ホンダと日産の経営統合に向けた検討は、残念ながら破談に終わった。当初は両社で共同の持株会社を設立して、ホンダと日産をその子会社にする案があったが、その後にホンダを親会社、日産を完全子会社にする案もホンダから示された。日産は対等な立場を求めたから、両社の思惑に隔たりが生じた。たらればだが、もし経営統合していればどうなったのだろうか?
文:渡辺陽一郎/写真:ホンダ、日産、ベストカーWeb編集部、トビラ写真はベストカーが製作したもの
破談になったけれど……ホンダが欲しがる日産の技術 日産が欲しがるホンダの技術
【画像ギャラリー】ホンダ、日産双方が欲しがる技術ってなんだ? エルグランド? タイプR?(8枚)
ホンダが欲しがる日産の技術やクルマ
会見で示された第3世代のe-POWERの展開
ここで改めて、両社が互いに欲しい技術やクルマを、既に実用化されている内容から考えてみたい。
まずホンダが欲しがる日産の技術には何があるか。現在の日産のラインナップを見ると、ハイブリッドのe-POWERが主力になる。ただしホンダがe-POWERを欲しがることはないだろう。なぜならe-POWERは、ホンダのハイブリッド、e:HEVに比べて機能がシンプルになるからだ。
例えば直列3気筒1.2Lエンジンを使ったe-POWERは、フットブレーキとの協調回生制御を行っていない。従ってDレンジのノーマルモードで走行中、減速時にブレーキペダルを踏むと、ほぼそのままディスクブレーキやドラムブレーキが作動する。優れた燃費性能を得るには、アクセルペダルを戻すと同時に強い制動力が生じるエコモードやスポーツモードを選ばねばならない。
フットブレーキとの協調回生制御を行っているe-POWERは、セレナやエクストレイルなど、1.4L以上のエンジンを搭載する一部の車種に限られる。
その点でホンダのe:HEVでは、全車がフットブレーキとの協調回生制御を行う。Dレンジで走行中にブレーキペダルを踏んでも、状況によってはディスクブレーキが作動せず、回生を強めてe-POWERのエコ/スポーツモードと同じように優れた充電効率を得る仕組みだ。
そうなればアクセルペダルを戻すと同時に強い制動力が生じるエコ/スポーツモードが嫌いなユーザーも、優れた燃費性能を得られる。
さらにホンダのe:HEVでは、高速巡航時にはエンジンが直接駆動を行い、燃費効率を向上させる制御もある。日産のe-POWERにはこの制御もなく、高速巡航時の燃費性能が悪い。そのために北米にはe-POWERが基本的に投入されず、ノーマルエンジンのみになって販売不振を招き、日産の業績を悪化させる一因になった。
ノートe-POWER。e-POWERを搭載したことによってV字回復した。1.2L、e-POWERを搭載。WLTCモード燃費は23.8~28.4km/L
そもそもe-POWERは、急場しのぎの技術だった。日産では電気自動車の開発に力を入れ、ハイブリッドの品ぞろえが乏しかったが、日本国内ではラインナップが必要になった。そこで電気自動車のメカニズムを利用できるe-POWERを大急ぎで開発したら、予想以上の人気を得た。2018年には、先代ノートがe-POWERを設定したことで、小型/普通車の国内販売1位になっている。
この時に日産は、ハイブリッドの開発に一層の力を注ぐべきだったが、実際はe-POWERは目立った進化を遂げられなかった。ホンダの立場から現時点で実用化されている日産の技術を眺めると、特に注目すべき内容は見当たらないだろう。
しかし強いて挙げるとすれば、エクストレイルのe-POWERが搭載する圧縮比を変化させるエンジンがある。巡航時には圧縮比を高めて燃費効率を向上させ、動力性能を高めたい時は、圧縮比を下げてターボを積極的に作動させる。エクストレイルのe-POWERは、このエンジンを発電専用に使うが、海外では単体でも搭載されている。ハイブリッドと組み合わせることも可能だ。
また日産は、サクラ/リーフ/アリアと電気自動車を豊富に用意して、駆動用リチウムイオン電池の種類も多い。
約430億円を投じて栃木県さくら市のホンダ技術研究所内に建設された2万7400平方メートルにおよぶ全固体電池のパイロット工場
今回、統合協議は終了するが、2024年8月に発表した次世代EVの開発に向けた提携は続けるという。注目はリチウムイオン電池と比べ2倍以上の高いエネルギー密度を持つ全固体電池だろう。日産は最もエネルギー密度の高い負極に金属リチウムイオン電池を使うことを明らかにし、2028年度の全固体電池の実用化を目指して2024年度にパイロット生産ラインを横浜工場内に建設中だ。
一方ホンダも全固体電池のパイロットラインを栃木県さくら市の本田技術研究所に建設し、2025年1月から稼働、2020年代後半の製造を目指している。ほぼ同時期に日産、ホンダが全固体電池の実用化を目指しているので、双方にとっても全固体電池の共同開発は相乗効果は高い。
スライドにはエルグランドと思われる大型ミニバン、次世代リーフ、マーチと思われるコンパクトEVのシルエットが……
今回の会見で2025年度には「新型リーフ」、マーチのEVと思われる「コンパクトEV」が発売されることが明らかになった。
ホンダは2030年までにグローバルで30機種のEVを投入予定だが、e:Nシリーズやゼロシリーズなど提携継続によって相互補完もできるはずだ。
ベストカーが製作した新型エルグランドの予想CGイラスト。今回の発表で2026年度に発売されることが明らかになった(新型エルグランドとは公表していないが)
そして今回、やっと2026年度に発売されることが明らかになった、大型ミニバンこそが新型エルグランドである。ホンダが日産を子会社化した暁には、電動化したエルグランドをバッジ違いでホンダでも売るという皮算用があったかもしれない……。
ちなみにベストカーWebの予想では、エルグランドはBEVではなく、e-POWERを搭載、エクストレイルに搭載されている可変圧縮の1.5L、直3VCターボ+モーターを、車重増に対応して発電用パワー/トルクアップなどを改良したもの(最高出力は150ps、最大トルクは25.5kgm、モーター最高出力はフロントが210ps、リアが140ps)。
プラットフォームはエルグランドのために新設されることがないが、エクストレイルのCMF-C/Dプラットフォームをストレッチして使用すると思われる。ボディサイズは全長5000×全幅1880×全高1930mm、ホイールベースは3000mmと予想。駆動方式はFFのほか、日産の電動4WD、e-4ORCEをラインナップする。
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日産が欲しいホンダの技術、クルマ
ホンダ CR-V e:FCEV。燃料電池車なうえに充電も可能という日本では唯一のモデル。EVでの走行可能距離は心許ないが、電気と水素の二刀流というのが唯一無二
一方、日産の視点に立つと、ホンダには優れた技術が多い。先に述べたハイブリッドについては、ホンダのe:HEVであれば、全車にフットブレーキとの協調回生制御や高速巡航時に直接駆動する制御が備わる。
日産はEVラインアップを急ぐあまり、ハイブリッドのラインナップがほとんどないことが北米市場での販売不振につながっていることもあり、日産はホンダのe:HEVをすぐにでも欲しいに違いない。
ホンダは1.5L 、2L直噴アトキンソンサイクルエンジン、フロントドライブユニットおよび統合冷却システムをそれぞれ新規開発し、10%以上の燃費向上した次世代の小型車、中型車用のe:HEVユニットを2024年12月に発表した。ホンダはハイブリッド車を2030年までに年間130万台生産するとしている。
ホンダは小型、中型用の次世代e:HEVユニットを2024年12月に発表している
燃料電池車も用意され、CR-Vにe:FCEVを設定している。e:FCEVは画期的で、充電機能と駆動用電池も併用することで、エンジンは搭載しないがプラグインハイブリッドのような使い方が可能だ。
燃料電池は水素と酸素を反応させて電気を発生させるが、水素を充填する水素ステーションは、全国に約170か所しかない。給油所(ガソリンスタンド)の約2万7000か所を大幅に下まわる。
この状況を踏まえると、自宅などでの充電により、充填の面倒な水素を温存できる効果は大きい。万一、水素を使い果たしても、充電を繰り返しながら水素ステーションまで辿りつくこともできる。インフラの整っていない燃料電池車にとって、充電機能との組み合わせはメリットが大きい。日産としても充電可能な燃料電池車のe:FCEVは欲しいだろう。
なおCR-Vのe:FCEVは、CR-Vにプラグインハイブリッドがあったから開発できた。この柔軟なホンダの発想力も、日産から見ると魅力だと思う。もともとホンダは発想力に富んだメーカーで、それは日産に限らず、ほかのメーカーも手に入れたいのではないか。
後席や荷室の下にあり、そのぶん床を高くしている燃料タンクを前席下へ移動することによって使える空間が劇的に拡大したセンタータンクレイアウト
ホンダの発想力が生み出した内容として、センタータンクレイアウトも挙げられる。軽自動車のNシリーズ、コンパクトカーのフィット、コンパクトSUVのヴェゼルに使われている技術で、燃料タンクを前席の下に搭載することにより、車内後部のスペースを広げている。
コンパクトミニバンのフリードは、車内で移動しやすい真っ平らな床面にこだわったからセンタータンクレイアウトではないが、ミニバンに使うと3列目の床と座面の間隔を2列目と同じように十分に確保できる。かつてのホンダモビリオはセンタータンクレイアウトで、全長が短いから3列目は狭かったが、床と座面の間隔は十分に確保されて意外に快適だった。
トヨタでは、センタータンクレイアウトと同様の効果を得るために、薄型燃料タンクを開発して初代シエンタに採用した。この技術は今でも現行シエンタで活用されている。
以上のように、ホンダの欲しがる日産の技術よりも、日産が欲しがるホンダの技術のほうが多そうだ。そしてホンダが日産に差を付けた理由は、技術力よりも、判断する時の速度のように思える。
そのためにホンダは、日産を完全子会社にして、意思決定も早めようとしたのではないか。逆にいえば、日産の社内的な風通しを改善して意思決定の速度を早めれば、今後も十分に戦えるように思える。
そしてホンダと日産の戦略的パートナーシップは今後も継続される。ホンダと日産の間で、優れた相乗効果が生まれる可能性は十分にある。それは技術や生産だけでなく、販売におよぶかもしれない。トヨタの国内店舗数は約4400か所、ホンダは約2100か所で日産は約2000か所だ。ホンダと日産を合計すれば、トヨタと同等の販売網になる。
例えば地域のニーズに応じて、ホンダと日産の軽自動車専門拠点を作るとか、カーシェアリングやレンタカーの共同ステーションを設けるなど、さまざまな展開を図れる。経営統合が破談したからといって、両社の関係が終わるわけではない。クルマ好きにとっては、これから面白いことが始まるのだ。
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みんなのコメント
日産の技術?
対等な関係?
正当な判断が出来ない企業。
今の状況にいまだ気付かない日産経営陣。
多分、そんな事はみんな分かってる
だけど、日産のプライドがそれを許さないから、こうなった