夜間のカーブミラーで、ハットヒヤリ?
編集部:今回は夜間コンビニの前を通過する際、対向車線に止まっていた車の陰から自転車が出てきて、ぶつかりそうになるという事例でした。対向車がライトを点けたまま停止していると、ライトが眩しくて車の周囲が見えづらくなりますね。
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長山先生:そうですね。車のライトの光は強いので、ライトのほうを見ると眩惑されて、その後方から来る自転車や歩行者はかなり見えづらくなります。路肩に駐車したり、停止する際は、ハザードランプなどを点灯させ、ヘッドライトは消灯してほしいものです。
編集部:でも、自転車に乗る人はドライバーから見えづらくなっているとは、まったく思ってないですよね。
長山先生:おっしゃるとおりで、自転車からは車のライトは明るく感じるため、まさか自分が見落とされているとは思ってないでしょう。それが危険なのです。状況は違いますが、夜間私も自転車を見落としてしまい、危うく事故を起こしそうになったことがあります。21時頃だったでしょうか。勤務先からの帰路、自宅近くの小さな交差点に差し掛かったときのことです(図参照)。カーブミラーに左から来る車のヘッドライトが映ったので、それが通過するのを待って発進した時に、初めて車の後ろを走ってきた自転車に気づいて「ハットヒヤリ」の体験をしたものでした。
編集部:ハットヒヤリですか?? ヒヤリハットではなく。
長山先生:そうです。私は関西電力や本田技研工業などいくつかの企業から依頼を受けて、事故になりかけた事例などの分析を行ってきましたが、実際に危険を体験した時の心理状態は、事故にならないまでも、ハッと危険に気付いて、危なかったなと汗をかかないまでもヒヤッとするものなので、関西電力で使われている「ハットヒヤリ」という用語を用いています。
編集部:なるほど。時間の流れでいうと、たしかに”ハットヒヤリ”ですね。ちなみに、自転車はライトを点けていたのですか?
長山先生:自転車がライトを点けていたかは定かではありませんが、カーブミラーには自動車のヘッドライトしか映っていませんでした。自転車のライトの光量は小さいですし、ヘッドライトを点けた車の後ろから走ってくるのですから、自転車がたとえライトを点けていても、その存在を確認できなかったと思います。
編集部:たしかに今回のケースと同じで、後ろから来る自転車はライトの有無にかかわらず、車のヘッドライトでかき消されてしまう気がしますね。しかもミラー越しですから。昼間ならともかく、夜間ミラー越しに安全確認するのはかなり酷ですね。
長山先生:昼間の明るい時なら、ミラーで左から来る車が映っていれば、その車が目の前を通過するときに後ろから車などが来ていないかを確認します。その時、自転車が目に入れば、自転車の通過を待ってから進行します。そもそも、その道路は夜間ほとんど通過する自動車はいないので、「車が1台通過したら大丈夫」と思い込んで、それ以上安全確認をする必要性を感じなかったことも確かです。でも、それ以降、夜間ミラーで確認してから発進する際、後ろを走ってくる自転車は見落としやすいことを肝に銘じて運転するようになりました。
編集部:ヒヤッとした度合いが強いほど記憶に残り、それ以後、注意するようになるのかもしれませんね。これも危険予知なのでしょうか?
危険予知の起源は「トラックの左折大回り」
長山先生:まさにそのとおりです。実は私が危険予知・危険予測の考え方を始めたのも、そのような危険な経験をしたことがきっかけでした。
編集部:そうなんですか? 失礼ながら、かなり昔のことですよね?
長山先生:私が運転免許を取ったのは昭和33年(1958年)ですから、60年以上前のことです。免許を取ると運転がしたくってたまらないものですが、その頃はまだ車が普及していない時代でしたから、知り合いの車を借りたり、レンタカーであちこちドライブしていました。
編集部:60年以上前の話ですか!? 冷蔵庫や洗濯機が「三種の神器」だった頃ですかね?
長山先生:ほぼその頃で、冷蔵庫と洗濯機、さらにテレビが「三種の神器」とされていました。テレビといっても、白黒テレビですけど。でも、道路は未発達で舗装されていない道も少なくありませんでした。ある日のこと、歩道のない4車線の郊外道路を大型貨物トラックの後ろについて走っていました。トラックが左折の腕木式の方向指示器を出してスピードを落としましたので、右側の車線に出て追い越そうとしました。
編集部:腕木式ですか!? 本で見たことはあります。左折の合図を出したトラックを追い越そうとしたのですね。
長山先生:そうです。右側の車線に出たところ、どうしたことか、左へ曲がるはずのトラックが右側に膨らみ、私のほうに寄ってくるではありませんか。私はセンターラインを越して対向車線に追い出されてしまいました。そのときに東京方向から猛烈なスピードでスポーツカーが走ってきて、私も相手も急ブレーキを踏んで危うく正面衝突を免れたものでした。相手からは「バキャ野郎!!」と大声で怒鳴られましたが、私は平身低頭、謝る以外にはありませんでした。
編集部:それは危なかったですね。どちらかのブレーキが遅れたら、正面衝突するところでしたね。
長山先生:そうです。私にとって許しがたいのはトラックで、私が追い越すのが気に入らずに幅寄せして嫌がらせをしたのかと考えたものです。トラックを見ると、知らぬ顔で畦道のような狭い道路に左折して走り去っていくではありませんか。そのときになって初めて「ああそうか。大型車は左折するのにそのままでは曲がれないので、一度右に大きく寄ってから曲がるのだな」と気づいたのです(図参照)。
予知に必要な「判断母型」と「認知母型」
編集部:トラックは車体が長いので、一度右側に振って大回りしたのですね。
長山先生:そうです。この経験から私は、運転者は「判断母型」と「認知母型」を身につけていなければ危険予知ができないし、安全な運転はできないのだと考えるに至ったものです。ふつう、前の車が左折の合図を出せば、少ししてその車は左折を開始すると判断するものです。そのような判断の基本型を持っていて、それに従って私たちは判断しているものです。それを判断の母型ということができます。「母型」とは、印刷の活字を作るもとになる鋳型を意味していますが、判断を作るもとになるものとして『判断母型』という造語を用いることにしました。このことを適切に言い表す言葉が見つからなかったからです。
編集部:何かを判断する際のベースのことですね。
長山先生:そうとも言えます。ただ今回のような場合、前車が左折の合図を出しても簡単に左折すると考えるのではなく、道路状況などの条件によっては左折の形態は変わるものであるということを状況判断の中に入れておかなければならないわけです。すなわち、大型車が狭い道路などに左折するときには、右に大きく膨らむという判断の仕方も「判断の母型」として身につけておかなければならないのです。それを身につけることによって、次に同じような場面に遭遇した場合、前の車がどうするかを判断するために注意深く見つめて行動することが可能となります。そのような判断母型を身につけていることによって、前の車が次にどのような動きをするかの情報を取りに行く心の働かせ方が可能となります。「判断母型」に関連して「認知母型」という言葉が必要となります。なぜなら、安全な運転をするためには、判断母型で得られたその場の状況が実際にはどのように展開するかを認知して確かめることが必要だからです。
編集部:「情報を取りに行く心の働かせ方」ですか? 同じようにトラックが曲がる状況に遭遇したとき、また同じように右側に膨らんでくるのではないか、ということを確認することでしょうか?
長山先生:トラックの場合なら、そういうことです。運転上よく知られている判断母型に当る事柄として、「ボールが転がり出てくれば、後ろから子供が追いかけてくると考えよう」というものがあります。それには、ボールが転がり出てくれば、次にボールの後ろを見て、どうなるかの情報を取るという「認知の母型」が形成されている必要があります。判断母型が形成されていない人は、単に「ボールが転がってきたな」と思うだけで、次の情報を取ろうとする認知作用は起こらないで終わってしまいます。そのような人なら危険予知も出来ないままに、もし子供が飛び出してくると事故を起こしてしまうことになるのです。「判断母型」と「認知母型」はこのように一体になって有効な働きをし、安全運転のためにはぜひとも学習しておかなければならないものなのです。
編集部:見たものをそのまま受け取るのではなく、その背景というか裏に潜む危険も想像しなくてはいけないということでしょうか?
長山先生:そのような言い方もできると思います。判断母型と認知母型の事例として、『JAF Mate』で「危険予知」の連載が始まったばかりの 1991年6月号の問題を取り上げたいと思います。下が問題と結果の写真になり、問題文は「あなたは交差点で右折しようとしています。信号が青ですが、対向車は前方が混雑しているので停止しました。右折を開始しようと思いますが、何に注意しますか?」というものです。
編集部:対向車に譲られて起きることが多かったので、「サンキュー事故」と呼ばれた事故事例ですね。
長山先生:そうです。この問題では、停止した対向車の前を右折する場合には、対向車の側方をすり抜けてくる二輪車と事故が起こりかねないとする「判断母型」を身につけておく必要があり、さらにその判断母型に従って対向車の横を走ってくる二輪車がないかを確かめに行く「認知母型」も同時に身につけておく必要があることを誌面の危険予知訓練で示してきました。この問題が『JAF Mate』に掲載されてから右折事故が大幅に減少したこともあり、「危険予知」が安全運転をするうえで非常に参考になると好評を得てきたわけです。
編集部:実際に事故が減少したのですか? たった1ページちょっとのコーナーが事故減少に貢献できたなら、嬉しいものですね。「判断母型」と「認知母型」と聞くと、ちょっと難しく構えてしまいますが、安全運転をするうえで、とても大切な考え方なのですね。
長山先生:おっしゃるとおりですが、「認知母型」の認知という用語については、ある時期からネガティブなイメージが強くなってしまいました。
「認知症」によってイメージが悪化?
編集部:「認知」がネガティブとは、どういうことでしょうか?
長山先生:心理学では、1950年後半頃から「認知」という用語がしばしば使われるようになり、基本的な概念として定着していたものです。感覚・知覚などによって人間が対象となるものを感じて捉えた場合、それを意識し、意味を認識することを認知というわけです。つまり、この概念は積極的な、正常な精神状態を表す言葉なのですが、1990年代に入った頃から精神障害の一種に「認知症」という言葉が使われるようになりました。
編集部:「認知症」は、その頃から使われ始めたのでしたっけ? 認知=認知症という図式ですか?
長山先生:そうです。心理学では、1950年後半頃から「認知」という用語がしばしば使われるようになりました。それは記憶障害と見当識障害が主であり、見当識とは自分が時間的・空間的・対人的な関係の中でどうなっているかの認識です。今日はいつなのか、どのようなところにいるのか、この人と私はどのような関係にあるのかについての認識が見当識なのです。見当識に障害が及ぶと運転していてもどこを走っているかも分からず危険な状況になってしまうものなのです。認知症という言葉が使われるようになって、「認知」はネガティブな側面のみになってしまい、「認知母型」という言葉を使う心理学者である私から言えば、迷惑な使われ方をされ始めたという感じなのです。
『JAF Mate』誌 2017年12号掲載の「危険予知」を基にした「よもやま話」です。
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