言語・数値・画像……AIごとに違う得意分野
オープンAIの「チャットGPT」やグーグルの「ジェミニ」といったAIサービスを目にする機会は増えてる。SNSに投稿する文章や画像を生成したり、業務レポートをまとめてみたりと、日常的にAIを利用しているという人も多いのではないだろうか。
人型ロボットはもう実用段階! 開発の焦点は脳にあたるAIかと思いきや「見た目や触感の人間らしさ」レベルまで到達していた
そして「AIにはまったく縁がない」という人でも、知らず知らずのうちに恩恵を受けている可能性は高い。なぜなら近年の自動車においてAIは欠かせないテクノロジーとなっているからだ。
さて、改めてAIについて整理してみよう。AIは「Artificial Intelligence:アーティフィシャル・インテリ ジェンス」という英語の略称であり、日本語で表記すると「人工知能」となる。ただし、完全に人間の脳と同じ機能をコンピュータで実現できる……わけではない。
現時点では、それぞれのAIに得手不得手がある。冒頭で紹介したチャットGPTやジェミニといったAIは、お もに文章生成や要約を得意とするもので、AIの種類でいうと「大規模言語モデル(LLM)」に大別される。そのほか、数値予想やデータ分析を得意とする回帰モデルAI、画像認識に特化したAI、画像生成を得意とするAIなどなど、さまざまなAIテクノロジーが存在している。
人工知能といっても人間の脳を完全に模しているレベルではない。それぞれのAIを得意な領域に合わせ、用途に応じて使い分けているのが現状と言える。
自ら学習して賢くなる人工知能の爆進化
AIが従来のコンピュータプログラムと異なるのは、AI自身が学び、進化するところにある。専門用語を使うと、数多のデータから法則を見つける機械学習に加えて、人間の脳回路を模した”ニューラルネットワーク”を活用していることが、最近のAIが見せる爆発的な進化につながっている。いずれにしても自己学習することがAIの特徴と理解できる。
学習領域における進歩こそがAIの進化の原動力だ。AI関連のニュースを見ていると、”ディープラーニング (深層学習)”という言葉を目にすることもあるが、これはニューラルネットワークによる高度な機械学習を意味している。
自動車でいえば、CNN(たたみ込みニューラルネットワーク)の存在に注目したい。聞き慣れない言葉に拒絶反応を示してしまうかもしれないが、結論から言えば、画像認識に強みを見せるAIを生み出すテクノロジーのことだ。カメラ画像のなかから瞬時に物体を認識する、「目を司るAI」とも言い換えられる。
画像から車両、歩行者、信号、建造物、そして道路などを瞬時に認識することは、先進運転支援機能や自動運転に欠かせないことは言うまでもない。AIは新世代のクルマに必須のテクノロジーとなっている。
しかも自動運転テクノロジーだけに限らず、AIの活躍する領域は拡大し続けている。クルマ好きであればこそ、AIを受け入れ、その大きな流れや進化の方向性を理解する必要があると言えるだろう。次のページでは自動運転に関するAIテクノロジーのトレンドに着目して深掘りしていこう。
データからの学びで得る人間を超える能力
自動運転におけるAIの進化を知る前に、いまから10年前の2016年に誕生した”人より強い”囲碁AIである「アルファゴー」について振り返っておきたい。
グーグルの子会社が開発したアルファゴーは、囲碁に特化したAIとして、初めてプロ棋士に勝利したことで知られている。その技術的ポイントといえるのが、前述したディープラーニングの採用だ。それまでの囲碁AIは、基本的に「もしこうなったら、こう打つ」と人間が教えていた。つまり、人間が考えた”最良の手”を状況に応じて選択するという思考であり、こうしたアプローチを専門用語では「ルールベース」という。
誤解を恐れずに言うと、ルールベースではプログラムする人間の能力が限界となる。結果、囲碁AIの場合はハイアマチュアレベルにしか達しなかったと言われている。
しかし、ディープラーニングを採用すると、AIがデータから学習することになる。さらに進化を加速させたのは、AIが自己対局を高速で繰り返し、AI自身が最良の手を考える点だ。これによって人間では到達不可能といわれるレベルに達することができた。同様のことは自動運転においても言える。
従来の先進運転支援システムは、人間が定めた仕組みをシステムに教え込むルールベースによっている。たとえば、カメラで歩行者を認識することを定義する。その後、歩行者までの距離を測定、自車速度との兼ね合いから事故の可能性を判断させる。そして事故を避け、万が一の際は被害を軽減するためにブレーキをかけるといった制御を行うといった具合だ。
曖昧な状況でも迷わないAIが導き出す最適解
ルールベースによる自動運転の欠点は、想定外の事態への対応が苦手なこと。自動運転では周囲のクルマとのネゴシエーション(=交渉)が重要となるが、杓子定規なルールベースでは自然に譲り合うような振る舞いが難しい。
そこで自動運転の最新トレンドとして注目されているのがE2E(エンド・トゥ・エンド)と呼ばれるアプローチだ。わかりやすく表現すればAIに映像と操作を直接結びつけさせ、「最適解を自ら導き出させる」方式だ。
具体的には、熟練ドライバーの走りをディープラーニングによって学習させることがスタート地点となる。さらに、シミュレーション内での自己学習も進めていく。そうして仮想空間において人間が経験できないほどのシチュエーションを走行して、上手な運転を身につける。
結果として、事故を起こさず、乗り心地を確保したまま、最適なルートで目的地に向かうという目的を果たせることようになるのだ。
E2Eのアドバンテージとして見逃せない点は、ルールで定められることが難しい曖昧なシチュエーションに対応できること。周囲とのネゴシエーションが求められる混雑した状況での合流もスムースにこなすことが期待できる。イレギュラーな要素が多い市街地において自動運転を実現するためにはE2Eが必須と言われ るのは、ルールベースに対する圧倒的な応用力を評価しているからだ。
おそらく、囲碁の世界においてAIが人間を超えたように、運転領域においても人類の最高峰レベルを自動運転が超える日はそう遠くない。そうなると自動車の設計から変化していく可能性がある。
自動車の概念を覆すAIの無限の可能性
人類の限界を超えたドライビングスキルを手に入れたAIの能力を引き出すには、人知を超えたハードウエアが必要となるだろう。人間は、ステアリングにしろ、アクセルにしろ、ひとつの入力しかできないが、AIであれば4輪ごとの駆動力や操舵を独立しつつ連携させた操作ができる。そうなるとタイヤの性能をフルに引き出すことも可能となり、たとえば人間より速いタイムでサーキットを走ることも可能になるはずだ。
また、滑らかな運転を目標設定すれば、ロールやピッチングを抑えたスムースなドライビングも実現可能だろう。ルールベースの自動運転ではギクシャクさが気になることもあるが、進化したAIによるE2E自動運転になると、乗っている人が加減速やコーナリングを感じないような、雲の上に乗っているような体験ができるかもしれない。そうなると、シートや窓などが、現在とはまったく異なるレイアウトになる可能性もある。
いずれにしても、進化したAIに最適化したハードウエアを人間が設計できるとは思えない。つねに学習して最適化を続けるAIの求める自動運転車両を設計できるのはAIだけ……という時代がやってくるというのは、おそらく近未来の現実だ。
いかなるAIの進化も最後判断は人間の感性
すでにAIは自動車の設計に深く関わっている。空力や安全性にも影響するデザイン領域においてAIをアシスタント的に活用しているメーカーもある。新興企業のなかには、フルAIによるスタイリングの実現を目指している会社もあるという。
しかし、AIが最終決定をすることはなさそうだ。筆者が耳にしたエピソードでいえば、某タイヤメーカーではトレッドパターンをAIに生成させているが、最終的にはテストドライバーが、”ひとの感性”に合ったデザインを選んでいると言う。肉体を持たないAIは、いくら学習してもひとの感性を身につけることは難しい。最終判断を下す熟練したテスターはAI時代のクルマづくりにおいても必須と言える。それは、ブランドごとの個性にもつながる。AIによって没個性的なクルマばかりになると心配することはないだろう。
自動車の製造・開発においてAIの守備範囲が広がったら、コストはどうなるのだろうか。AIデータセンターの課題とされている消費電力の大きさはコストアップ要因だが、エンジニアや熟練工を減らすことができれば人件費としてはコストダウンになる。どちらの要素が勝るのかは予想が難しいが、AIをフル活用することで開発期間は大きく短縮するだろうから最終的にはコストダウンにつながるはずだ。
AIの活用はトータルでは生産性向上にもプラスと考えられる。すでに生産現場で活用されているケースもある。たとえば、スズキでは作業分析AIを導入している。生産手順における無駄をAIが洗い出すことにより作業効率化や品質の安定を図ると言う。同時に、熟練工の技能を新人に伝えることもサポートするというから、教育コストを下げることも期待できる。
AIが人間の能力を超えることを”シンギュラリティ”という。果たして自動車業界にシンギュラリティが訪れる とき、どんな魅力的なクルマが登場しているのか? 進化し続けるAIを使いこなした自動車業界の生み出す未来が本当に楽しみだ。
※本記事は雑誌「CARトップ2026年3月号」に掲載した記事を再構成して掲載しております
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