これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、スモールキャブワゴンとして新たなジャンルに挑戦した、ダイハツのアトレー7を取り上げる。
こんなクルマよく売ったな!! 【愛すべき日本の珍車と珍技術】アトレー7はわずか4年しか生産されなかった悲運の3列7人乗りコンパクトミニバン!
文:フォッケウルフ/写真:ダイハツ
■ミニマムなボディで7人乗りを可能にしたコンパクトミニバン
ミニバンは多種多様な目的に対応できるクルマとしてファミリーを中心に人気を集めているジャンルだ。現在は取捨選択されて車種数が絞られているものの、1990年代から2000年代には大小さまざまなモデルが登場して最盛期を迎えていた。
「アトレー7」のデビューはそんなミニバンブームの最中であり、先行して市場へ導入されていたスズキ エブリィプラス、三菱 タウンボックスワイドに追従する形で2000年7月7日に発売された。
ベースは軽のアトレーワゴンで、リアフロアとホイールベースを延長して、大人7人が乗れる居住空間を確保している
アトレー7は軽自動車のアトレーワゴンをベースに、リアフロアとホイールベースを延長してボディサイズを拡大し、車内に3列シートを備え、7人乗りを可能にしたコンパクトミニバンに位置づけられる。
ミニバンがブームになりつつあったとはいえ、当時は小型ミニバンの選択肢はまだ少ないこともあって、アトレー7は小さくても7人乗れて実用的な車種を求めるユーザーに歓迎された。
ボディサイズは全長3765mmx全幅1515mmx全高1895mm、ホイールベースは2420mmで、ミニバンとしてはかなり小さい部類となる。このボディで多人数乗車は現実的ではないように思えるが、セミキャブレイアウトのボディや、リアフロアをアトレーワゴンから230mm延長したことによって室内長は2585mmという十分な余裕を確保。
広さは上位クラスのミニバンと比較しても遜色がなく、車内には3列シートを備え、前席2名+2列目3名+3列目2名の7名乗車を可能にしていた。
全長が370mm、全幅は40mm大型化されたうえに、大型カラードエアロバンパー(前後)、サイドストーンガード一体大型ドアガーニッシュ、ワイドフェンダーといった専用のエクステリアアイテムを備えることで、「普通車感」をしっかりと演出。アトレーの派生車だが、サイズ感だけでなく、一見したときの印象についてもベース車と差別化が図られていた。
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■リアシートに新機構を採用することで多彩なニーズに対応
たとえ軽自動車がベースであったとしても、ミニバンに分類されるクルマなので、3列すべてのシートに大人が快適に乗車できることに加え、広い室内スペースを積載空間として活用できることは重要な課題である。
広さに関しては全長が伸びたことで、室内長は2585mmという2000ccクラスのミニバンに匹敵する余裕が確保できた。このスペースをうまく活用するためにアトレー7では、2列目と3列目のシートを床下に格納できるハイダウェイシート機構を採用した。
使用頻度の高い5名乗車時には3列目シートを格納してクラス最大の荷室スペースとし、日常的な用途はもちろんレジャーまで幅広い用途に対応。
2名乗車時には2列目シートと3列目シートが床下にすっきりと格納できるので、広くフラットな荷室には自転車などの大きな荷物や長尺物も難なく積載できた。
ボディサイズを拡大し、大型カラードエアロバンパーやサイドストーンガード一体大型ドアガーニッシュ、ワイドフェンダーなどのアイテムを装備することで、迫力あるローダウンイメージスタイルを演出。車重の増加を考慮して1.3Lエンジンを搭載する
アトレーと比べて重量は増加しているが、これをカバーするためエンジンは1.3L直列4気筒のK3-VE型を搭載。実用域での使いやすさを追求したトルクフルな特性を持ち味とするエンジンに、高効率な電子制御2モード4速ATである「ESAT(Economy & Smooth Automatic Transmission)」を組み合わせることでスムーズな加速を実現している。
ストップ&ゴーが連続する市街地走行でもストレスを感じさせず、高速道路でも不満のない動力性能を発揮。これも小さいながらも幅広い用途に対応できた要因と言えるだろう。
■軽自動車の利点を生かした多人数乗りの再登場に期待
軽のアトレーをベースとしているが、トレッドのワイド化とタイヤのサイズアップが功を奏して、跳ねるような安っぽさは払拭され、軽自動車がベースとは思えない上質な走行フィーリングが味わえた。
世界初の新開発トーコントロールリンク付3リンク式コイルスプリングリアサスペンションを採用したことも走りにいい効果をもたらし、背の高いミニバンでは不得手とされる旋回時の車両安定性と高速走行時の走行安定性で不満のないパフォーマンスを実現した。
運転席まわりはシンプルなデザインながら、ベース車よりも上質な雰囲気に仕立てられている。デュアルエアコンを標準装備したのをはじめ、乗員の快適性を高める機能が充実
軽自動車をベースにしたことで取りまわしがよく、小さいなりにも多人数乗車ができて、多彩なシートアレンジをはじめとした機能によって幅広い用途に対応できるアトレー7は、発売当初こそ実績を挙げたが、わずか4年で生産終了となってしまう。
コンパクトミニバンの売れ筋が、アトレー7のような軽ワンボックスをベースにした車種からホンダ モビリオ、日産 キューブキュービック、トヨタ シエンタといった乗用車(コンパクトカー)をベースにした車種に変わったことが販売不振の要因だし、そもそも軽自動車ベースでミニバン化ということ自体に無理があったことも否めない。
しかし、小さいながらも優れた実用性や居住性を有した現代の軽自動車ベースに、3列シートを備えたミニマムミニバンを作ったなら再び注目を集める可能性はあるのではないだろうか。
【画像ギャラリー】 ミニバンの可能性を広げた一台となった、ダイハツ アトレー7の写真をもっと見る!(4枚)
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