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日本車を襲う「三重苦」の衝撃――トランプ政権「USMCA離脱示唆」で米国生産どうなる? 国内空洞化の行方とは【みずほリポート解説】

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日本車を襲う「三重苦」の衝撃――トランプ政権「USMCA離脱示唆」で米国生産どうなる? 国内空洞化の行方とは【みずほリポート解説】

みずほが描く、甘くない未来予測

 みずほ銀行産業調査部が2025年11月28日、リポート「日本産業の中期見通し―向こう5年(2026-2030年)の需給動向と求められる事業戦略」を公表し、自動車業界に波紋を広げている。

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 このリポートは、不安定な国際情勢やAI・テクノロジーの急速な進化、供給制約や人手不足、カーボンニュートラルをめぐる潮流変化など、外部環境の大きな変化を分析している。さらに、足元のマクロ経済や需給動向、競争環境も踏まえ、向こう5年に日本の産業・企業が採るべき戦略を産業別に考察した内容だ。

 自動車産業の分析は4ページにわたり、業界の現状を把握するうえで有用な内容となっている。特に、2026年7月に見直しが予定される米国・カナダ・メキシコ協定(USMCA)の厳格化がもたらすリスクや課題は注目に値する。本稿では、この調査内容をもとに自動車市場の実態も踏まえて解説する。

グローバル市場―インドがけん引、日本は縮小へ

 2025年のグローバル新車販売は、米政権の関税政策や電気自動車(EV)購入への税控除廃止にともなう駆け込み需要がプラス要因となり、前年比1.3%増の8910万台となる見通しだ。ただし2026年は中国経済の減速などが下振れ要因となり、8940万台にとどまると予想される。

 今後5年間の中期見通しでは、年成長率1%が見込まれ、新興国、とくにインドが市場をけん引する。2030年には販売台数が9340万台に達し、2025年比で4.8%増となる見通しだ。

 インドでは生産投資が加速している。スズキは2030年度に年400万台体制を目指し、北部ハリヤナ州や西部グジャラート州に新工場を建設中だ。トヨタも2026年にインドで3か所目の工場を稼働させる予定で、さらに4か所目の完成車工場建設も計画している。今後は市場ニーズに合わせた商品ラインナップの拡充と生産投資の強化が進む見込みである。

 一方、2025年の国内市場は、前年の認証不正問題による供給制約の反動で前年比2.7%増の454万台となった。しかし、2026年以降は物価高や人口減少の影響で漸減する見込みだ。年成長率はマイナス0.4%となり、国内市場の縮小傾向が鮮明になっている。

 市場縮小にともない、メーカー間の競争はさらに激化する見通しだ。各社は損益分岐点となる稼働率を維持しにくくなり、人員削減や工場閉鎖など厳しい選択を迫られる可能性が高い。

輸出減少と逆輸入増加―日本の空洞化が現実に

 輸出は米政権の関税政策の影響などにより、2025年は前年比0.1%減の421万台にとどまる見通しである。2026年は前年比2%減まで落ち込み、2030年にかけての年成長率はマイナス0.6%となり、減少傾向が続く見通しだ。

 米国への生産移管も進んでいる。スバルは2025年秋からフォレスターの生産を米国インディアナ工場へ移管した。トヨタも2030年までの5年間で最大100億ドル(約1兆5000億円)の追加投資を発表している。米国への生産シフトは今後も加速するとみられ、日本からの輸出は中長期的に減少する見通しである。

 輸入は33万台前後で推移する見通しだ。そのうち、ホンダやスズキなどがインドで生産する車両の逆輸入が増加している。2025年の逆輸入台数は11万台を超え、1995(平成7)年以来の過去最高水準となる見込みだ。

 国内生産は輸出減少による空洞化が懸念される。2025年は前年の供給制約が解消されたことで前年比1.2%増の842万台となる見通しである。2026年以降は米関税の影響などが下振れ要因となり、2026年は前年比マイナス1.5%で830万台にとどまる。2030年までの年成長率もマイナス0.5%と予想され、内需の漸減にともなう生産縮小で国内空洞化が現実味を帯びる。

USMCA見直しが迫る―日本メーカーの正念場

 USMCAの定期見直しは2026年7月に予定されている。USMCAには原産地規則があり、適用される場合は関税政策の例外措置として対象から除外される。自動車と自動車部品に関連する規則では、完成車の域内付加価値率は75%、部品は65%~75%が適用される。

 さらに、賃金条項や鉄鋼・アルミの域内調達率なども規定されている。エンジン、変速機、ステアリング、基幹バッテリーなどの主要部品7種については、それぞれ単独または合算で域内調達率75%が求められる。

 2026年のUSMCA見直しでは、三つのシナリオが想定されている。USMCA域内での事業比率が高い企業には、一定の影響が懸念される。米国はUSMCAの恩恵を受けており、存続のメリットはあると考えられる。しかし、米政府による変更圧力は強く、現状維持となる可能性は低い。

 このため、米国に有利な条件で見直される可能性が高く、本調査ではこのシナリオをメインとしている。メインシナリオでは原産地規則が厳格化され、最低賃金の引き上げが想定される。米国内のサプライチェーンにも影響が波及し、メキシコ生産品が非適用となることで、米国向け輸出品の関税が上昇するリスクがある。

 残るふたつのシナリオのうち、ひとつはUSMCAが延長され、条件も変更されないケースである。この場合、米国が個別にメキシコやカナダと協定を結ぶことが想定される。もうひとつはUSMCAが延長されず、米国が途中脱退するシナリオである。メキシコやカナダの反発も予想されるが、米国は関税率引き下げや脱退などの交渉カードを活用し、USMCAの見直しを進めるとみられる。

 見直し条件によっては、米国生産シフトが相対的に優位となるケースも考えられる。日本メーカーは米国の政策動向を注視すると同時に、コスト競争力を維持するために柔軟な生産体制の見直しが求められる。

メキシコか米国か―コスト試算が示す厳しい現実

 先に示した三つのシナリオのうち、一定の厳格化が想定されるメインシナリオでは、米国への生産およびサプライチェーンの移管が強く求められる。

 米国への生産移管にともない、

・インフレによる生産コスト上昇
・米国内の技能労働者不足
・政策変更の頻発

などリスクが存在する。経営判断は慎重に行う必要があるが、工場新設に踏み切るケースは少なく、既存工場の稼働率向上が現実的な対応策となる可能性が高い。

 メキシコ生産品の大半がUSMCA非適用となるほど規則が厳格化した場合、リスクケースとなる。本調査のコスト試算では、現状のメキシコ生産コストを100%とした場合、メキシコで生産を維持すると121%まで増加するのに対し、米国移管後は116%となり、米国への生産移管が事実上強制される可能性がある。

 現在、メキシコに生産工場を持つ自動車メーカーはトヨタ、日産、ホンダ、マツダである。各社の生産能力を合算すると年150万台を超え、全ての生産をメキシコから米国へ移管するのは現実的に困難である。さらにサプライヤーでは、200社を超える企業がメキシコに生産拠点を構えており、サプライチェーン全体への影響も大きい。

トランプの離脱示唆が意味するもの

 世界的な需要動向をまとめると、2025年は増加傾向にあるが、2026年以降は伸びが鈍化する見通しだ。中期的にはインドなど新興国が市場をけん引する一方、国内市場は人口減少に伴い漸減し、国内空洞化の懸念が強まる。

 USMCAは2026年7月の見直しが転換点となる。米政府に有利な条件に変更される可能性が高く、メキシコ生産が不利となり、米国への生産移管が強く迫られる事態も想定される。この場合、メキシコに進出している自動車メーカーだけでなく、サプライチェーン全体への影響も懸念される。ただし、規則の厳格化が一定程度にとどまれば、生産効率の向上などで対応できる可能性も残されている。

 一方で、トランプ米大統領はUSMCAからの離脱を示唆している。カナダのCBC/Radio Canadaは、2025年12月5日に米ワシントンのケネディ・センターで行われた2026年FIFAワールドカップ抽選会で、トランプ大統領がカナダのカーニー首相やメキシコのシェインバウム大統領らと会談したと報じた。その場ではUSMCA見直しについて引き続き協力することで合意したが、今後はカナダとメキシコと個別交渉が進む見通しである。

 この離脱示唆の背景には、トランプ氏が一貫して掲げる「米国第一主義」という国内政治的動機と、二国間交渉を好む彼の保護主義的な通商哲学が深く関わっている。この政策姿勢がもたらす予測不可能性こそが、自動車産業の巨大な投資とサプライチェーンの構築において最も深刻な経営リスクとなり、企業は従来の効率性を追求した「最適化」から、政策急変に対応できる「レジリエンス」の高い生産体制への転換を迫られる。 引き続き、3か国間によるUSMCA協議の行方を注視する必要がある。(鶴見則行(自動車ライター))

文:Merkmal 鶴見則行(自動車ライター)

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