ホンダ「シビック」のハイパフォーマンス・ヴァージョン「タイプR」の新型にサトータケシが試乗した。印象はいかに?
FF世界最速決定戦の変遷
2020年はいろいろなお楽しみが先延ばしになってしまった。なかでも個人的に残念だと思っているのが、「FF(前輪駆動車)世界最速決定戦」の決着がつかなかったことだ。
「FF世界最速決定戦」というのは小生が勝手につけたタイトルでありますが、スポーツカーの性能テストの聖地と呼ばれるドイツのニュルブルクリンクサーキットでのラップタイムの速さをもって「ワシらが世界一や!」と最初にアピールしたフロント・ドライブの市販車は、先々代のルノー「メガーヌR.S.」だった。2008年に叩き出した8分16秒9のタイムを、2011年には8分7秒97にまで詰めて、長らく王者の座に君臨した。
これに挑んだのがフォルクスワーゲングループだ。スペインに本拠を構えるセアトの「レオン」が2014年に7分58秒44を記録し、ついに8分の壁を打ち破った。もちろんルノーが黙っているわけがなく、すぐさま先代「メガーヌR.S.トロフィー275R」というスペシャルモデルをニュルに送り込み、7分54秒36のタイムを記録、王座を奪還する。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiところが、欧州勢がひっくり返ったのは、2015年に先代のホンダ「シビック・タイプR」が7分50秒63という衝撃のタイムでデビューしたときだった。そこでフォルクスワーゲングループは、本丸とも言うべき「ゴルフGTIクラブスポーツS」を投入してタイプRを下すが、今度は2017年にホンダが新型シビック・タイプR で返り討ちした。
しかしタイプRの天下も2年しか続かず、2019年には現行ルノー「メガーヌR.S.トロフィーR」が7分40秒10のタイムで、“元祖FF最速”の意地を見せた。トロフィーRは余勢を駆って、あろうことかホンダの本拠地、鈴鹿サーキットに乗り込み、同サーキットのFF車最速タイムまで更新したのだった。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasui2020年、ホンダはマイナーチェンジ版シビック・タイプRで反攻に転じる……、はずだったけれど、コロナ禍で発表が遅れ、ニュルブルクリンクへの遠征もかなわなかった。
というわけで「FF世界最速決定戦」はお預けになっているけれど、待ちに待ったマイナーチェンジ版のシビック・タイプRがようやく発表され、試乗することができた。
驚くほど快適な乗り心地
身体をしっかりとホールドする、タイプR専用のシートに腰掛けて、赤いシートベルトを締めると気持ちがグッと引き締まる。背筋が伸びる。
やや重めだけれど、すばらしくスムーズに動くクラッチペダルを踏み込んでスターターボタンを押すと、2.0リッターの直列4気筒ガソリンターボ・エンジンが始動する。2.0リッターで最高出力320psを発生するハイチューンエンジンであるけれど、アイドリングでの音や振動に荒っぽいところは一切ない。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasui6MTを1速に入れた瞬間に、頭の中にびっくりマークが灯った。引っ掛かりが一切ない滑らかさと、間違いなく1速に入れていると感じられる節度、そしてシフトしていることを実感できる確かな重みが、三位一体となってドライバーの手のひらに伝わってくるのだ。
シフトノブの形状はマイチェン前の球状からティアドロップ型にあらためられていて、こっちのほうが握りやすくて好ましく感じた。ただしシフトのストロークが短いうえにシフトフィールも良好なので、シフトノブを握るというよりは手のひらを添えてシフトするような格好になる。内部に90gの重しを搭載することでバランスを最適化し、シフトフィールの向上を図ったというけれど、確かに手応え抜群の6MTだ。
Hiromitsu Yasui前述したように滑らかに動くクラッチペダルは、ミートするポイントがわかりやすい。エンジンの低回転域でのトルクが豊かなこともあって、アクセルペダルに触れることなく、アイドル回転で楽々発進できる。はじめてMT車に乗る人や、久しぶりにMTを扱う人も、これなら問題ないはずだ。
びっくりしたのは、乗り心地が想像をはるかに超えて快適だったことだ。といってももちろんふわふわしているわけではなくて、相応に硬い。硬いけれど、バキッと身体を突き刺すような、尖った硬さではなくて、しっかりと角が丸められている。
第1に、ジャンプした人間が着地する時に膝を曲げるように、タイプRのサスペンションもよく動いている。第2に、ボディがいろいろなパーツの寄せ集めではなく削り出しの金属のような一体感があって、路面からの衝撃を車体の一部ではなく全体で受け止めている。硬いけれど気持ちのよい硬さになっているのは、足まわりのセッティングだけでなく、ボディ全体の設計の賜物だと感じさせる。
Hiromitsu Yasuiシビック・タイプRには「+R」「SPORT」「COMFORT」の3つのドライブモードがあり、エンジンを始動したときのデフォルトの状態では「SPORT」にセットされる。ここで「COMFORT」に切り替えると、電子制御式のダンパーは快適な方向にセッティングが変わって、乗り心地はさらに良好になる。これだけ乗り心地がよければ義理の両親や上司など、ちょっと気を使う人でも安心して乗せることができる。
資料によればサスペンションと車体をつなげる球状のパーツ(ボールジョイント)に熱処理を施すことで摩擦を減らし、ダンパーの動きをよくしたとある。シフトノブの90gのウェイトといい、細部に至る配慮がいいモノ感につながっている。“日本のモノづくり”という言葉は大雑把すぎて使う気になれないけれど、“ホンダのクルマづくり“の底力はすばらしい。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui“快音”を轟かすエンジン
ただ速いだけでなく上質なクルマであることを確認したところで、「+R」を選ぶ。すると電動パワステの手応えが増し、足まわりもビシッと引き締まって明らかにロール(横傾き)が減る。
スパン、スパンと短いストロークで決まるシフトを操っていると、この2.0リッター直列4気筒ガソリンターボ・エンジンが“ターボはパワフルだけど情緒に欠ける”という常識を覆していることがわかる。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiまずレスポンスが抜群で、2000rpmあたりでもアクセルペダルにほんのわずかな力を込めるだけで望んだだけの加速が手に入る。だからワインディングロードが楽しいのはもちろん、青山通りを40km/hで走っても繊細なコントロール性を楽しむことができる。
そして4000rpmを超えると、ターボエンジン特有の前方に吸い込まれるような強烈な加速が味わえる。回転の上昇とともに高まる音も気持ちがいい。その音は、NA(自然吸気)エンジンの「カーン」という乾いたものとは違って、艶っぽい重低音が混じるふくよかな音。これはこれで快音だ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasui3本出しエグゾーストパイプは見かけ倒しではなく、左右が通常のエグゾーストパイプで、中央が“サウンド担当”だという。最近のBMWのエンジンは「ターボっていいじゃん」と感じさせてくれたけれど、ホンダのターボエンジンも、まわしたときにドラマを感じることができた。
320psが炸裂してもトルクステアを感じさせないあたりも立派だ。コーナリングは、ぱきっと曲がるライトウェイトスポーツ的なものではなく、もう少し大人っぽい。しっかりと外輪を沈み込ませながら、きれいなコーナリングフォームで曲がっていく。ブレイクダンスではなくワルツの趣だ。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiタイプRとワルツを踊りながら、冒頭に記したニュルブルクリンクサーキットを思い出した。ニュルにはパブリックという時間帯があって、チケットを買えばだれでも走ることができる。で、何度か走ったけれど、逆バンクあり、ジャンピングスポットあり、超高速のブラインドコーナーあり、200km/h近くでいきなり路面の荒れているところに出くわすのもあり、など、タイプRくらい懐の深い足まわりでないと、とてもじゃないけどタイムは出ないだろう。
ここで感動するのはステアリング・フィールで、大げさではなくタイヤがどんな感じに変形しているのかがハンドルを通じて手のひらにくっきりと伝わってくる。これならニュルでも自信を持ってハンドル操作ができるはずだ。
マイチェンでこれまで本革巻きだったステアリング・ホイールがアルカンターラに変更されているけれど、こっちのほうが、手触りがエレガントで好みだ。
Hiromitsu Yasuiというわけで、ちょっとアニメっぽいルックスが好みに合わないこと以外は、満点。文句のつけようがない傑作だ。ネオクラッシックブームのせいで20年ぐらい前のシビック・タイプRが高騰していて、それはそれでクルマ文化が育っている証だから悪いことではないけれど、最新のタイプRを新車から育てて、じぶんだけのクラシックにしてみたいと思った。
ホンダは軽自動車やミニバンをばんばん売って、儲けたお金でこういうクルマをつくり続けてほしい。
はたしてこのシビック・タイプR、来年はニュルでFF最速の座を奪い返すことができるのか。ちなみにタイプRの「リミテッド・エディション」はこの夏、鈴鹿サーキットを2分23秒993で駆け抜け、同サーキットにおけるFF最速の座をルノー・メガーヌから奪い返している。
文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
混んでいる交差点を曲がっただけで良さが確認できた。
だがしかし、筆者が言うようにエクステリアデザインがね…。
もう少し大人びた落ち着きのあるものにできないものか、ホンダさん。