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【フォルクスワーゲンに何が起きたのか?】#3 一致するトップの交代時期!取り戻した品質主義と次の試練

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【フォルクスワーゲンに何が起きたのか?】#3 一致するトップの交代時期!取り戻した品質主義と次の試練

ヘルベルト・ディースの存在

ここから先は、フローリアン・ウンバッハの話だけでなく、私の推測も一部追加されていることをあらかじめお断りしておきたい。

【画像】フォルクスワーゲンらしさを取り戻した現行モデル!ティグアン、パサート、ゴルフ 全200枚

1997年にフォルクスワーゲンに入社したフローリアンは、一貫してフォルクスワーゲン・ブランドのシャシー開発、ビークルダイナミクスと向き合ってきた。ただし、2007年から2016年まではブガッティに出向していて、フォルクスワーゲンの製品開発から離れていたという。ちなみに、現職に就いたのは2021年のことである。

一方、ゴルフ8は2018年に発表された。つまり、ゴルフ8の開発で最も重要だった期間を、フローリアンはブガッティで過ごしていたのである。これが第一の悲劇だった。

もうひとつ、ゴルフ8の開発に影響を与えたと思えるのが、ヘルベルト・ディースの存在である。BMWの取締役会メンバーだったディースは2015年にフォルクスワーゲンに移籍。乗用車部門の取締役会議長に就任すると、2018年にはグループ全体のトップにまで登り詰めた。

彼はコスト管理に厳格で、乗用車部門の取締役議長に就任してからの2年間で同部門の利益率を2倍に引き上げたことが評価され、グループ全体を率いる立場に抜擢されたのだ。

一方で、フォルクスワーゲンの品質に翳りが見られた時期と、ディースがフォルクスワーゲン内で出世を果たしていった時期はピタリと一致する。「コスト削減を押し進めるあまり、製品のクォリティ低下を招いたのではないか?」。そう邪推されても仕方なかろう。

不運がいくつも重なった

もうひとつの不運は、こうした出来事と低転がりタイヤの普及がほぼ同時に起きたことにある。低転がりタイヤはタイヤ自身が持つダンピングが低いため、そうでなくとも微振動を発生しやすいようだ。

しかも、ゴルフはタイヤサイズやブレーキサイズが多岐にわたり、それに伴ってバネ下重量が大きく変化するモデル。バネ下重量が変わればバネ下の共振周波数も変化し、全ての条件でバネ下の共振を抑え込む作業はより困難になる。

しかも、当時はディースが開発コストを厳しく監視していたほか、頼みの綱というべきフローリアンもブガッティに出向して不在だった。そうした不運がいくつも重なって、ゴルフ8は微振動を残したまま出荷が始まったと推測されるのである。

ここでフォルクスワーゲンの名誉のために付け加えておくと、ゴルフ8くらいの微振動を起こすクルマは、ほかにいくらでもある。品質が高いことで名高い『某プレミアムブランド』でさえも、ゴルフ8よりひどい微振動を起こすモデルはいくつもあった。

ただ、たまたま私の微振動に対する感度が比較的高く、そして私自身のフォルクスワーゲンに対する期待度が高いことから、普通であれば無視されても不思議ではないくらい軽微な振動が気になっただけのことなのだ。

苦境から見事に立ち直った

しかし、この苦境からフォルクスワーゲンは見事に立ち直った。ティグアンとパサートがその先駆けとなったことは前述のとおり。さらにいえば、先ごろマイナーチェンジを受けたゴルフ8.5も微振動を完全に封じ込めていたし、同様のことはドイツで試乗したI.D.Buzzでも体験した。フォルクスワーゲンは完全復活を遂げたといっていいだろう。

ちなみに、ディースは2022年に突如として退任。その理由については、コストダウンを強力に推し進めた結果、労働組合などとたびたび衝突したことにあったと報じられた。そして後任にはオリバー・ブルーメが指名された。もともとグループ内のポルシェで会長を務めていたブルーメは、ふたつの要職を兼任するという。

ブルーメに対する評価をフローリアンに訊ねると「素晴らしい経営者。必要な部分にコストをかける価値を理解している人物だ」との答えが返ってきた。おそらく、フローリアンが進めたい方向での車両開発をブルーメは認めてくれるのだろう。最近デビューしたフォルクスワーゲン・ブランドのクォリティを見れば、フローリアンの評価が間違っていないことがわかるはずだ。

もちろん、フォルクスワーゲンの未来に暗雲がひとつもないわけではない。昨年末からたびたび取り沙汰されてきた工場閉鎖や従業員解雇などの報道を見ても、彼らが順風満帆とは言い切れないことが理解できる。

今後どのような道筋を進んでいくのか

もっとも、だからといって彼らの経営が苦境に陥っているわけではない。ちなみに、フォルクスワーゲン・グループの乗用車ブランド(フォルクスワーゲン、フォルクスワーゲン・コマーシャル、シュコダ、セアト、キュプラ)の利益率は2024年に5.0%を記録した。

これは2023年の5.3%を下回る水準だが、それでも、いわゆる大衆車メーカーとして5.0%の利益率は決して悪くない。それでもコスト削減を急いでいるのは、持ち株会社であるポルシェSEの意向だとされる。聞けば、同社はフォルクスワーゲンに対して6.5%の利益率を要求。これを実現するために、フォルクスワーゲンは経営の効率化に取り組んでいるのだという。

しかし、フローリアンの話を聞く限り、ブルーメが無茶なコスト削減を強要することはなさそうだ。「いくらコストを下げても、品質が顧客の期待する水準に達していなければ、顧客は製品を買ってくれないでしょう。ブルーメはそのことをよく承知しているので、心配ありません」 フローリアンはそうとも語っていた。

では、今後のフォルクスワーゲンはどのような道筋を進んでいくことになるのか。

いま申し上げたとおり、たとえ経営の効率化が図られても、製品のクォリティを犠牲にすることはなさそう。では、どうやって支出を抑えるかといえば、当面はプロジェクト数を絞り込む公算が高い。しかも、ヨーロッパを始めとする国々ではEVのセールスが伸び悩んでいる。したがって、今後はEVの製品化をややスローダウンさせても不思議ではないような気がする。

これはあくまでも個人的な意見だが、彼らの電動化計画が多少遅れても私は意に介さない。それよりもはるかに大切なことは、フォルクスワーゲンが品質主義という本来の姿に戻ったことにある。私は、そう固く信じている。

(終わり)

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