ハンドリングで成長した子会社
福岡の大手私鉄・西日本鉄道の100%子会社である西鉄エアサービス(福岡市)は、2026年6月2日、成田空港で航空機1機分すべての地上支援作業を電気自動車(EV)で行う取り組みを始めた。ハンドリングとは、航空機の誘導、手荷物や貨物の積み下ろし、燃料補給、機内清掃など、地上で運航を支える作業を指す。航空機1機分の作業をすべてEVでまかなうのは、同空港では初めての事例となる。
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西鉄エアサービスは1990(平成2)年に北九州エアサービスとして設立された。北九州空港で日本エアシステム(現在の日本航空)から地上ハンドリング業務を受託したことをきっかけに事業を開始している。現在は福岡空港、成田空港、関西空港、新千歳空港など全国10空港で地上ハンドリング業務を展開しており、受託する航空会社は日本航空、スターフライヤーなど国内外20社以上に及ぶ。
事業エリアの拡大にともない、2010年に現在の西鉄エアサービスへと商号を変更した。本社は親会社である西日本鉄道と同じ福岡市天神のONE FUKUOKA BLDGに置いている。
西日本鉄道に限らず、大手私鉄の多くは運輸を中心に幅広い事業を展開してきた。地元の福岡県内で航空関連事業の一部である地上ハンドリング業務を手がけ、その後全国へ展開してきた流れには特に大きな違和感はない。
また、事業を全国に広げた現在でも親会社と本社を同じ場所に置き、対外的にも「福岡の大手私鉄グループの一員」という位置付けを明確にしている点も、特に不自然なものではない。
1948年発足の国際物流事業
しかし、西日本鉄道という企業の実態をある程度知っている人からすれば、西鉄エアサービスという子会社の存在には、違和感を覚えることがある。
その理由のひとつが、西日本鉄道の中にある国際物流事業本部の存在である。国際物流事業本部は、利用運送事業(フォワーダー)と、それに関連する航空運送代理店業、通関業、倉庫業などを扱う部門である。
フォワーダーとは、国際物流の場で荷主に代わり、船や航空機などの輸送手段を手配し、通関や倉庫での保管、配送までをまとめて引き受ける事業者のことである。自社で船や航空機を持たない運送会社と説明されることもある。
西日本鉄道の国際物流事業は歴史が長い。1948(昭和23)年、当時の連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)から航空会社の代理店資格を得て、航空貨物の取り扱いを始めたのが出発点である。1984年には航空貨物事業部を航空貨物事業本部へと改め、1985年には海上貨物の業務を始めた。その後2008(平成20)年に国際物流事業本部へと名称を変えている。現在は海外28か国・地域、119都市に拠点を持ち、国内のフォワーダーの中でも大手5社の一角を占めている。
航空貨物事業本部の時代には、「西鉄航空」という名称が広く使われていた。しかし今では「西鉄航空」で検索すると、西鉄エアサービスが表示される。フォワーダーである西日本鉄道の国際物流事業本部(かつての西鉄航空)と、地上での作業を担う西鉄エアサービスは、空港に関わる事業という点では共通するが、業務の中身は大きく異なる。
西鉄エアサービスという子会社に違和感が生まれる背景には、かつて存在した「西鉄航空」の印象が重なっていることがある。
東京に本部を構える「別会社」
もう一点、違和感が生まれる理由がある。西鉄エアサービスは全国に事業を広げながらも、子会社ではあるが親会社と一体感の強い
「福岡の会社」
として動いている。一方で、国際物流事業本部は西日本鉄道というひとつの会社の中の事業部門でありながら、事業本部を長く東京に置き、採用も含めて福岡の本社とは別の流れで運営されてきた点である。
筆者(銀河鉄道世代、フリーライター)も30年以上前、東京で開かれた国際物流事業本部(当時は航空貨物事業本部)の新卒向け説明会に参加したことがある。その場で受けた説明では、福岡の本社とは別枠での採用であり、初任給の段階から本社採用より高い水準であること、将来に分社する予定はなく、本社へ移ることもないという内容だった。説明会のあとに先輩社員と話した際も、
「福岡の西鉄とはほぼ別会社」
という説明があり、そのとき強い印象を受けた記憶がある。採用情報などを見る限り、その後30年以上が経った今でも、「福岡の西鉄とはほぼ別会社」という実態は大きく変わっていないように見える。
西日本鉄道が2026年5月14日に公表した2026年3月期(2025年4月1日~2026年3月31日)の連結決算では、営業収益は4742億円だった。セグメント別では鉄道などの運輸が832億円、不動産が950億円、流通が730億円、物流が1530億円、レジャー・サービスが591億円となっている。物流には一部国内物流も含まれるが、多くは国際物流であり、国際物流事業本部は営業収益の
「約3分の1」
を占める最大の収益源となっている。
為替や国際情勢の不安定要素
ではなぜ、これほど大きな営業収益を上げ、しかも福岡の本社からある程度独立した動きを見せる国際物流事業本部が、
「分社化されず一部門のまま残っている」
のか。これは業界の中でも説明しにくい点のひとつである。ちなみに、国内フォワーダー大手5社のうち、同じ電鉄系では、近鉄グループの近鉄エクスプレスと、阪急阪神グループの阪神阪急エクスプレスは、いずれも鉄道会社からわかれた別会社として運営されている。
気になるのは国際物流事業本部の営業利益である。2026年3月期は、不動産の116億円、レジャー・サービスの64億円に対し、物流は前期比55%増となったものの61億円にとどまっており、利益率が高いとはいえない。
同じ期では、為替変動による円換算額の増加や輸出入取扱量の増加により増収増益となったが、裏を返せば、為替などの海外要因に影響を受けやすく、国内の運輸や不動産に比べて安定性に欠ける面がある事業でもある。西日本鉄道の「実質2社体制」は、
・変動の大きいが規模の大きい事業
・比較的安定した事業
を同じ会社の中で支える形とも見える。ただ、近鉄エクスプレスや阪神阪急エクスプレスが別会社として動いていることを考えると、あえて分社化しない理由はわかりにくい。メーカーなどでは、同じ会社の中で事業ごとに独立性を持たせるカンパニー制を取る例もあるが、西日本鉄道の「実質2社体制」は、それとも少し異なる形に見える。
前述の西鉄エアサービスは子会社として順調に成長しているだけに、この謎は簡単には解けそうにない。(銀河鉄道世代(フリーライター))
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