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広島で話題の「運賃格差」問題──実はインバウンド対策のヒントかもしれない

掲載 更新 7
広島で話題の「運賃格差」問題──実はインバウンド対策のヒントかもしれない

整理券復活が招く現場負担

 広島のローカル交通決済システム「MOBIRY DAYS(モビリーデイズ)」が話題になっている。理由は、ICOCAなどの交通系ICカード利用者が、広島電鉄の一部バス路線で整理券を取らなければならなくなったためだ。これまでのように端末にタッチするだけでは乗車できない。

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 筆者(山本哲也、交通ライター)も実際に、平日の昼間に広島電鉄バスの郊外路線に乗ってみた。終点の広島バスセンターで下車したのは約10人。そのうちICOCAを使っていたのは、筆者を含めて3人だった。

 乗車時に整理券を取り、下車時にはそれを運賃箱に入れる。すると乗務員が、ICOCAの簡易端末に金額を手動で入力する。その後、合図を受けてICカードをタッチすることで支払いが完了した。

 この時は乗客が少なく、対応に時間はかからなかった。しかし、朝夕のラッシュ時であれば、乗務員にも乗客にも負担が大きくなるだろう。

 そもそも、ICOCA利用者に整理券が必要になったのは、先代のICカード「PASPY」が2025年3月29日でサービスを終了したことが背景にある。PASPYに代わって導入されたのがMOBIRY DAYSだ。

広島交通決済の分断課題

 MOBIRY DAYSは、PASPYの後継として広島電鉄が中心となり、2024年7月に一部路線から導入を始めた交通決済サービスである。方式は、スマートフォン型とICカード型の2通りがある。

 PASPYはICカード内に残高情報を記録していたが、MOBIRY DAYSはセンターサーバーに情報を記録する方式であり、根本的に仕組みが異なる。そのため、両者に互換性はない。

 従来のカード内蔵型方式では、サーバーだけでなく車載器も更新が必要だった。おおよそ7~8年ごとの更新が求められ、その費用は約40億円以上にのぼった。費用の約半分を負担していた広島電鉄にとっては、大きな経済的負担となっていた。

 一方、サーバー集中型にすることで、割引制度など柔軟なサービス展開が可能になるという利点もある。

 MOBIRY DAYSは、広島電鉄のバス・電車に加え、グループ会社の備北交通、芸陽バス、ボン・バス(エイチ・ディー西広島)でも導入された。

 グループ外の動きとしては、広島中心部と郊外を結ぶ新交通「アストラムライン」が、処理速度の問題から導入を早々に見送った。代わりにICOCAに一本化する方針をとっている。

 また、郊外路線を多く持つ広島交通、広島バス、JRバス中国もICOCAを基本とし、MOBIRY DAYSの導入は一部路線に限定している(その他の路線は2025年度に導入予定)。

 MOBIRY DAYSの開始により、複数の事業者を乗り継ぐ利用者やICOCAユーザーは不便を強いられた。しかし広島電鉄にとっては、その影響は軽微と見て、経営的判断を下したと考えられる。

ICOCAとMOBIRY DAYSの運賃格差

 ICOCAの整理券問題についての記事や動画は多いが、ICOCAとMOBIRY DAYSの運賃差についてはあまり報じられていない。広島地区は宮島や原爆ドームといった観光地を抱えており、交通系電子マネーへの対応が不可欠だ。広島電鉄がMOBIRY DAYSを導入する際、最大の課題となったのは、旅行客が多く区間ごとに運賃が異なっていた宮島線である。

 広島電鉄はPASPY廃止前の2025年2月1日に運賃改定を実施し、市内線と宮島線の運賃を一律240円に統一した。これによりICOCA利用者は整理券が不要となり、降車時に乗務員がいる出口でカードをタッチするだけで支払いが完了するようになった。これで宮島線のICOCA整理券問題は解決したように見える。

 しかし、日常的に短区間を利用する地元客にとっては、突然の値上げは負担となった。そこで考案されたのがMOBIRY DAYS運賃だ。広島電鉄の公式サイトには「電車全線均一運賃 大人240円、小児120円」と大きく記載されているが、その下の小さな文字でMOBIRY DAYS運賃も案内されている。

 MOBIRY DAYSの運賃表を見ると、最低運賃は150円だ。ICOCAで支払うと一律240円だが、MOBIRY DAYS利用者は150円となり、最大で90円の差が生じている。さらにMOBIRY DAYS利用者は全線乗り通しても220円となり、定率割引が適用される。

 MOBIRY DAYS利用者への優遇措置といえるが、裏運賃とも解釈できる。わざわざMOBIRY DAYSのアプリをダウンロードし、クレジットカードとひもづける旅行者が広島でどれだけいるのか疑問だ。多くの旅行客は高いほうの運賃を支払うことになる。

運賃格差が示す観光政策の新潮流

 広島電鉄グループの電車・バスでICOCAを使う利用者は、整理券が必要になった。車内でのチャージもできなくなった。また、電車の宮島線では運賃に格差も生じている。

 MOBIRY DAYSはクレジットカード決済のほか、口座振替も可能だが、対応している銀行は広島銀行のみである。スマホ以外にICカードもあるが、現金チャージは窓口でしかできない仕組みだ。PASPYと比べると、MOBIRY DAYSは全体的に不便に感じられる。

 広島地区の他のバス事業者も、ICOCA対応とMOBIRY DAYS対応で二重の負担を強いられている。結局のところ、

「誰のための仕組みなのか」

疑問に思えてしまう。そもそも筆者は、ローカルエリアごとの独自決済システムはコスト増でしかなく、交通系ICカードかクレジットカードのタッチ決済が使えれば十分だと考えていた。

 しかし今回のMOBIRY DAYSの運賃格差は、インバウンド対策のヒントになる可能性があると気づいた。例えば、観光公害で悩む京都市では、市民や通勤・通学者向けに専用の市バス決済システムで大幅割引を実施し、それ以外の決済手段利用者には高めの通常運賃を課す仕組みを作るのはどうだろうか。

 観光客の数を大きく減らす効果は期待できないが、取るべきところからしっかり徴収し、観光公害に苦しむ地元住民の負担を軽減できるだろう。

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みんなのコメント

7件
  • aya********
    手間と運賃天秤にかけて割に合うと思うものを選べばいい。
    個人的に自分の使用頻度だとわざわざモビリーデイズで割引受けようと思わないし、西広島ー宮島間は面倒なのでJR使う。
  • kaw********
    広電の言い分はICOCAだと費用が高額。割引が出来ない。

    しかし、広電グループのみがモビリーデイズを採用。
     ICOCAの割引も車内チャージもしない。
     窓口までチャージに来い。
     銀行チャージはて素量を頂きます。
     ICOCA乗車では整理券を取れ?
    これが広島で一番資金力のある会社。

    資金力の低い他社は全てICOCA。モビリーデイズを拒否。
    当然車内チャージもあり。そしてコンビニやその他ICOCAがチャージできるところで当然チャージできる。
    しかもICOCAで割引を実施。

    あらゆる面で信用できない地元企業の筆頭になってしまった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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