茗荷谷駅~後楽園駅の不思議
東京の移動を支えるしくみのなかで、丸ノ内線は少し変わった存在である。地下鉄とされているが、茗荷谷駅から後楽園駅のあいだでは、なぜか地上を走っている。後楽園駅は高い場所にある駅であり、鉄道にくわしくない人でも、そのようすに違和感をおぼえることがある。
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しかし、このような光景を「東京の地下鉄はおかしい」と笑ってすませることはできない。この事実のなかには、戦後の東京で進められた道路や鉄道の整備、交通のしくみの変化、まちの復興、そしてお金の使い方に関するさまざまな判断がふくまれている。
本稿では、「なぜ丸ノ内線は地上を走るのか」という問いをもとにして、
・地下鉄の設計の考え方
・都市のつくり方に関する方針
・建設にかかるお金の問題
・行政の決めごとの進め方
といったテーマを読みといていく。丸ノ内線は単なる交通の手段ではなく、どんな考えが大切にされ、どんなことが後まわしにされたのかを知るための、ひとつの歴史の記録でもある。
財政と地形に縛られた施工判断
丸ノ内線が地上を走る理由は、当時の財政の限界や土地の高低差、そして都市の復興計画との関係の中で、政策を担当した人たちが現実的な判断を行ったからである。
1950年代の東京は、戦後の復興のまっただなかにあった。まちの基礎となる施設が不足しており、住宅地も足りず、道路も整っていなかった。また、国鉄もつねに混んでいた。
そのような状況で整備された丸ノ内線は、東京のまちのつくりや予算の制限にあわせて、限られた技術しか使うことができなかった。地上を走る区間ができたもっとも大きな理由は、「区画整理道路」とよばれる新しい道路の存在である。
例えば、茗荷谷から後楽園までの区間では、都市計画にしたがって新しくつくられる大きな道路の下の空間を使うことが決まっていた。これにより、「開削工法(かいさくこうほう)」という工事の方法が使われることになった。
開削工法とは、地面の表面を掘ってトンネルをつくるやり方である。この方法は、すでにある建物や道路への影響が少ない場所で使いやすい。また、新しくつくる道路の下でも採用される。工事の期間を短くし、費用をおさえることができる反面、深いところにトンネルをつくることが難しい。そのため、地上を通る設計になりやすいという特徴がある。
制度の隙間に生まれた高架設計
後楽園駅が地上にあるのは、土地のかたちと行政の計画が重なった結果である。『東京地下鉄道丸ノ内線建設史』(帝都高速度交通営団)によると、春日や本郷三丁目のあたりは高低差が大きく、地下にトンネルを通すには大きな穴を掘って構造物をつくる必要があった。
その一方で、当時この地域には都電(路面電車)の路線が走っていた。これをさけるには、鉄道を道路の上の空間に通す「高架構造」がもっとも効率的だと判断された。
鉄道の設計は、交通のしくみのすきまに入りこむように決まる。都市の地下には、上下水道、電線、通信ケーブル、ガス管などの設備が広がっている。それらをさけて鉄道をつくるには、制度と制度のあいだにある、まだ使われていない空間を見つける必要がある。
こうした空白の土地は、予算や都市計画の調整によって生まれる。その代表的な例が、後楽園駅の高架区間である。
もうひとつ注目すべき点は、丸ノ内線が将来つながる予定だった「第5号線」(のちの東西線)の影響である。1950年代のはじめには、後楽園駅で高田馬場方面から来る新しい路線とつなげる計画があった。駅が地上にあれば、あとから路線を分けたり合流させたりしやすい。こうした考えにもとづき、後楽園駅は高架式でつくられることになった。しかしその後、東西線のルートは変更され、当初予定されていた接続は行われなかった。
ここで見逃してはならないのは、まだ決まっていない将来の計画であっても、いったん構造物ができると、それが実際のインフラに組み込まれてしまうという点である。つまり鉄道は、計画と現実のズレをそのまま構造として残していく。丸ノ内線の地上を走る区間は、もともと考えられていた接続計画のあとを物語っている。
法制度が生んだ設計裁量
戦後の日本で鉄道を整備する際、建設費を抑えることは絶対の条件だった。丸ノ内線は国の財政支援を受けて建設されたが、予算は限られていた。東京メトロの前身である営団地下鉄は、工事費を節約するために、トンネル工法よりも安価な地上や高架の区間を積極的に導入した。その結果、後楽園から茗荷谷までの間は、比較的広い道路用地と急な谷の地形を利用して、地上を走る形が選ばれた。
建設費を減らすという判断は短い期間では正しい選択だったが、その影響は今も残っている。特に後楽園駅は、他の路線と接続するときの段差が大きく、乗り換えが不便な構造になっている。長い目で見ると、一時的な解決策が都市の構造に固定されてしまった例だ。
丸ノ内線の例は、「地下鉄とは何か」という制度上の定義があいまいであることも明らかにしている。日本の法律では、地下鉄は道路交通に影響を与えない専用の線路であれば、必ずしも地下にある必要はない。地上区間があっても、法的には地下鉄と認められる。
この制度のゆるさが建設側に一定の自由を与えたが、一方で都市の住民が持つ「地下鉄は地下を走るもの」という感覚とはずれを生んでいる。しかし、このずれも丸ノ内線の計画の歴史をたどると、制度の結果であることがはっきりする。つまり、「地上を走る地下鉄」という現象は、制度、予算、都市計画が重なり合って調整された結果にすぎない。
戦後都市政策の構造遺産
丸ノ内線の地上区間は、戦後の東京が抱えた都市政策や財政の制約、地形の限界、そして制度の前提条件のもと、設計者たちが合理的と思われる判断を下した結果の副産物である。
交通インフラは完成された思想の結果ではなく、政治や制度、財政の対立が折り合う緩衝地帯であるという事実を、この路線はわかりやすく示している。
丸ノ内線は、赤い車体を輝かせながら今日も茗荷谷から後楽園まで陽光の中を走る。その軌道は、東京という都市が選択してきた歴史の記録である。(県庁坂のぼる(フリーライター))
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