ベーシックな水平対向6気筒に7速MT
ポルシェ911 カレラは素晴らしいスポーツカーだ。レスイズモア、少ないことはより良い、ということが体現されている。しかも世界で最も有名なドイツ製スポーツカーの、入口側に位置している。
【画像】7速MT+384psフラット6 ポルシェ 911 カレラT 競合のスポーツモデルと写真で比較 全130枚
しかし992型の登場以来、惜しまれていた点が1つあった。911 カレラSでは選べるマニュアル・トランスミッションを、素のカレラでは指定できなかったのだ。特別なアイテムのように、ポルシェは2018年以来出し惜しみしてきた。
ところが遂に、ベーシックな水平対向6気筒エンジンと3ペダルの7速MTを組み合わせられるようになった。新しい911 カレラTで。
ちなみにオリジナルの911 Tは、1968年に登場。スポーティな仕様ではなく、水平対向4気筒エンジンを積んだ912の後継となるような、デチューンされた質素な911だった。
それから半世紀を経て、ポルシェはモデル末期を迎えた991型の特別仕様として911 カレラTを販売した。2017年のことだった。それ以来、「T」という頭文字はケイマンとボクスター、マカンへ展開。独自のグレードとして成功を収めている。
新しい911 カレラTの内容は、991型のそれとかなり近い。後輪駆動のクーペボディのみに設定され、機械式リミテッドスリップ・デフと、PASMと呼ばれるアダプティブダンパー付きのスポーツサスペンションが装備される。
薄いガラスと軽いバッテリーで軽量化も
先代と異なる部分もある。991型ではカレラSと同じファイナルレシオが組まれていたが、992型では通常のカレラと変わらない。
アルミホイールは、カレラSにも設定される20インチか21インチを選べる。スポーツエグゾーストは標準だ。
厚みの薄いガラスと軽いバッテリーを採用することで、軽量化も図られている。先代と同じく、通常のカレラでは選べない後輪操舵システムもオプションで装備できる。基本は2シーターだが、リアシートは無償オプションで用意される。
911 カレラTの英国価格は9万8500ポンド(約1635万円)と、ベーシックなポルシェと呼べるほど安くはない。それでも、991型のカレラTより数1000ポンド(数10万円)もお手頃になった。
通常のカレラと比べると8700ポンド(約144万円)高く、カレラSより4300ポンド(約71万円)安い。カレラSでも7速MTは選択でき、66psも最高出力は高い。カレラTは少し悩ましい中間位置にある。
差別化も忘れてはいない。ボディサイドの専用ステッカーやダークアガット・グレーに染められたエンブレム、スポーツテックス素材で仕立てられたスポーツシート、ヘッドレストにあしらわれたポルシェのロゴなどで違いが主張されている。
それらが価値あるアイテムかどうかは、人によって受け止め方が違うだろう。だが、カレラTは素晴らしい。運転すれば、ポルシェが今頃になってリリースした理由を聞きたくなるほど。マーケティング上の理由なのだとは思うが。
軽量でシンプル 理想的なパッケージング
ステアリングホイールを握ると、丁度いい911だと発見できる。試乗車に備わっていたオプションは後輪操舵システムのみだったが、装備は充実していて不満はなし。これ以上のパワーやグリップ、ドラマを欲することもなかった。
3.0Lツインターボ・フラット6は、リミテッドスリップ・デフと後輪操舵で能力が拡張されたシャシーと、完璧に調和が取れていた。よりエキサイティングな911も購入できるが、その追加金額を考えればカレラTで充分だとさえいいたくなる。
カレラT唯一の小さな不満は、意外かもしれないが、トランスミッションだ。10年以上前に991型で操った7速MTはレシオが多すぎる印象だったが、それは992型でも変わらない。991 GT3や718ケイマン GT4に搭載される、6速MTの方が好ましい。
とはいえ、384psの6気筒エンジンとMT、軽量でシンプルなパッケージングは理想的。実用性は変わらず、乗りやすい魅力的な911に仕上がっている。
試乗を終え、ロサンゼルスのダウンタウンに設けられたポルシェの集合場所へ戻る途中、頭の中で理想の911 カレラTを思い描いていた。実現できないとわかっていても。
ボディは鮮やかなゲンティアン・ブルーにして、暗めのインテリアを組み合わせたい。エンブレムは外して、四輪操舵システムは追加しよう。こんな夢想を引き出すのだから、いかに素晴らしい911なのかお察しいただけると思う。
ポルシェ 911 カレラT(北米仕様)のスペック
英国価格:9万8500ポンド(約1635万円)
全長:4519mm
全幅:1852mm
全高:1298mm
最高速度:291km/h
0-100km/h加速:4.5秒
燃費:9.7km/L
CO2排出量:234g/km
車両重量:1470kg
パワートレイン:水平対向6気筒2981ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:384ps/6500rpm
最大トルク:45.8kg-m/1950rpm
ギアボックス:7速マニュアル
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みんなのコメント
遊び用に乗るには、これ程面白いクルマはないだろう。