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インタビュー|映画カーズからF1へ。角田裕毅の元”弟子”は小さなプロスト……新人アイザック・ハジャーのレース人生

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インタビュー|映画カーズからF1へ。角田裕毅の元”弟子”は小さなプロスト……新人アイザック・ハジャーのレース人生

 2025年のF1にレーシングブルズから角田裕毅のチームメイトとしてデビューを果たしたアイザック・ハジャー。開幕前は同期のビッグネームたちの影に隠れてきたが、序盤のレースで大きな注目を集める様になった。

 20歳のアルジェリア系フランス人であるハジャーは、雨の開幕戦オーストラリアGP決勝でフォーメーションラップ中にクラッシュを喫するという波乱のスタートを切ったが、第2戦中国GP、第3戦日本GPで予選Q3進出を果たすと、日本GPと第5戦サウジアラビアGPで入賞。その速さと安定性は既にレッドブルのモータースポーツアドバイザーであるヘルムート・マルコから称賛を得ており、ハジャーを「今シーズンのサプライズ」と呼んだ。

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 motorsport.comでは、そんなハジャーにインタビューを敢行。モータースポーツ最高峰へたどり着くまでの道のりを振り返ってもらった。

■キッカケは映画

 ハジャーのモータースポーツ人生は、ディズニー・ピクサーの名作『カーズ』から始まった。

「家で映画のカーズを見ていたんだ」

 モータースポーツが好きになった瞬間についてハジャーはそう語った。

「2歳の頃だった。DVDを買った瞬間を覚えている。それを覚えているなんてクレイジーなことだ! それからテレビでF1を見るようになった。そこが始まりだ」

 パリ生まれのハジャーは6歳になる頃には既にカートを始めていた。

「パリの近くに屋内カート場があった。父と一緒に行って、初めてやった時から本当に上手かったんだ」とハジャーは振り返る。そして8歳頃には競技カートを始めた。

「カートキャリア初期の数年は素晴らしかった。最初の2~3シーズンとかはね」

 しかしカートのキャリアが進むにつれ、ハジャーの参戦状況は厳しくなっていった。

「僕には、速く走るための走行距離もシャシーも、エンジンも、適切なパッケージのようなモノもなかったから、国内選手権やもっと上のクラスに行くと、本当にフラストレーションが溜まるようになった。もちろん、この頃の両親は、僕が勉強することを何より望んでいた。10歳から13歳くらいの時は、他のみんなと競い合うことができなかった」

 ハジャーは、成功が才能よりも予算に左右されることに不満を募らせていった。

「僕はずっとヨーロッパ選手権や世界選手権に出場したくて、カート最終年になんとか出ることができた。でもそれが精一杯だった」

「カートの1シーズンは、フルで走ると20~24レース以上になる。でも僕は8レースだった。メインレースしかやれていなかった。それで少し準備不足だったし、上手くいかなかった」

「僕のカートキャリアは、最初の数年間はとても楽しかったけど、少しフラストレーションの溜まるモノだった」

キャリアが花開いた転機

■親友でありライバル

 カート時代のライバルについてハジャーに聞くと、現在FIA F2に参戦している同郷サミ・メゲトゥニフの名前を挙げた。

「彼は僕の親友で、モータースポーツ界で一番の友人だ。国内選手権では何度も一緒に戦った。でもいつも楽しいバトルだった」

 ハジャーとメゲトゥニフの交流は2015年に始まった。

「友達になってもう10年になる。ル・マンで彼と彼のお父さんに会った時、彼は『君、アルジェリア人?』って聞いてきた。僕が『フランス人だけど、アルジェリアにルーツがあるんだ』と言うと、彼は『ああ、僕はアルジェリア人だよ!』って返してきた。本当に面白かった。良い思い出だ。彼がF1に上がってくるのを待っているよ」

 そう語るハジャーは、メゲトゥニフと共にF1のグリッドに並ぶことができるはずだと信じている。

「彼はとても速い。僕に比べて、キャリアパスで少し恵まれていなかった。彼も理解しているけど、僕の方が良い選択をした。それがカギだし、タイミングも重要だ。でも、彼はF1に必要な素質を全て持っている」

■四輪デビューで花開く

 ハジャーのレーシングドライバーとしてのキャリアは、カートからフォーミュラにステップアップしてから飛躍し始め、フランスF4で勝利を重ねると、2021年にR-ace GPでフォーミュラ・リージョナル・ヨーロッパ選手権(FRECA)へステップアップした。

「四輪では、ドライバーとしてもっと大きな違いを生み出せると思う。カートで速くなるのは簡単なことで、エンジンとシャシーが合っていれば、0.1~0.2秒差で簡単に勝てる」

「四輪では、速くなるために色々なことに取り組む必要がある。それに、カートの時よりもF4の方が快適だったんだ」

 キャリアの転機はモナコで訪れた。FRECAのレースでポールポジションから優勝を収めた瞬間だ。

「あの日のことは全て覚えている。かなりのプレッシャーがかかっていて、スタート時点で路面は少し濡れていて、僕らはスリックタイヤを履いていた。トリッキーなコンディションだったけど、すぐに(路面が)乾いてレースを支配することができた。デグラデーション(性能劣化)がまったくなくて、ファステストラップを連発したことを覚えている」

「そして僕はレースに勝った。今までで一番楽しいレースだったよ」

 レース後、ハジャーはマネージャー役を務めた母親から電話を受けた。

「ヘルムート・マルコがモンテカルロ・ベイ・ホテルで僕に会いたがっているって言うんだ。マルコやレッドブルとコンタクトを取るのは、それが初めてだった。それで彼に会って、契約書を送ると言われた。それだけだ。本当に簡単だった。本当に良い日だったよ!」

レッドブルのサポートを受けてステップアップ

■成長は進む

 レッドブルのサポートを受け、ハジャーは2022年にFIA F3へステップアップ。スプリントレースで2勝、フィーチャーレースで1勝を挙げ、ランキング4位で翌年からF2へ昇格。2023年にはアルファタウリ(現在のレーシングブルズ)からメキシコシティGP、レッドブルからアブダビGPのFP1に出走した。

 2024年シーズンのF2でハジャーはフィーチャーレース4勝を記録しタイトルを争ったが、アブダビでの最終レースのスタートでストール。チャンピオンの称号はガブリエル・ボルトレト(ザウバーから今年F1デビュー)のモノとなった。

 チーム無線で「人生最悪の瞬間だ」と口にしたハジャーだったが、インタビューでは「実際はそうでもない」とも語った。

「僕にはもっと悪い瞬間もあった。その時点で、自分の将来は分かっていたと思う。もちろん、あのような負け方は辛かった。でも最も劇的なモノでもなかった。最悪だったのは、戦えなかったことだ。最悪の感覚だった。でも『僕はF1にいけない。これはヤバい、本当にヤバい』と思った、もっと最悪の瞬間もあった。あれはそれほどの衝撃はなかった。だけどファイターとして、勝利を求める人間として、とても辛かった」

 ハジャーの痛みを和らげたのは、それから2日後にアブダビでポストシーズンテストに参加しレッドブルRB20のステアリングを握れたことだろう。2024年シーズン中にはイギリスGPでFP1にも出走した。

■パーソナルエンジニア

 ハジャーはレッドブルの育成プログラムに加入してから、ドライバーとして大きく成長したと語る。

「4年前のFRECAにいたアイザックとは、ドライビングのレベルも能力も、精神力も、今の僕とは雲泥の差だった。進歩が分かる。もちろん、レッドブル・ジュニアチームのテクニカル面における体制は本当に強力だ。今もそうだけど、僕には理解して、向上するためのツールが全て揃っていた」

 ハジャーは、かつてセバスチャン・ベッテルの相棒を務めたエンジニア、ロッキーことギヨーム・ロケリンと緊密に協力しながら成長してきた

「彼はサーキット外では僕専属のエンジニアみたいなモノだった。週末に起こったことなら、どんな質問でも、どんなことでも彼に話すことができた。今でもそうしている」

 ふたりともフランス人だが、ハジャーはそれが関係性においてプラスに働いたというわけではないという。

「彼は今、フランス語よりも英語のほうが上手だよ」とハジャーは笑いながらに明かした。

■月曜日の“怖い”電話はなし

 レッドブルのジュニアドライバーとなると、レースが終わった月曜日にマルコから電話がかかってくるというのが普通だが、ハジャーはそうではなかった。

「そういう電話はなかったよ」とハジャーは言う。

「僕に関しては、他のドライバーたちほどひどくはなかった。僕らは正直な関係だし、はっきり言って、彼とは笑い話のほうが多かった」

 また週の後半にもマルコはハジャーに電話をかけなかった。

「彼は時々、まったく電話してこないんだ! 彼が僕にそっけない態度を取ったことはない。最初のF2シーズンで苦しんだ時でさえ、彼は僕をプログラムに置いてくれた」

 そしてF1参戦という目標を達成する上で、両親の教えが活きていたとハジャーは語った。

「F1は常に目標だった。子どもの頃からのね。それ以外のことを考えたこともなかった。でも僕の両親は……母が僕のマネージャーも兼ねているんだけど、いつも僕に『今やっていることに集中しなさい』「その先のことは心配しなくていい」と言ってくれた。そして、彼らのアプローチが素晴らしく活きたと思う」

 2025年F1開幕戦オーストラリアGPでハジャーがクラッシュを喫した後、マルコがオーストリアのテレビ局を通じて辛辣なコメントを残したことが話題となった。ハジャーは涙を流しながらパドックへと戻る自身の姿は「痛々しかった。僕も彼に同意する」と語った。

 その後、マルコに何を言われたかとハジャーに尋ねると、彼は次のように答えた。

「彼は僕のクラッシュなんて気にしていなかったよ。こういうことは、誰にでも起こり得る。彼は怒っておらず、ただ『OK、中国ではもっと良くなる』と言った。それだけだよ」

小さなプロストと呼ばれるのはなぜ?

 ハジャーには、ル・プティ・プロスト(小さなプロスト)というニックネームがある。

「何が由来? ってみんなに聞かれるんだけど、僕にはさっぱり分からない」とハジャーは言う。

「僕が爪を噛む癖があるからだと思う。ヘルムートが僕にそう言ったんだ。僕がプロストみたいに爪を噛むってね。顔が似ているからじゃない。声が似ているからか、分からない。でも、これ(爪を噛む癖)のせいだと思う」

「でも、このニックネームには本当に満足している。プロストはレジェントだからね」とハジャーは笑顔で続けた。

「僕と関連付けられることが、彼にとって悪いことじゃないといいな。彼が怒っていないことを祈るよ!」

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