2桁で採算が取れるクルマも!
自動車メーカーは、モデルチェンジから1カ月を過ぎたあたりに「受注好調」という発表をすることがある。たとえば、大幅なマイナーチェンジを実施した日産スカイラインについては、『発表から約1カ月半で1760台の受注を突破』したという発表があった。また、フルモデルチェンジをしたホンダN-WGNは『発売開始から2週間での累計受注台数が2万台を超えた』という話もある。それぞれ、成功・好調といえる台数だからメーカーが数字を表に出してくるのだろうが、はたして自動車という商品は何台くらいが売れれば成功といえるのだろうか。
ホンダの新型軽N-WGNが王者N-BOXを追い落とす可能性!「身内」を上まわる衝撃の実力と売れ行き
あらためて、スカイラインとN-WGNの台数を比較すると10倍以上の開きがあるが、それぞれビジネスとしては成功しているといえる。もしN-WGNが1500台程度の初期受注であったら大失敗と言われることだろう。なぜなら商品企画によって目標台数というのは異なるものだからだ。大雑把にいうと、開発コスト・生産コストと販売見込み、市場における競争力の関係から売価というのは決定される。そうして導かれた目標台数をクリアすれば商品としては成功したといえる。
極論すれば、スカイラインの内容を軽自動車並みの価格で販売すれば、台数的には大ヒットするかもしれないが、売っても売っても赤字という状況になるのは容易に想像できるだろう。つまり「たくさん売れた」から儲かるとは限らない。逆に、台数限定でも儲かるように開発していれば延べで3桁しか売れていなくともビジネスとして成立する。いわゆるスーパースポーツの世界では2桁で採算が取れるケースも珍しくない。
そのクルマが成功かどうかは生産が終わるまでわからない
また、最終的に儲かったかどうかは、その製品(モデル)が生産を終えたときに決まる。初期受注が好調であっても、新車効果が薄れて急激に売り上げを落とすようでは、やはり儲かるクルマとはいえないだろう。つまり、低価格によって商品魅力を高めることで初期受注を稼いだとしても、モデルライフ全体でみれば儲けの少ない商品になることもある。
さらにいえば、開発コストにしても計算方法・考え方はメーカーによって異なる。たとえばプラットフォームやパワートレインなど多種多様なモデルで共有する開発コストについて、それぞれのモデルでどのように負担するかで、各モデルの採算分岐点が変わってくる。
そうした基本部分の開発コストを主力モデルに負担させたとすれば、スキンチェンジ的な派生モデルの採算分岐点は大きく下がることになる。一方で、派生車種の展開を織り込んでいるケースもある。さらにいえば、その車両には直接かかわらない基礎技術や先進技術の開発費についても、最終的にはクルマという商品を売った儲けによって捻出している。バックオフィス部門のコストも含めて、会社としてすべてのコストが一台一台のクルマに乗っているといえるのだ。
つまり、自動車という商品において「最低でも何台売らないと赤字になる」という普遍的な目安はない。同じ軽自動車であっても、月販1000台ペースで儲かるように考えられたものから、最低でも1万台は毎月売らないと失敗というクルマもある。とはいえ、少なくともメーカーが初期受注の好調をアピールする数字というのは、そのペースでいけば大儲けにつながる台数と判断する目安にはなる。もちろん、そのペースで売れ続けるということは、めったにないわけだが……。
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