2026年から新たに導入されたレギュレーションにより、F1のスタートにおける重要性が飛躍的に高まった。
今季からF1は、パワーユニットにおけるエンジンと電動モーターの出力が均等になった。その一方で、昨年までターボチャージャーに直結されていたMGU-Hは廃止されることになった。
■予選全開率UPと安全性向上のために……F1レギュレーションの一部調整が全会一致で合意。WMSCの承認を経て、マイアミGPから導入へ
このMGU-Hは、複雑かつ高価であり、さらに他に技術転用しにくいという理由でF1からは廃止されることになった。ただこれがなくなったことで、スタート時のコントロールが難しくなったという側面もある。
ターボは排気ガスによってタービンを回転させることで作動するため、エンジンの回転数が上がらないとうまく機能しない。MGU-Hはそのタービンの回転により電気エネルギーを回生するためのシステムであるが、逆にモーターとして機能させてタービンを強制的に回転させることもできた……つまり車速ゼロでも、ターボチャージャーの効果を得ることができたのだ。
ただ今季はMGU-Hがなくなったことで、特にスタート時にターボを安定して機能させるのが難しくなった。そのため、チームによって蹴り出しのパフォーマンスに差が生じることになった。そのためFIAもスタート手順を調整することを余儀なくされた。
最初の3戦の結果により、各チームが新たな条件にいかに対処しているかが明らかになってきた。また一部のドライバーが着実に順位を上げた一方、他のドライバーが明らかにポジションを失っている。
スタートを分析することで、新レギュレーションの恩恵を受けているドライバーと、まだ大幅な改善の余地があるドライバーを見極める上で、重要な手掛かりとなるだろう。
■PU部門:フェラーリPUが好ダッシュ
2026年シーズンの最初の4レース(中国GPのスプリントレース含む)において、フェラーリ製パワーユニット(PU)搭載チームは、1周目で合計25ポジションアップを果たした。他のPUでこの数字に匹敵するモノはないが、アウディとホンダはそれぞれ1チームずつにしかPUを供給していないため、やや異なる比較である。
アストンマーティンはこれまで1周目に14ポジション上げており、少なくともスタートダッシュでは2番目に優れたPUだと言える。しかしアストンマーティンは最後尾付近からスタートすることが多く、順位を落とす可能性はほとんどない。
メルセデス製のPU搭載車は、ワークスチームの2台こそポジションを落とす印象があるが、カスタマーチームは堅実なスタートを披露しており、8ポジションアップを果たしている。
対照的にレッドブルとアウディは苦戦。レッドブルPU搭載車はこれまでの4レースだけで、既に21ポジションも1周目だけで失っている。一方でアウディは、1チームのみの搭載にも関わらず、26ポジションも落としている。
■チーム部門:最高ダッシュを決めるのはフェラーリではない??
意外なことに、最高のスタートダッシュを決めているチームはフェラーリではない。現時点ではウイリアムズが最高のスタートを決めるチームであり、ここまでで合計18ポジションを上げた。ただフェラーリも17ポジションを上げ、僅差で続いている。
ただ今季ウイリアムズは後方からのスタートとなることが多く、やや過大評価という可能性もある。一方でフェラーリは、そのほとんどがトップ5圏内からのスタート……上げられるポジションが限られているということも注意しておく必要がある。
そういう意味でフェラーリのスタートでのパフォーマンスは、実に印象的と言える。レーススタートに向けた徹底的な準備が、明らかに功を奏している。
一方でフェラーリPUを使う他の2チーム、ハースとキャデラックは、合わせて4ポジションしか上げられていない。つまり同じPUを使っていたとしても、シャシーによって大きくパフォーマンスが異なる可能性があるということだ。この傾向はメルセデス製PUを搭載するチームにも見られる。
■メルセデスがスタート苦手の怪
メルセデス製PUを搭載しているチームのうち、皮肉なことにワークスチームであるはずのメルセデスが、スタートでは最も苦戦している。予選で速く、フロントロウからのスタートとなるため、順位を上げるのが難しいのは理解できる。しかしわずか4レースで合計22もポジションを落とすというのは、やはり衝撃的だ。
前述の通り、メルセデスPUをカスタマーとして使うウイリアムズのスタートは好調。ただ同じメルセデスPUを使うアルピーヌとマクラーレンのスタートも悪くない。アルピーヌは合計10ポジションを上げ、マクラーレンは2ポジション上げた。
特に注目すべきは、日本GPでオスカー・ピアストリが見せた力強いスタートだ。彼は3番グリッドだったものの、一気に首位に躍り出て、その後しばらく首位を走った。
このことは、メルセデスがスタートで苦労している理由がPUにあるわけではないということを示唆している。もちろん、関係がゼロというわけではないだろうが。おそらくメルセデスのワークスチームは、スタート手順そのもの、セットアップや運用上の一貫性の欠如が、現時点では弱点になっているように見える。
■ドライバー部門:スタートダッシュ王サインツ
ドライバーのデータを見ても、その状況は明らかである。
今シーズンスタートで最もポジションを上げたのは、カルロス・サインツJr.(ウイリアムズ)である。彼は合計12ポジションアップを果たしており、1レース平均3つポジションを上げているということになる。現時点での”スタートダッシュ・キング”の称号を与えよう。
これに続くのはフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン/10ポジションアップ)、シャルル・ルクレール(フェラーリ/9ポジションアップ)、ルイス・ハミルトン(フェラーリ/8ポジションアップ)である。
スタートで苦戦しているメルセデスは、実はふたりのドライバーで大きく差が生じている。ジョージ・ラッセルが1周目に落としたポジションは5にとどまっているが、チームメイトのアンドレア・キミ・アントネッリは17ポジションも落としてしまっているのだ。これほどまで大きな差が生まれているのは、実に興味深い。
一方もっと深刻なドライバーもいる。それはアウディのニコ・ヒュルケンベルグだ。
ヒュルケンベルグはオーストラリアGPにスタートできなかったため、今季はまだ3回だけスタートに臨んだという状況だ。しかしその3回だけで、合計21ポジションも失ってしまっている。1戦あたり実に7ポジションダウンであり、これはあまりにも大きすぎると言えるだろう。
レッドブルのふたりもスタートでうまくいっておらず、マックス・フェルスタッペンとアイザック・ハジャーがそれぞれ11ポジションずつ落としている。ただその一方で、レーシングブルズは概ね順位をキープしているという点は興味深い。
なおFIAやF1参戦各チームが賛同したことにより、次のマイアミGPからスタートに失敗したマシンが存在した場合に危険な状況が生じるのを避けるべく、「低出力スタート検出システム」がテスト導入されることになった。
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