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マクラーレンのイメージを覆す新型「GT」の“ラグジュアリー”さとは?

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マクラーレンのイメージを覆す新型「GT」の“ラグジュアリー”さとは?

2019年9月にも日本に導入されるマクラーレンのニューモデル「GT」にイギリスで乗った。

それもグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードのヒルクライムコースで大観衆を前にして、という超晴れ舞台で!

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ただし、自分が運転したのではなく、レーシングドライバーの運転で助手席に乗った。フェスティバル・オブ・スピードでヒルクライムコースを走れるドライバーは限られていて、F1をはじめとするレーシングマシンなどは現役のトップドライバーが何人も務めているほどだ。

GTを運転したのはレーシング・ドライバーのミッチェル・ホール氏。今回は、助手席での同乗試乗体験のみだった。僕を乗せてくれたのは、ミッチェル・ホールというレーシングドライバー。フォーミュラ・ルノーを戦っている若手有望株だ。レースがない時には、こうしたイベントやトレーニングなどでインストラクターを務めているから、マクラーレン各車には精通している。

マクラーレンGTは発表されたばかりの新型で、走っている姿を公開するのは世界初となる。僕も、陽光の下で見るのは初めてだ。

改めて眺めてみて、控え目なエアロパーツや滑らかな曲面と曲線が連続するエクステリアデザインの特徴がよくわかる。特に、斜め後ろから見た姿にGTらしさが良く現れていると思う。

マクラーレンGTの日本での価格は2645万円。リアミドシップにエンジンを搭載する。これまでのマクラーレン各車はダイナミックパフォーマンスの達成を最優先するがゆえに、ボディスタイリングはエアロダイナミクスの追求に終始していた。そこがまたマクラーレンの魅力であるわけだけれども、このGTはそこから踏み出して“新しいマクラーレン”を形作っているように見える。

2019年4月にウォーキングのMTC(マクラーレン・テクニカルセンター)で発表前のGTを見せられた時にも、開発責任者のダレン・ゴダード氏は、GTのコンセプトを次のように語っていた。

搭載するエンジンは4.0リッターV型8気筒ツインターボ。「サーキット走行を楽しめるパフォーマンスを備えながら、大陸横断旅行も可能な多用途性を併せ持っている」

現在、マクラーレンはアルティメット、スーパー、スポーツというモデル・ヒエラルキーをパフォーマンス順で垂直に構成しているが、GTは垂直には連ならず、少し横にズレて多用途性というもうひとつの軸に重心を置く。

そのために、GTには広大なラゲッジスペースが用意されている。フロント150リッター+リア420リッターの計570リッターという積載量はライバルたちを大きく凌ぐ。大陸横断旅行にはこれくらい必要だろう。

ラゲッジルームはフロントとリアにある。リアの容量は420リッター。ラゲッジルームにはゴルフバッグも積める。しなやかな足まわりさて、フェスティバル・オブ・スピードのヒルクライムのスケジュールはとてもタイトだ。ミッチェルも、「1日3回走る」と言っていた。

現代のF1マシン、1970年代のル・マンカー、1960年代のラリーカー、戦前の高性能車、1960~70年代のアメリカン・マッスルカーなどといった具合に細かくさまざまにカテゴライズされたクルマたちが、上がっては降りてくる。だから、パドックは順番を待つクルマと走り終わったクルマでごった返している。

インテリアはほかのマクラーレンとほぼおなじデザイン。パドックから出て、スターティングエリアの前で順番を待っていると、ミッチェルがGTについていろいろと教えてくれる。

「僕もここで初めてGTに乗ったけれど、路面からのショックをうまく吸収するサスペンションに驚かされたよ」

GTのサスペンションは「プロアクティブ2」と呼ばれるもので、路面状況や挙動の変化によってダンパーの働きを油圧アクチュエーターによって電子制御するものだ。

筆者はこのサスペンションが装備されたマクラーレン「650S」で中国の西安から敦煌までの4000kmあまりを走ったことがあるが、その性能と快適性がきわめて高い次元で両立し、疲れをまったく感じなかったことに驚いたことがある。それが「2」に進化したのだから、ミッチェルの言うことにも頷けてくる。

「あと、ステアリングが少しだけだけど、スーパーやスポーツシリーズほどクイックではないところが違うかな」

スタート前のGT。トランスミッションはデュアル・クラッチ・タイプの7AT。最高出力620psと最大トルク630Nmを発生するツインターボ過給された4.0リッターV8エンジンをカーボンファイバーシャシーのミドに搭載するという構成は他のマクラーレン各車と共通している。0-100km/h加速が3.2秒、0-200km/h加速は9.0秒、最高速度は326km/h。

「そろそろスタートだ」

コースマーシャルがミッチェルを促し、我々はヘルメットを被り、スタートラインについた。

「ノー、ノー」

もうひとりのコースマーシャルが慌てた様子で近寄ってきた。僕が走行中の様子をビデオで撮影しようとカメラを構えていたら、それを咎められたのだ。

スタートの合図が下されたと同時に、ミッチェルはGTを全開加速させた。

「ウッ!」 猛烈な加速で上半身がシートに押さえ付けられ、ヘルメットがヘッドレスト部分に喰い込むのがわかった。ジェントルな走りを勝手に想像していたから、猛烈な加速に驚かされた。

GTの最高速度は326km/h。すぐに前方には右コーナーが迫っている。ミッチェルはその手前で軽く短くフットブレーキを踏んだ後、右にステアリングを切り、緩やかに登っていくコースで再び加速を続けた。

「この後、小さな段差や舗装の繋ぎ目が連続するから、そこでGTがいかに巧みにショックを吸収し、スムーズに走り切るか確かめられるよ。ホラッ」

ミッチェルの言う通り、GTは段差と舗装の繋ぎ目をスコスコッという音だけでほとんどショックを伴わずにクリアした。フラットな姿勢を保ちながら、サスペンションだけが一瞬でジワッと路面からの入力を減衰させた。謳い文句通りだ。

「もう一か所くるぞ」

ヒルクライムコース終盤近くの、右、左と切り返す途中にも小さな段差があったが、GTの身のこなしは変わらず、実に滑らかだ。西安から敦煌まで650Sで走った感触を思い出した。

燃費はWLTCモードで約8.4km/L。Chris Brown走行モードはトラックモードを選び、パドルでマニュアル変速している。細く長いストレートで、ミッチェルはGTをさらに加速させていった。再び強烈な加速Gが加わってくる。プロのレーシングドライバーが鞭を入れると、ホンの一瞬だったが獣の本性を垣間見ることができた。

まだまだ加速を続けている最中にあった細いストレートの途中にフィニッシュラインがあった。ミッチェルはアクセルを緩め、惰性で走らせていくと丘の頂上の広場へとコースマーシャルによって導かれた。

GTを停め、表に出てヘルメットを脱いだ。丘の上の涼しい風が気持ち良い。

フィニッシュまで1分間ぐらいだっただろうか? 「1分15秒ぐらいじゃないかな」。

限界の何パーセントぐらいのアタックだったのか? 「70、いや60パーセントぐらいかな。ハハハハッ」。

静止状態から100km/hまでに要する時間はわずか3.2秒。広場には、次々と他のクルマが駆け上がってくる。すでに販売されている何台ものフェラーリやランボルギーニ、フォード「GT」、ジャガー「FタイプSVO」、マクラーレン「セナ」、「セナGTR」など。そして、珍しいところではナロウボディのポルシェ「911」に最新の911のエンジンやメカニカルコンポーネンツを移植することで知られているシンガー。これから発売が予定されている、カモフラージュ柄のラッピングが施されたレクサス「LCコンバーチブル」やランドローバー「ディフェンダー」などがこのグループの面々だ。

それらのクルマと見較べて、マクラーレンGTの容姿は穏やかで抑制が効いていて、とてもエレガントだ。強い日差しをウインドウ周りのクロームメッキパーツが反射して眩しい。

Chris Brownグループのクルマが揃うと、同じコースをゆっくりと走ってパドックへ戻った。コースの途中にはあちこちに観覧席が設けられていたり、芝生には多くの観客が鈴なりになったりしていた。

ヒルクライムとはいってもタイムを計測しているわけではない。それでも、まだ売っていないクルマや稀少なクルマが走っている姿を至近距離から眺めることができるのには胸が躍る。

丘の中腹には広大なオートキャンプ場があるから、そこから通うのも楽しい。以前にはなかったオートバイのモトクロスやトライアルの実演などを見るのも面白いだろう。自動車メーカーはコースでクルマを走らせるだけではなく、自らのブースでさまざまなエキシビションを行なって観客を飽きさせない。マクラーレンも、GTの発表のほかにブロック玩具のレゴ社とコラボして制作した実物大のレゴブロック製マクラーレン・セナを持ち込んで人気を集めていた。

出展している関連メーカー、関連団体なども同じで、とても1日や2日ではすべてを見尽くすことができないほど充実している。今年で27回目を数えるが、回を追うごとに規模が拡大し、来場者が増えている。

ラグジュアリーなマクラーレンパドックに戻ってミッチェルと別れ、GTをデザインしたマクラーレンのデザインディレクター、ロブ・メルビルと話をした。前述したGTのデザインについての感想を述べると、メルビルは頷きながら説明を始めた。

「GTは多用途性に優れ、ラグジュアリーなマクラーレンなので、デザインでもそれを表現しています。ボディ表面をできるだけスムーズでクリーンにし、それぞれのラインも水平基調に近づけるようにしました」

エアロダイナミクスよりも、多用途性と豪華なルックスということですね? 「ええ。ノーズを少し持ち上げて駐車をしやすくしていますし、後方視界も向上させています」

ほかのマクラーレンにくらべ、後方視界はよくなっているという。造形上で難しかったのは、どんなところだったのか? 「新しいマクラーレンなのだけれども、路上に走り出した時に誰が見ても“マクラーレンだ!”とわかる個性を持たせることでした。具体的には、ハンマーヘッドシャーク(シュモクザメ)のようなフロントフェイス(注:フロントフェイス左右それぞれの端に位置するヘッドライトを一直線につなぐラインを持っていること)と尖ったノーズはマクラーレンの特徴なので、それは変わらずに盛り込みました」

言われてみると、最近のマクラーレンのフロントフェイスはみな“ハンマーヘッドシャークとシャークノーズ”だ。

「アーティステックでありながらサイエンスも蔑ろにすることはできません。要は、そのバランスです」

インテリア・カラーにはあざやかなボルドーも選べる。シートはヘッドレスト一体型。表皮はレザーだ。GTのインテリアトリムは「パイオニア」「ラクス」「MSOアトリエ」と3種類用意され、それぞれ素材や色など選択肢は豊富だ。乗用車用としては世界初となるというカシミアをブレンドしたシート表皮も選べる。それもラグジュアリーのひとつの表現だという。

「“自分だけの1台”を仕立て上げる楽しみも用意されています」(インテリアデザイナーのジョー・ルイス)

この点でも、GTはパフォーマンス一辺倒で選ばれるマクラーレンではない。グッドウッドのヒルクライムコースで乗り、エクステリアとインテリアのデザイナーたちと話し、GTは間違いなくこれまでとは一味も二味も違ったマクラーレンであることがよくわかった。果たして、GTはマクラーレン・ブランドの幅を拡げることができるだろうか?

次はハンドルを握る番だが、できればそこから大陸横断旅行に出掛けてみたい。

文・金子浩久

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