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当時は惨めな小型車だった ダラック10/12HP スパイカー12/16HP ベテランカー・ランの功績車(2)

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当時は惨めな小型車だった ダラック10/12HP スパイカー12/16HP ベテランカー・ランの功績車(2)

映画出演の仕様が忠実に保たれたダラック

映画「ジュヌヴィエーヴ」のヒットにより、ダラック10/12HPも想像以上の注目を集めた。オーナーのノーマン・リーブス氏は、それに嫌気が差し売却を決意。ニュージーランドのジョージ・ギルトラップ氏と契約が結ばれた。

【画像】ベテランカー・ランの功績車 ダラック10/12HP スパイカー12/16HP 同時期のビアンキ 現行のスパイカーC8も 全54枚

南半球へ渡ったダラックは、1958年からオーストラリアのギルトラップ博物館へ展示され、来場者を喜ばせた。1966年に彼は亡くなるが、1989年まで家族が保管し、その後ポール・テリー氏が購入する。

彼は、オーストラリアのエスプラネード・エクストラバガンザ自動車博物館のオーナーで、購入額は28万5302ポンドだったという。映画の主役だったとしても、相当な金額といえた。

以前の取材で、オリジナルではなく映画に出演した仕様を忠実に保つという、テリーの考えをお聞きしている。「ジュヌヴィエーヴの状態にしておくか、少し悩みました。でも、大きな決断ではありませんでした」

前オーナー時代に走り込まれており、トランスミッションとリアアクスルはリビルドが必要だった。エンジンブロックの亀裂は溶接で埋められ、36年ぶりに、1992年のベテランカー・ランへ走行可能な状態へ戻された。

しかし、彼は開催直前にヘリコプター事故でこの世を去ってしまう。映画にも出演し、同乗予定だった女優のダイナ・シェリダン氏は、「ジュヌヴィエーヴを英国へ戻せたことが、唯一の良い結果になったといえます」。と言葉を残している。

現在の所有者は、エバート・ローマン氏。ネザーランドのローマン博物館を主宰し、ベテランカー・ランにも定期的に参加している。

1つの博物館へ収蔵された2台

かたや、スパイカー12/16HPのオーナー、フランク・リース氏は、映画で高まった人気を楽しんだようだ。撮影が終わるとフロントガラスが取り付けられ、ボディはイエローから淡いグリーンへ塗装された。

彼は1964年にこの世を去るまで大切に維持し、母国のネザーランドへクルマを戻して欲しいという遺言を残した。その遺志の通り、中西部にあるデルーネンのオートトロン自動車博物館へ運ばれ、40年後の2004年にローマン博物館へ引き取られた。

果たして、映画に出演した2台が1つの博物館へ収蔵されることになった。改めて並べてみると、非常に印象的なペアだ。

スパイカーは4シーターで、大きく立派に見える。真鍮の部品がそこかしこで輝き、主役級の存在感がある。他方、ダラックは2シーターで小ぶり。ボディは簡素で、ステアリングホイールが宙に飛び出て見える。ベンチシートの位置は不自然なほど高い。

実際の走りも、スパイカーの方が安定している。12/16HPに載るエンジンは、ヤコバス・スパイカー氏が設計した2544ccのサイドバルブ4気筒。3速のトランスミッションと、当時としては先進的なプロペラシャフトを介して、リアアクスルが駆動される。

点火タイミングを遅らせて、始動用のクランクハンドルを回すと、1回転目で即座に始動。安定したアイドリングが始まる。キャビンの左側に並ぶ4本のシリンダーで、潤滑油が正しく流れているか確認する。

120年近く昔とは思えないほど走りは洗練

足元には、2枚のフロアヒンジ・ペダルが並ぶ。左側がマルチプレート・クラッチの切り離しで、右側がトランスミッション側に組まれたブレーキ。ウッドリムのステアリングホイール上には、点火タイミングとスロットルのレバーが2本伸びる。

直進時は問題ないものの、レバーはステアリングホイールと一緒に回る。旋回時は、ポジションを思い出しながら操作する必要がある。

ボディの外側で突き出ている、長いシフトレバーを1ノッチ右手前方へ倒し、1速を選択。エンストしないようにエンジンを軽く吹かし、クラッチを滑らかに繋げば、スパイカーは走り始める。

120年近く昔のクルマとは思えないほど、走りは洗練されている。ステアリングレシオが高く、腕には力が必要なものの、遊びは殆どない。4気筒エンジンはトルクが太く、最小限の回転数でもボディを前進させる。

丁寧にダブルクラッチを踏んで、シフトレバーを1ノッチ奥へ倒して2速へ。スロットルレバーを調整する必要はない。現代的なクルマとは異なるプロセスだが、直感的に理解しやすい。

速度を落とすには、ブレーキペダルと、ハンドブレーキ・レバーを上手に操る必要がある。ある程度の力も必要で、短時間では慣れない。

当時は少々惨めな小型車だった

通称ジュヌヴィエーヴことダラックは、正直なところ当時のモデルと比較しても技術的には遅れていた。ベテランカー・クラブ会長を務めていたジョン・ミッチェル氏は、映画による功績を認めつつ、当時は少々惨めな小型車だっただろうと話している。

クランクハンドルを回すと、スパイカーのように1発始動。2365cc直列2気筒エンジンの振動に合わせて、ボディのあちこちが共振する。フロントガラスはそもそもなく、着座位置は周囲を見下ろせるほど高い。

バルクヘッド上のオイルリザーバー・プランジャーを数回動かし、潤滑させて発進。足元には、現代的なモデルと同じくペダルが3枚並ぶ。クラッチペダルとブレーキの間に、ステアリングコラムが伸びている。

トランスミッションは3速マニュアル。シフトレバーは、ウッドリムのステアリングホイールの下から伸び、点火タイミングのレバーと場所を分け合っている。スパイカーとは、異なる運転技術が求められる。

ニュートラルから1ノッチ上げるとリバース。手前側へ1ノッチづつ倒すと、1速づつシフトアップしていく。タッチは曖昧で、注意力が求められる。

クラッチはレザー張りのコーン・タイプで、劣化を抑えるにはデリケートな左足の操作が欠かせない。繋がりは唐突で、不慣れなドライバーがMT車を運転する時のように、発進時に強い揺れを伴う。

映画がなければ今の愉しみはなかったかも

進み出してしまえば、欠点も楽しめる。コンパクトなボディながら、ステアリングレシオはスロー。スパイカーのように、反応が正確というわけではない。減速は、右側のハンドブレーキ・レバーを引く力へ依存している。

速くはないものの、運転は面白い。ステアリングホイールを握りながら、トップギアを選択。ブライトンまで目指せそうな気がしてくる。

100年以上昔のビンテージカーを味わうことは、自動車を愛する筆者にとって至上の喜び。一挙手一投足へ夢中になれる。特にジュヌヴィエーヴと名付けられたダラックは、非常に特別な存在といっていい。

古いクルマを嗜む趣味を80年前に肯定した、立役者だ。ダラックが劇中で走らなければ、今の愉しみはなかったかもしれない。

協力:デビッド・バージェス・ワイズ氏、ジョナサン・ギル氏、イアン・スタンフィールド氏、国立自動車博物館、ローマン博物館、ピーター・ヘインズ氏、RMサザビーズ

ジュヌヴィエーヴへ出演した2台のスペック

ダラック10/12HP ジュヌヴィエーヴ(1904年)

英国価格:350ポンド(新車時)/100万ポンド(約1億8100万円)以下(現在)
生産数:1台(ジュヌヴィエーヴ)
全長:−mm
全幅:−mm
全高:−mm
最高速度:48km/h
0-97km/h加速:−秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:650kg
パワートレイン:直列2気筒2365cc 自然吸気サイドバルブ
使用燃料:ガソリン
最高出力:12ps
最大トルク:−kg-m
トランスミッション:3速マニュアル(後輪駆動)

スパイカー12/16HP ダブルフェートン(1904~1907年)

英国価格:370ポンド(新車時)/60万ポンド(約1億860万円)以下(現在)
生産数:−台
全長:4064mm
全幅:1828mm
全高:−mm
最高速度:59km/h
0-97km/h加速:−秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1100kg
パワートレイン:直列4気筒2544cc 自然吸気サイドバルブ
使用燃料:ガソリン
最高出力:16ps
最大トルク:−kg-m
トランスミッション:3速マニュアル(後輪駆動)

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