脱・腕力時代の転換点
船の推進力の進化は、人類の移動や交易の発展と密接に関係してきた。初期は人力による手漕ぎや帆による風力が中心だったが、産業革命を契機に蒸気機関が登場し、機械による推進が可能となる。
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19世紀半ばにはスクリュープロペラが実用化され、現在ではディーゼルエンジンや電動推進へと進化を遂げている。推進技術は効率性、安全性、環境性能の向上を目的に、今もなお進化を続けている。
帆とオールの複合技術史
私たちが日常的に目にするフェリーや貨物船などの大型船舶は、海の上をなめらかに進んでいる。その光景はごく自然に見えるが、背後には「推進力」という物理的な力が働いている。
推進力とは、船体を水中で前に進めるための力のことだ。何らかの手段で水を後方に押し出すことで、前進する力が生まれる。古代の人々はこの力を人の腕力に頼っていたが、現代ではエンジンやプロペラといった高度な機械技術へと進化してきた。
船における最も原始的な推進手段は「手漕ぎ」だった。すなわち、櫂(オール)を使って水をかく方法だ。船そのものは太古の昔から存在していたが、紀元前3000年ごろの古代エジプト、ナイル川流域ですでに手漕ぎ船が使われていたことが知られている。紀元前2500年に存在したとされるクフ王の「太陽の船」にもオールが取り付けられており、人力が長きにわたって船の推進に使われていたことがうかがえる。
人力による推進は制御しやすい反面、持久力や搭載人数に限界がある。この課題を補ったのが「帆」の技術だ。風の力を活用することで、より長距離の航海が可能になった。
古代ギリシャやローマでは、帆と手漕ぎを組み合わせたガレー船が用いられた。これは無風や逆風の状況でも柔軟に航行できることから、古代の海戦で戦艦として活躍した。
中世ヨーロッパではヴァイキングのロングシップが登場し、東アジアでは中国のジャンク船や日本の弁才船が海上交通の主役となった。こうした帆船の発展は、商業や文化の交流を活発化させるうえで大きな役割を果たした。
蒸気機関が変えた航海常識
18世紀後半の産業革命は、船の推進力にも大きな変革をもたらした。なかでも最も画期的だったのが蒸気機関の登場である。これによって、風任せだった航海は、自力で進む航行へと転換された。
蒸気機関を搭載した蒸気船は、1807年に米国人ロバート・フルトンが開発した外輪式蒸気船「クラーモント号」が初の実用例とされる。初期の蒸気船は「外輪船」と呼ばれ、大きなパドル(外輪)を回転させることで推進力を得ていた。
米国のミシシッピ川では、この外輪船が大量に活躍し、内陸輸送に革命を起こした。一方で、外輪は波や風の影響を受けやすく、外洋航行には不向きだった。
その後、推進技術として「スクリュープロペラ」が登場する。当初は、外輪とスクリューのどちらが優れているか明確ではなかったが、1845年に両者が海上で綱引きを行うという実験が実施された。この実験でスクリュー船が勝利し、外輪船に代わって主流の地位を確立した。
以降、船の推進手段はプロペラが中心となり、より効率的で安定した航行が可能となった。プロペラの形状は、初期のリング付きから現代の洗練されたデザインへと変化してきたが、今なおプロペラ推進が主流である。性能や推力の向上を目指して、技術開発は継続的に進められている。
LNG化が進める燃料転換の加速
20世紀に入り、内燃機関が本格的に普及すると、船舶の推進力は一気に近代化した。なかでも主力となったのがディーゼルエンジンである。燃費効率が高く、長時間の連続運転にも耐えられることから、大型貨物船やタンカー、フェリーで広く採用されている。
一方、高速性が求められる軍艦や大型客船ではガスタービンエンジンも導入され、スピードと出力の両立が図られてきた。
推進力の源となる燃料も変化してきた。蒸気船時代には石炭が使われていたが、次第に石油へと移行した。近年では地球温暖化対策の観点から、「LNG(液化天然ガス)」などの代替燃料を採用する船舶が増加している。
これらの代替燃料は、重油に比べて二酸化炭素や硫黄酸化物の排出量が少ない。環境負荷を低減できる点が評価され、今後の主力燃料として注目されている。
さらに電動推進の技術も進展している。港湾内や短距離航路を走るフェリーでは、バッテリー駆動のEV船が登場しており、ノルウェーを中心に欧州ではすでに商業運航が始まっている。
2050年構想が拓く船舶動力の転機
地球環境への配慮が強く求められる現代において、船舶の推進技術も「ゼロエミッション」実現へ向けて大きく舵を切りつつある。なかでも注目されているのが、水素燃料を使った次世代推進技術だ。
水素は燃焼時にCO2を排出しないため、究極のクリーンエネルギーとして期待が高まっている。大阪・関西万博では、会場までの実証運行も進められており、実用化への動きが具体化しつつある。
また、かつて主力だった「帆」が再び注目を集めている。風力を利用する帆や、回転翼によるローターセイルを補助推進として活用する技術が登場している。これにより、燃料消費を抑えながらの航行が可能になる。
風力と現代技術の融合は、脱炭素社会に向けた新たなソリューションとなり得る。
日本郵船は2018年に「NYK Super Eco Ship 2050」を発表し、業界に先駆けてゼロエミッションの船舶構想を打ち出した。その中で、従来のプロペラではなく、複数のフラップ状のフィンをイルカの尾びれのように動かす新型推進装置の導入を検討している。
この技術が実用化されれば、近い将来、船舶の推進力はプロペラから大きく転換する可能性がある。
持続可能性を象徴する船舶技術
船舶の推進技術は、人力の手漕ぎから始まり、風力、蒸気、内燃機関、そして環境対応型燃料へと絶えず進化してきた。その背景には、
「より遠くへ、より速く、より安全に、より環境に優しく」
という人類の願いがあった。
今後の船舶は単なる輸送手段にとどまらず、持続可能な社会の象徴となることが期待されている。推進力の歴史は、技術の歩みだけでなく、人類と海との関わりの進化そのものである。(岩城寿也(海事ライター))
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みんなのコメント
ベルヌーイの定理ってのがあって速度が上がると圧力が下がってキャビテーションが出てくる。
放置するとエロージョンで金属のスクリューがボロボロになってしまう事があったり。
だからスクリューの回転数には限界があるんよね。
そんでハイスキュープロペラとか形状を工夫したり。プロペラ面にミゾを彫ったり。
難しいよね。奥が深い分野だわ。