何であろうと、冠水路には入らない。それが最も確実な対策なのである。
もし冠水路で動けなくなったら? クルマが冠水路にハマってしまった場合の対処法
注意していても、ゲリラ豪雨では短時間で状況が変わる。走っているうちに急激に水位が上がり、クルマが動けなくなってしまうことも考えられる。
まず覚えておきたいのは、クルマより人命が最優先ということだ。
冠水路でエンジンが停止したら、何度も再始動を試みるのではなく、安全に脱出することを考える。まだドアが開けられる状態なら、周囲の安全を確認して早めに車外へ出る。
水位が上がると外側からドアに水圧がかかり、ドアを開けることが難しくなる。パワーウインドウが作動するうちに窓を開けて脱出する方法も覚えておきたい。
電装系が故障して窓が開かず、ドアも水圧で開かない場合に備えて、車内には緊急脱出用ハンマーを用意しておきたい。シートベルトカッターを備えたタイプなら、シートベルトが外れなくなった場合にも対応できる。
ただし、フロントウインドウは一般的に合わせガラスのため、脱出用ハンマーで簡単に割ることはできない。基本的にはサイドウインドウを割ることになるが、車種によってはサイドにも合わせガラスが採用されている。自分のクルマのガラスがどうなっているか、平時に確認しておくと安心だ。
ドアも窓も開けられない最悪の状況では、車内に水が入って車内外の水位差が小さくなると、ドアにかかる圧力差も小さくなり、開けやすくなる。そのタイミングでドアを強く押し開けて脱出する。
冠水時は時間との勝負だ。クルマを助けようとして車内にとどまるのではなく、まず自分と同乗者が安全な場所へ避難することが重要である。
一度水没してしまったクルマはもう廃車?
一度水没したら即廃車、と決まっているわけではない。浸水した高さや水質、浸水時間、エンジンや電装系へのダメージなどによって修理可能かどうかは変わってくる。
しかし「水が引いたからエンジンをかけてみよう」は絶対に避けたい。
エンジン内部に水が入っている状態で始動すれば、ウォーターハンマーによって重大な損傷を起こす可能性がある。さらに電気系統が浸水していれば、ショートや車両火災につながる危険もある。
特に海水に浸かったクルマは要注意だ。塩分によって配線などの腐食が進み、時間が経過してから電気系統のトラブルや発火につながる可能性もある。
水没したクルマは自己判断で始動せず、JAFなどのロードサービスや販売店、整備工場へ連絡して点検を受けるべきだ。
またHVやEVには高電圧の駆動用バッテリーや高電圧回路が搭載されているため、浸水後の車両にはむやみに触れないこと。専門知識を持ったスタッフに任せるのが鉄則である。
修理費についても注意が必要だ。エンジンだけでなく、ECU、センサー、配線、シート、内装、カーペットなど広範囲に交換が必要になれば、修理費が車両価値を上回ることもある。その場合には、結果的に廃車を選択することになる。
冠水した中古車の見分け方
水害の後に中古車を購入する場合、気になるのが冠水車だ。日本自動車査定協会(JAAI)では、室内フロア以上に浸水したものや、浸水の痕跡が複数確認できるものなどを冠水車として扱っている。
外装をきれいに洗い、室内をクリーニングすると、一見しただけでは冠水したクルマだとわからないこともある。そこで中古車を見る際には、普段あまり見ない場所を確認したい。
まずチェックしたいのが臭いだ。車内やトランク、エアコンからカビや泥を思わせる不自然な臭いがしないか確認する。
次にシートベルトをいっぱいまで引き出してみる。普段収納されている部分に水に濡れたような境目や変色、泥汚れが残っていれば注意が必要だ。
シート下の金属部品、シートレール、トランク内の工具やジャッキ、エンジンルームなどに不自然なサビがないかも確認したい。内張りの奥などに泥や乾燥した粉末状の汚れが残っている場合も要注意である。
もちろん、これらがあれば必ず冠水車というわけではなく、逆に痕跡が見つからなければ絶対に大丈夫というわけでもない。心配なら販売店に冠水歴の有無を確認し、車両状態について十分な説明を受けるべきだ。
そして自分がゲリラ豪雨に遭遇した時にも忘れてはいけない。「大型SUVだから行ける」「水深30cmなら大丈夫」と考えるのは危険である。
冠水路は見た目以上に深く、水面の下に何があるかもわからない。クルマの性能を過信せず、冠水していたら入らない、ハマったらクルマを諦めて人命を優先する。この2つを覚えておくことが、夏のゲリラ豪雨から愛車と命を守る最善策である。
冠水車でも売れる! 買取価格はいくら?
では冠水したクルマはいくらで売れるのか? 「水没したら価値はゼロ」と思ってしまいそうだが、必ずしもそうではない。
冠水車の査定額は、車種や年式、走行距離に加えて「どこまで水に浸かったか」で大きく変わる。JAAI(日本自動車査定協会)の査定基準を紹介している資料では、フロアまで浸水した場合は50%、クッション上部以上まで浸水した場合は70%という大幅な減点の目安が示されている。
仮に通常なら100万円程度の査定価値があるクルマなら、単純計算ではフロアまでの浸水で50万円程度、クッション上部以上なら30万円程度まで価値が落ちる可能性があるということだ。ただし、実際の買取価格は車種や状態、買取店によって大きく異なるので、この金額はあくまでイメージと考えてほしい。
完全に水没してエンジンや電装系がダメになった場合はさらに厳しい。それでも買取価格が0円になるとは限らない。修理して海外へ輸出したり、エンジンやトランスミッション、ボディパーツなどを部品として利用したりできるためだ。特に海外人気の高いSUVや4WDなどは、動かなくなっても思わぬ査定額が付く可能性がある。
実際、本Webサイトでは過去に、佐賀で屋根付近まで冠水したトヨタ・マークXに15万~20万円の買取価格が付いた事例を紹介している。
そして査定額を大きく左右するのが、冠水後にエンジンを始動したかどうかだ。エンジン内部に水が入った状態でセルを回してウォーターハンマーを起こせば、高価なエンジンそのものが再利用できなくなる可能性がある。
つまり冠水して動かなくなっても、「どうせ廃車だから」と諦めるのは早い。エンジンをかけず、ロードサービスなどで移動させたうえで、中古車買取店だけでなく水没車や事故車を扱う専門業者にも査定を依頼したい。数社を比較すれば、同じ冠水車でも買取額に大きな差が出る可能性がある。
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