軽自動車の枠を超えた技術者の理想が詰まった異端児。リアミッドシップ構造や独創的な4WDシステムを採用し、雪道でも圧倒的な安定性を誇った三菱 iだ。世界初の量産EVへと繋がるパッケージングを完成させた、時代が追いつかなかった名車の本質に迫っていく。
文:中谷明彦/写真:ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】カワイイ見た目なのにスポーティな赤内装の設定もアリ!! 三菱iのギャップがたまらない!!(13枚)
前代未聞のコンセプトに驚きの連発
2006年に登場した三菱 iは、一見すると背の高い軽自動車に見える。丸みを帯びたワンモーションフォルムは愛嬌があり、当時流行し始めていたプレミアム軽という市場を狙ったモデルでもあった。
しかし、その本質は単なるデザイン志向の軽自動車ではない。むしろ、三菱自動車が長年培ってきた4WD技術、シャシー設計技術、そしてパッケージング思想を凝縮した多くの技術的アプローチを凝縮して完成させたクルマだったのである。
最大の特徴は軽自動車として極めて異例だったリア・ミッドシップレイアウトにある。エンジンを後輪直前に搭載し、車両中央付近には燃料タンクを配置するセンタータンク方式を採用していた。この構成によって見た目からは想像もできないほど低重心化が実現されていたのだ。
背の高いボディ形状を見れば多くの人は重心が高そうと感じるだろう。しかし実際には重量物が車体下部かつ中央付近に集中しており、運動性能は極めて優秀。特にコーナリング時の姿勢変化が穏やかでロールスピードの収束も自然だった。軽自動車特有の不安定感や腰高感が少ない。
かつてサーキットでiを試したことがあるが、その操縦性には驚かされた記憶がある。リア・ミッドシップ車特有の旋回性を持ちながらも過敏ではない。限界域ではリアが穏やかに滑り出しドライバーに十分な予兆を与える。軽自動車というカテゴリーを忘れさせる完成度だった。
まさに軽の皮を被ったポルシェ!?
特筆すべきは4WDモデルの仕上がりである。当時の三菱自動車はフルラインナップ4WDを掲げていた。SUVだけでなく、セダン、ワゴン、軽自動車に至るまで4WD技術を展開するという取り組みである。当然、iにも4WD仕様が設定された。
その構造はリアミドシップに搭載されたエンジンから前方へドライブシャフトを伸ばし前輪を駆動させるレイアウトである。通常のFFベース4WDとは逆転した発想であり、ポルシェ911やランボルギーニなどの4WDシステムに近い。これが雪道で圧倒的な強さを発揮した。
発進時、加速Gによって荷重は後輪へ移動する。iはもともとエンジン重量がリアにあるため、さらに強力なトラクションが後輪に発生する。そこへ前輪駆動が加わることで、極めて安定した発進性能を得られていた。実際、雪上試験路で走らせると、現代のSUVにも劣らない発進性能を見せた。
四輪が均等にスキッドしながら前へ進む挙動は非常にコントローラブルで、ゼロカウンターに近い四輪ドリフトすら可能だった。軽自動車とは思えないスタビリティである。しかもターボ過給で高地でも十分なトルクを維持できる。
自然吸気エンジンでは空気密度低下による出力不足が起こりやすい山岳地帯でも、ターボ過給によって実用域トルクを確保していた点は重要である。降雪地域での総合性能は当時として極めて高かった。
さらに興味深いのは、iのブレーキング性能である。一般的な軽自動車はフロント荷重になりやすく、減速時には大きなノーズダイブを起こす。しかしiは重量配分が優秀でブレーキング時の姿勢変化が小さい。四輪へ均等に荷重が乗るため、制動時の安定感が高かった。
これは単に乗り味が良いという話ではない。緊急回避性能や高速域での安全性に直結する極めて重要な特性なのだ。また、ホイールベースが2550mmと軽自動車として異例に長かったことも、直進安定性や乗り心地、室内居住空間の確保に寄与していた。
そのほか、フロントにパワートレインが存在しないため、ステアリング切れ角を大きく確保でき、最小回転半径は4.5mに抑えられていた。つまり、高速安定性と市街地での扱いやすさを両立していたのである。
室内空間も秀逸だった。リアミッドシップというと室内が狭くなる印象を持たれがちだが、iはエンジンのシリンダーを45度後傾させ、リアアクスル付近へ低く配置することで後席スペースを巧みに確保していた。大人4人が十分に快適に過ごせる空間を持ち、しかも乗り心地も優秀だった。
サスペンションマウントやエンジンマウントの剛性設計が良く、入力の角が丸められている。軽自動車特有の突き上げ感が少なく、上級車的な質感すら感じられた。
世界量産EV販売に向けての橋渡し
もちろん欠点もあった。最大の弱点は荷室である。エンジン上部にラゲッジスペースを設けていたため、床面は高く、夏場には熱も持ちやすかった。絶対的な積載性では同時代のハイトワゴン型軽自動車には及ばない。
しかし、それでも実用性が極端に低いわけではなかった。リアシートは左右分割で前倒し可能であり、日常用途では十分なスペースを確保できた。むしろ、この特殊なレイアウトを考えれば驚異的な実用性だったと言うべきだろう。
そしてiというクルマを語るうえで忘れてはならないのが、後継として登場した三菱 i-MiEVとの関係である。iのパッケージングはEV化との相性が極めて良かった。
センタータンク方式だった車体中央部にバッテリーを搭載し、リアのエンジン搭載位置にモーターを配置する。この構成によって、大規模な車体変更を行わず効率的にEV化できたのである。結果として誕生したi-MiEVは世界初の量産電気自動車として歴史に名を刻むことになる。
EV化によってラゲッジスペースの熱問題は改善され、モーター特有の瞬時トルクによって発進性能はさらに向上した。航続距離こそ現在のEVと比較すれば限定的だが、当時としては十分実用的だった。iは単なる軽自動車ではなく、「内燃機関時代からEV時代への橋渡し」を担った存在でもあったわけだ。
思えば、このクルマほど“技術者の理想”が色濃く反映された軽自動車は珍しい。市場性を優先するならFFレイアウトのハイトワゴンにした方が遥かに効率的だったはずだ。しかし三菱は、あえてリアミッドシップという困難な道を選んだ。
その結果、iは他社に存在しない独創性を獲得した。販売的には大成功とは言えなかったかもしれない。しかし、自動車史という視点で見ればiが残した意味は決して小さくない。
実際、現在でも三菱のテストドライバーや技術者の中にはiを愛車として使い続けている人がいる。それは決して懐古趣味からではなくクルマとしての的完成度を知っているからに他ならないだろう。
現代の軽自動車は合理性と効率性を極限まで追求している。一方で、iのような挑戦的なモデルは少なくなった。三菱iは単なる軽自動車ではない。自動車技術者が小さなクルマでどこまで本気になれるか追求した極めて稀有な実験作だったのだ。
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みんなのコメント
デザインの秀逸さは日本車離れしていて室内も十分広かった
タイヤサイズが前後で違うので、ローテーションできないのが残念なところです。
最近は交換用部品が少なくなってるので、大きな故障が発生したらそこまでかな?と言ってました。