12年間にわたって造られ続けたマセラティのグラントゥーリズモ/グランカブリオのMCと呼ばれる漆黒の1台で京都へ。
Rei.Hashimoto12年間造り続けたフラッグシップから、マセラティはその先へ
アレッサンドロ・デ・トマソとは何者であったのか? ──イタリアを巡る物語 vol.7(最終回)
“悲報”を受け取ったのは昨年の誕生日のことだった。
2019年11月11日。
マセラティがこの日をもって、12年間にわたって造り続けてきたフラッグシップモデルの「グラントゥーリズモ」と「グランカブリオ」の生産を終えると発表したのだ。
同時にシリーズ“最後の最後”という意味合いのクーペベースのワンオフモデル“ゼダ”(イタリア語のゼット=ゼータのモデナ訛)をデビューさせている。ゼダはこの夏、日本の各ディーラーへと“巡業”し、展示されたのでご覧になった方も多いことだろう。
とはいえ、マセラティは前を向く。次世代モデルからの電動化戦略はまず「ギブリ・ハイブリッド」として発表されたばかりだし、秋には新開発の3リッターV6ツインターボエンジン(メカオタク必見! )をミドに積んだスーパースポーツ「MC20」のデビューも控えているのだ。しばらく鳴りを潜めていた名門が、再び自動車界における話題の第一線へ返り咲くことになりそう。
Rei.Hashimotoつまり。マセラティは今、大きく変わろうとしている。そのギャップを近い将来、じっくりと味わうためにももういちど、“今以前”のマセラティをしっかり味わっておきたい。今回の京都ツアーでは、わが誕生日に生産を終えたグランツーリズモの、それも漆黒の12台限定車(クーペは9台)をパートナーとして選んでみた。
それにしてもライフが異例に長かったとはいえ、グランツーリズモというモデルの変遷を正確に思い出すことは専門家の私であっても容易ではない。初期にはトランスアクスルのシングルクラッチモデルもあったし、トリムレベルの呼び名も様々あった。ネーミングの方法が一貫しないのはイタリアンブランドの常で、何もマセラティに限った話ではない。アルファロメオなどでもよくある。フェラーリのように定期的にカタチが変わる場合はそれが記号となってまだしも記憶し易いけれども、マセラティのように同じカタチをこうも長い間使い続けてしまうと混乱するもやむなし。名付けるほうだって首尾一貫とはいかなくなるはず。
漆黒の限定車は一見地味なつや消しブラック、なのだけれども、ボンネットが艶アリブラックのカーボンファイバー仕立てだったから、妙にハズしている。エレガントでエゴイスティックなビッグクーペの代表格だからこそ、一般的にはチグハグ(やんちゃなだけ)に思われるコーディネーションを、こうも上手に着こなせた、というわけだろう。
逆に12年間のモデルライフにおいて首尾一貫していたのが、今となっては貴重な正統派のロングノーズ&ショートデッキのビッグクーペフォルムと大排気量自然吸気のV8エンジンだった。そして、これら2つの特徴こそがグラントゥーリズモの12年に唯一無比のレゾンデートルを与えてきたのだと思う。今回はそれを確かめる旅でもあった。
Rei.HashimotoマセラティのF136こそ一度は体験すべき名エンジン
グラントゥーリズモのカタチは、よく知られているようにピニンファリーナによるものだ。フル4シーターと言っていいビッグクーペを、流麗さにかけては右に出るモデルがないほど見応えのあるフォルムに仕立て上げた。今でも見る者にぐっと迫る力強さを秘めている。古いようで、古くない。そもそも古かったのかも知れない。そういう見せ方の妙は、さすがというほかない。
インテリアの見映えもまたクラシックだ。残念ながらいささか中途ハンパな古さに見えてしまうのだが、それはモニターのサイズや電子機器のスイッチなどがここ数年で一気に進化(必ずしも歓迎すべき格好良さではないにせよ)したからにほかならない。
変わらぬもうひとつの魅力、絶版となった今だからいっそう惜しいのが、4.7リッターという大排気量の自然吸気(NA)V8エンジンだ。フロントミドに押し込まれたこのエンジンは、フェラーリとの共同開発が生んだ逸品で、かつてはフェラーリカリフォルニアやF430、アルファロメオ8Cコンペティツィオーネにも同型式(F136)のV8エンジンが積まれていた(ただし、まったく同じエンジンというわけではない。なかでもフェラーリ用はフラットプレーン式だった)。
Rei.HashimotoF136のV8は、2001年からマセラティの主力エンジンとして使われてきた。最初は先代にあたるクーペ&スパイダー用の4.2リッターV8だった。今回のパートナーにはその最終型にしてマセラティ用としては最強スペックとなる最高出力460ps&最大トルク520NmのF136YSユニットが積まれている。
結論からいうとこのエンジンは、マセラティに積まれたこのF136こそは、名機である。クルマ運転好きならば一度は体験しておくべきエンジンというべきで、今からでも遅くない、未経験の方は日本中のマセラティディーラーに問い合わせてGTの残り福がないか聞いてまわった方がいい。予算的にしんどいという人は、ボクと一緒に先代のマセラティスパイダーの良質な中古車を探そうじゃないか。今ならまだ安い。早い者勝ちだと思う。
Rei.Hashimoto乗り手を虜にする“クラシックなドライビングプレジャー”
それはさておき、このエンジンの何がそこまで良かったか。最強スペックとはいえ、高級スポーツカーの最新スタンダードとしては平凡な数値だ。ここ一発の加速フィールだけで言えば、2リットル直4ターボのメルセデスAMG A45のほうがすさまじい。けれども、マセラティのV8にはスペック=数字だけではとうてい言い表すことのできない魅力、というか魔力があった。
盛大なサウンドとともに目覚めると、アイドリングで刻むリズムがすでに現代レベルから言うと荒々しい。明らかにコンピューター制御の遅い感じが伝わってくる。ミッションを1速に入れて走り出しても、最新モデルのキメの細かさに慣れた身にはすべてが雑に感じる。加速だって現代レベルからすれば鈍い。変速もそう。キレが悪い。
だからか、いろんなことがあちこちで起きている気がしてしまう。機能が一斉に目覚めるのではなく、てんでばらばらに起き始める、とでもいうか。起き上がってフトンを畳み始めているパンクチュアルなヤツもいれば、起き上がったはいいけれど背伸びしてあくびするヤツ、未だふとんを被ったままのヤツに再びもぐり込んだヤツ……。そんななかでせっかく乗り込んだドライバーもしばらくは放っておかれてしまう感じ、なのだ。
Rei.Hashimotoそんなこんなの全てを“古くさい”と切って捨てることも可能だ。実際、そう思う人だって少なくないだろう。
けれども、それは実に勿体ない話なのだ。しばらく経てば、そう、東名高速にのって海老名サービスエリアを過ぎて右ルートを駆ける頃には、乗り手も含めた全ての機能が一緒になって躍り始める。ダンスパーティの始まりだ。
そう感じとれたならばもう、このクルマの“虜”である。
クルマに生け捕りされた捕虜=ドライバーにとって、このV8エンジンはさながら耳元に息を吹きかける絶世の美女と化す。もっと回せと耳元で呟くのだ。いちおう周りを警戒しながらも徐々に回転を上げていけば、まずは右アシと右手がトランスミッションを介してエンジンと繋がり、そのうち腰からの下半身がパワートレーンと一体となる。そのプロセスがすこぶる心地いい。五感を刺激するとは正にこのことで、流れる景色にエンジンの音やボディの振動、ステアリングホイールの手触り、そして独特の室内香と口に広がるスリルの苦みが、さらに踏み込めと催促する。もっともっとと声をあげる。新東名の120km/h区間ですでにその恍惚は始まったが、アウトストラーダの最高速度がたいてい130km/hだったことを思い出し、ちょっと納得した。
このエンジンのスウィートスポットは実は幅広い。130km/hくらいから、200km/hを超えるあたりまで、悪女の囁きが続く。延々と落ち着きはらうドイツ勢とは好対照である。
乗り手を狂わせるのはパワートレーンだけじゃなかった。このビッグクーペはお世辞にも上等なナカミ=ボディ&シャシーをもっているとはいえない。けれどもひとたび乗り手をその内に“とりこ(虜)んで”しまえば、最新の計算しつくされた強化ボディ&シャシーでは最早感じることさえできない乗り味を経験させてくれる。
Rei.Hashimoto街乗りの低速域ではどこか頼りないと思ったボディ&シャシーだったけれども、ワインディングロードでは意外と懐深く、しなやかに動いた。ドライバーも含めてクルマの骨格&構造になったかのようで、全身で運動するのだ。それがまた面白い。クラシックなドライビングプレジャーでもある。
音や振動を楽しむ時代は、この先、残念ながらもうやってこない。いずれも非効率の証であり、エネルギーロスの象徴だからだ。けれども音と振動を積極的に楽しんで、そのなかにリズムやサウンドを見出すことがドライビングプレジャーの大きな要素でもあった。
最新でありながら、ある意味最後の楽しみを備えたモデル。それがグラントゥーリズモ・スポーツというクルマだった。
次世代のマセラティは今度こそ、最新の始まりを演じてみせることだろう。ギャップは驚きである。驚きが笑顔を生む。期待大である。
文・西川 淳 写真・橋本玲 編集・iconic
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みんなのコメント
乗った事ない奴等は『音がイイ』って言うが高音でむせび泣くような音なんてしないよ?絶対的な速さじゃギブリにさえ敵わないし
確かに格好は良いが基本設計とか古過ぎるんだよね…ATなんて6速だもんね
どうかなあ
オルシ兄弟の頃やシトロエンの頃やアレッサンドロの頃で全然変わるよねえ
アレッサンドロのツインターボとラサールの時計がイメージだけどなあ・・・
ルカが絶対ラサールダメってたコーンズの時のエボ乗ってたけどターボがよかったよ
コーンズでメンテ出来なくなったから乗り換えたけど・・・