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アストンマーティン ヴァンテージ、100年先に繋がるマイルストーンを読み解く【Playback GENROQ 2018】

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アストンマーティン ヴァンテージ、100年先に繋がるマイルストーンを読み解く【Playback GENROQ 2018】

ASTON MARTIN Vantage

アストンマーティン ヴァンテージ

アストンマーティン ヴァンテージ、100年先に繋がるマイルストーンを読み解く【Playback GENROQ 2018】

次の百年へのマイルストーン

スタイリングとパワートレインを一新し、生まれ変わったヴァンテージ。冬季テストの現場から、その開発を取材し続けた小誌が、新型ヴァンテージの詳細と未来をレポートする。はたしてゲイドンの次の100年に成功をもたらす1台となるか──。

「逞しいアスリート、あるいは俊敏な野生動物を想像させるビジュアル」

普遍的な芸術作品は概してシンプルでありながら、微妙に複雑なラインを描く。その美しさが普遍なのは、シンプルさと複雑さが巧妙に混ざりつつも、そのラインに無駄が存在しないからなのだろう。新しく登場した4世代目ヴァンテージはそんなことを想起させるスタイリングを持つ。2016年に登場したDB11のような彫刻を思わせるデザインから一転し、ヴァンテージはまるで逞しいアスリート、あるいは俊敏な野生動物を想像させるビジュアルとなった。

そして、よく見れば、15年にわずか24台が生産されたサーキット専用モデルのヴァルカンに連なるデザインを感じる。そう、サーキット専用モデルに由来する空力特性は新型ヴァンテージのコンセプトの核心である。フロントからボディ下面に導かれた空気は冷却性能に貢献しつつリヤディフューザーへ流れ、リヤまわりに流れる空気を整流するという。フロントフェンダーのアウトレット(サイドギル)はフロントホイールハウスから空気を吸い出すことでリフトを最小限に抑え、跳ね上げられたリヤデッキもまた、大きなダウンフォースを生み出す。全幅1900mmを超えるローアンドワイドなボディは全長4465mm。DB11よりも274mm、ポルシェ911よりも40mm短い。このスクエアなディメンションは俊敏さに直結するだろう。

「インテリアも秀逸なデザインが採り入れられる」

秀逸なデザインはインテリアも同様だ。先代の特徴だった流れ落ちる滝のような形状のセンターコンソールを改め、コンパクトですっきりしたデザインとなった。空調やナビ、オーディオといった各種スイッチ類と新たにエンジンスタート/ストップボタンを頂点として三角にレイアウトされたセレクタボタン(P-R-N-D)が整然と並ぶ。安易にタッチパネルを採用せず、クラシカルだが実用性の高いロータリーダイヤルとトグルスイッチが好印象だ。スクエアなステアリングの裏には固定式のシフトパドルが備わる。内装はアルカンターラとレザーの組み合わせが標準だが、オプションでフルレザーも選べる。先代モデルと較べて10mm低められたシートは、標準のスポーツシートとホールド性の高いスポーツプラスシートが選択可能だ。

新型ヴァンテージはデザインだけではなく、エンジニアリングも話題豊富だ。これまでのアストンマーティンの不文律に従いつつ、あらゆる技量のドライバーにとって高すぎない難易度に仕上げたという。すなわちエンジン、トランスミッション、サスペンション、ステアリングの統合制御がさらに進んだ。以下その詳細についてお伝えしていこう。

「最新世代のアダプティブ・ダンピング・システムを採用」

フロントミッドにマウントされるエンジンは、すでにDB11に搭載されたメルセデスAMG製4.0リッターV8ツインターボ。だがベースはあくまでベース。最高出力こそ510psでDB11と同一だが、最大トルク685NmはDB11よりも10‌Nm、AMG GTより50‌Nm高い。さらにエンジニアが注力したのは、アストンマーティンらしい吸排気系の仕上げだ。特に後述するドライブモードで、スポーツプラスやトラックモードを選択すればアストンらしいサウンドに納得するだろう。

DB11から採用された新世代プラットフォームをベースとするが、コンポーネンツの70%はヴァンテージ専用となる。接着剤で接合したアルミフレームの高剛性と軽量化はすでにDB11で証明済み。乾燥車重1530kg(ライトウェイトオプション車)となる。なおAMGエンジンは本来ドライサンプだが、ヴァンテージでは薄型の専用ウエットサンプが採用される。組み合わされるトランスミッションはDB11と同じくZF製8速AT。トランスアクスル方式を採用することで50:50という良好な前後重量配分をもたらした。

サスペンションはフロントにダブルウィッシュボーン、リヤにマルチリンクを採用。スカイフック・テクノロジーを採り入れた最新世代のアダプティブ・ダンピング・システムが採用された。DB11と同様にドライブモードは3種類。スポーツ、スポーツプラス、トラックが選択可能でDB11のGTモードがトラックモードに置き換わっている。スポーツプラスあるいはトラックモードでは前述のサウンドの他、スロットルレスポンスとシフトスピードが速くなり、ステアリングフィールもダイレクト感が増し、アダプティブ・ダンパーも調整される。DB11と同じ電動パワーステアリングが採用され、ロックトゥロックも同じく2.4回転とクイックレシオとなる。

「ハイエンドなレースの世界をも支配する重要なマイルストーンになるかもしれない」

新型ヴァンテージはアストンマーティン初の電子制御リヤデフ(Eデフ)を備える。GKN製EデフはESCとリンクして、完全なオープンデフから100%ロックまで100分の1秒単位で制御するという。またDB11で採用されたダイナミック・トルク・ベクタリング(DTV)も装備する。

今回の新型発表と同時にレース仕様のヴァンテージ GTEも披露された。18年シーズンからWEC(世界耐久レース選手権)のGTEクラスに参戦すべく、同時に開発が進められ、すでに1万3000kmものテストをこなしている。セカンドセンチュリープランでDr.アンディ・パーマーCEOが示したように、2台の新型ヴァンテージはラグジュアリーブランドのスポーツカーとしてアストンマーティン旋風を巻き起こすだけではなく、ハイエンドなレースの世界をも支配する重要なマイルストーンになるかもしれない。日本における新型ヴァンテージの価格は本稿執筆時点では明らかになっていないが1900万円台との由。デリバリーは18年第2四半期から始まる。

雪上テストの意義をテストドライバーに尋ねる

スウェーデンの北極圏、アルビッツヤウルは欧州自動車メーカーのテストコース銀座だ。中でもひときわ巨大なのはコンチネンタルの冬季試験場で、多くの自動車メーカーがここで合同テストを行っている。2017年2月、新型ヴァンテージのプロトタイプテストを取材するべく、筆者はこの地を訪れた。

エンジニア氏の案内でテストコース内のガレージに入ると寸詰まったDB11が置かれていた。ヴァンテージのプロトタイプである。自動車メーカーが新型車を製作する際、まずシャシーとパワートレインを載せるための台車を造って試行錯誤を繰り返す。今どきはシミュレータである程度、精度の高い解析ができるが、やはりプロトタイプを製作し、泥臭く作らないとできない部分は多い。

プロトタイプは当然ながら運転が許されない。テストドライバー運転の同乗試乗と相成った。テストコース内の林道風コースを走らせるのは、スタビリティコントロールシステムのエンジニア、マーク・バーロン氏だ。アップダウンのあるコースは狭く、リアルワールドのような緊張感があるが、快音を響かせながら駆け抜けていく。事前にエンジンはAMGの4.0リッターV8ターボにDB11と同じ8速ATを組み合わせると聞いていたが、アメリカンV8を思わせるAMGとは異なリ、レーシングイメージのアグレッシブなサウンドを奏でている。アストンらしさがきちんと演出されていたことに安心した。

「アジリティ、レスポンス、そこから来る感動にさらに磨きをかけた」

この冬季試験場におけるテストの主眼は、ABSやアクティブスタビリティコントロールだという。従来は機械式デフだったが今回からEデフを採用したこともあり、協調制御のチューニングが難しい。減速時と加速時にはスタビリティを重視し、ターンインではデフをフリーにして旋回しやすくするなど考えなければならないパラメータが多いのだ。ESCはコンチネンタル社の最新モデル、MK100を採用している。なるほどEデフとの協調制御は見事で、ドライバーの雪上運転スキルの見事さもあるが高速コーナーでの高いスタビリティと小さなコーナーでクイックに向きを変えていくメリハリがあった。

テストコースを出て、一般道を封鎖した林道にステージを移してテストを行う。途中パパラッチの盗撮を横目に見つつ、山道の入り口に着いた。2車線だから先ほどよりも道幅は広い。封鎖しているとはいえ、あくまで一般道だ。トナカイが出てこないとも限らないから緊張は高まる。ちなみにテストコースは全周フェンスで囲われており、トナカイの侵入はある程度防げる。ワインディングを駆け上がりながら、バーロン氏に一般道テストの意味を問うと、重視しているのは官能評価だという。なるほど、テストコースで試すような限界性能だけではなく、ドライバーとクルマの対話を大切にするアストンマーティンらしいと感じた。

新型ヴァンテージはアジリティ、レスポンス、そこから来る感動にさらに磨きをかけたという。そのカギとなるのがEデフだ。自然な操作感と接地感を得るべく、これらの電子制御のセッティングに膨大な時間が注がれた。まずは新しいスポーツカーの誕生を祝福したい。

REPORT/吉岡卓朗(Takuro YOSHIOKA)
PHOTO/ASTON MARTIN LAGONDA

【SPECIFICATIONS】

アストンマーティン ヴァンテージ

ボディサイズ:全長4465 全幅1942 全高1273mm
ホイールベース:2704mm
車両重量:1530kg(Dry)
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:375kW(510ps)/6000rpm
最大トルク:685Nm(69.9kgm)/2000-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前255/40ZR20 後295/35ZR20
最高速度:314km/h
0-100km/h加速:3.7秒
環境性能(NEDC)
燃料消費率:10.5L/100km
CO2排出量:245g/km

※GENROQ 2018年 1月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

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