カスタムカーの歴史と伝統が詰め込まれた1台
去る2024年1月25日、アリゾナ州フェニックスで開催されたRMサザビーズのオークション。同じRMサザビーズの主催でも、やはり欧州で開催されるオークションとはひと味異なるアメリカならではの出品車も少なくもありません。そんな「ご当地モデル」のひとつが、こちらで紹介する初代フォード「ブロンコ」です。
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ラダーフレームを持つ本格的なクロスカントリー4WD
国境を超えてこれだけクルマが普及すると大手自動車メーカーの送り出すクルマは、世界中どこでも過不足なく使える「工業製品」として、より普遍的で優等生的な仕上がりとなっていくのはある意味当然。誰もがその恩恵に与れる技術の民主化である。
しかしその反面、「この時代にこの地域でしか産まれ得ない個性」といったものは薄れていく。世界中どのメーカーのクルマも水準以上のよくできた道具となり、何に乗ってもまぁ間違いない……となると、さほどクルマに興味のないユーザーにとってはあれこれ考える必要もなくめでたしめでたしなのだが、クルマを趣味・愛玩の対象として捉える一部の好事家にとっては物足りなさを感じるようだ。
そんなコアなクルマ好きが行き着く先のひとつがカスタムカー、改造車文化の世界だろう。新車であれクラシックカーであれ、吊るしの状態には飽き足らず、思い思いに手を入れて自分好みの1台に仕上げていく「ホビー」。とくにアメリカでは自動車の普及に多大な貢献を果たした「T型フォード」のおかげで、その中古を安く手に入れた若者たちを中心としたカスタムカーの趣味世界が古くから存在してきた。
それらの発露がホットロッドやショーロッドなどのジャンルで、厳格な車検制度のある日本や、オリジナルの状態を大切に考える欧州に比べると、随分とおおらかな趣味の土壌といえよう。
今回紹介する1974年式のフォード ブロンコは、前述のように1月25日にアリゾナ州フェニックスで開催されたRMサザビーズのオークションに出品されたもの。ブロンコといえば、ラダーフレームを持つ本格的なクロスカントリー4WDとして知られるフォードのSUVで、2021年には6代目となる新型がデビューしたばかりだが、こちらは1966年から1977年にかけて生産された「アーリー・ブロンコ」と呼ばれる初代モデルだ。
近代化改修が施されたブロンコ
2代目以降からのブロンコは大柄なSUVへ進化していったが、この初代は全長3863mm×全幅1772mm×全高1814mm、そして2336mmのホイールベース(1969年のカタログより)と比較的コンパクト。
100psを発生する排気量170立法インチ(約2.8L)直6エンジンに加え、オプションで156psの302立法インチ(約5L)V8エンジンも選べ、その取り回しの良いサイズのボディとも相まってオフロードでは高い機動力を発揮した。
一見すると完璧にレストアされた初代ブロンコなのだが、じつはこの出品車の中身は徹底的に近代化改修が施されている。テネシー州に拠点を置くアーリー・ブロンコの整備・レストアのスペシャリスト「キンサー・シャシー」のオリジナル・ラダーフレームに、エンジンも435psを発生する5L V型8気筒DOHC、最新のフォード・コヨーテ・エンジンを搭載。
トランスミッションも6速オートマチック、ウィルウッド製の4輪ディスクブレーキなど、現代の路上でも何の問題もなく過ごせる快適なドライビングのための多数の最新装備が投入されている。このブロンコはいわば、初代「ジムニー」のボディに現行「ジムニーシエラ」の中身を組み合わせたような、ハイパーマシーンなのである。
日本人にとっての40系「ランクル」のように、かの地では郷愁とともに語られるアイコンとしての意味合いもあるアーリー・ブロンコ。そのブロンコをクラシカルな外観はそのままに、最新最強のクロスカントリー4WDとして生まれ変わらせた出品車。19万400ドル(邦貨換算約2860万円)という価格で落札されたこの個体には、人々のアーリー・ブロンコへの想いと、カスタムカーの歴史と伝統、彼の地ならではのプラグマティズムなど、アメリカ自動車趣味の全てが詰まっていたのだ。
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