現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > 公道を走れレースで戦える2面性 ホルストマン・スーパースポーツ(2) 投資を超えた革新性と向上心

ここから本文です

公道を走れレースで戦える2面性 ホルストマン・スーパースポーツ(2) 投資を超えた革新性と向上心

掲載
公道を走れレースで戦える2面性 ホルストマン・スーパースポーツ(2) 投資を超えた革新性と向上心

公道を走れサーキットで戦える2面性

ホルストマンのスチームは、ブルックランズ・サーキットでの200マイルレースで悪くない結果を残した。コベントリー社製エンジンの2台は18周過ぎにリタイアするが、アンザニ社製エンジンのウォレス・ダグラス・ホークス氏は、5位で完走している。

【画像】公道を走れレースで戦える2面性 ホルストマン・スーパースポーツ 同時期の英製スポーツ 全110枚

タルボやブガッティには及ばなかったものの、平均時速は132.5km/h。ホルストマンが、1921年に英国最速の軽量モデルだと量産車で主張しても、過言ではなかった。

量産仕様のスーパースポーツは、1922年に発売。11.9psのアンザニ社製1498ccユニットか、10.5psのコベントリー社製1341ccユニット、2種類から選択することができた。

販売価格は500ポンド。ボンネット付きの2シーターボディは、ポリッシュされたアルミニウム製で、取外し可能なサイドのランニングボードが標準だった。フロントガラスは角度調整が可能で、一式のライトとスペアタイヤも装備された。

含まれていなかったのは、キックスターター・ペダル。保証も付帯しなかったが、公道を走れサーキットで戦えるという、2面性は備わった。

ところが、ホルストマンの経営は苦しかった。資金不足で1923年のレースには出場できず、1924年に4台がブルックランズ・サーキットでの200マイルレースへ出場するものの、トラブル続きで完走は1台のみ。平均時速は131.3km/hで、結果は12位だった。

繊細でか弱く見える流線型のスーパースポーツ

唯一と思われる今回の残存車両は、1921年8月に、200マイルレースの直前にナンバー登録されている。その後、グレートブリテン島南東部のサフォーク州に住むハリーズという人物が、1925年2月12日に購入した記録が残っている。

ハリーズは3年間所有し、ジョン・ヒル氏へ売却。1964年まで所有した後、ジェフリー・プレイスター氏が2017年に亡くなるまで維持した。以降は英国のプレイスター慈善財団に譲渡され、今もオーナーという立場にある。

数年前に、自動車博物館のグレート・ブリティッシュカー・ジャーニーが、展示を財団へ打診。走行可能な状態へ整え維持するという条件で、貸出が決定したという。コベントリー社製エンジンは、長年フラッシングされておらず、固着した状態にあった。

しかし、グレート・ブリティッシュカー・ジャーニーのマーク・ローレンス氏とルーク・ヘンショー氏の努力で復調。今では1921年と変わらない、快調さを披露する。

筆者がスーパースポーツを目の当たりにするのは、これが初めて。とても繊細で、か弱く見える。車重は僅か610kgだという。ポリッシュされたボディは、リアアクスルより600mmほど後方へ伸びている。リアデフに、唯一ホルストマンという刻印がある。

フロントへ回ると、傾斜が付けられフィンが切られたラジエターカウルが、流線型のボディと好対照。ディスクホイールには、細いダンロップ・コードタイヤが巻かれている。ブレーキは、リアのドラムだけ。フロント側には備わらない。

マフラーパイプから放たれる鋭い排気音

ソレックス・キャブレターが載った、コベントリー・シンプレックス 4気筒エンジンは、シャシーの前方へマウント。反対側に、先端へギアの付いたステアリングコラムが伸び、ダイレクトな回頭性を生み出している。

ステアリングホイールは、簡素な4スポーク。木製のダッシュボードには、速度と回転数、時計、油圧、電流のメーターが並ぶ。シフトとハンドブレーキのレバーは、ボディの外側。キャビンはタイトで、ちょうど腕を降ろした先にグリップがある。

ペダルは中央がアクセル。レザー張りのバケットシートへ腰を下ろすと、右足の先へ自然に位置する。

同席していただいたスタッフは、まだエンジンの調整が充分ではないと話す。しかしクランキングさせると、即座に始動。横に伸びるマフラーパイプから、鋭い排気音が放たれ始めた。

レバーを前側へ倒し、1速へ入れる。コーンクラッチは滑らかに繋がり、充分に回転数を高めて、レバーを斜め手前へ引き2速へシフトアップ。続いて、前方へもう1度レバーを倒し、3速を選ぶ。

タコメーターは、今のところ回らない。トルクは細く、ホークスが130km/h以上の平均速度を残せた理由は、ハイレシオで高回転域を常用したからに他ならない。現在は80km/h以下へ制限されているが、往年の動力性能は充分に想像できる。

投資額を遥かに超えた革新性と向上心

ステアリングホイールは、速度を問わず軽く回せる。テストコースのバンクカーブへ侵入すると、切り始めの精度の高さに唸る。車重が軽いから、オーバーステアにならないよう、丁寧な操作が欠かせない。

ブレーキペダルを踏んでみるが、当時でも頼れるものではなかったはず。ハンドブレーキ・レバーを引いて、制動力を増す必要がある。常に全開状態のブルックランズ・サーキットでは、これで問題なかったのかもしれない。

100年前に成長を目指した多くの自動車メーカーと同じく、ホルストマンの革新性や向上心は、集められる投資額を遥かに超えていた。最先端の技術を追求しようという意志にも関わらず、1924年には再び破産管財人が介入することになる。

英国では先駆けて、油圧式四輪ディスクブレーキの量産を叶えるものの、1929年に倒産。約1400台をラインオフし、ブランドには終止符が打たれた。

幸運にも唯一生き残ったスーパースポーツは、財力のあるグレート・ブリティッシュカー・ジャーニーによって救われた。優れた性能は蘇り、新たなファンも生まれているという。1世紀を経て、忘れられた伝説の1つへ光が当てられるようになった。

協力:プレイスター慈善財団、グレート・ブリティッシュカー・ジャーニー、トヨタ・マニュファクチャリングUK社

ホルストマン・スーパースポーツ(1921~1925年/英国仕様)のスペック

英国価格:500ポンド(新車時/量産仕様)/5万ポンド(約975万円/現在)以下
生産数:約20台
全長:4368mm
全幅:1676mm
全高:−mm
最高速度:112km/h(量産仕様)
0-97km/h加速:−秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:609kg
パワートレイン:直列4気筒1341cc 自然吸気サイドバルブ
使用燃料:ガソリン
最高出力:10.5ps
最大トルク:−kg-m
ギアボックス:3速マニュアル(後輪駆動)

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

首都高「怒涛の入口閉鎖」始まる 連続40日が計55か所! 料金所を「新型ETC専用」に改築
首都高「怒涛の入口閉鎖」始まる 連続40日が計55か所! 料金所を「新型ETC専用」に改築
乗りものニュース
恐怖! 一方通行のはずの「高速道路」なぜ逆走車が現れる? 逆走だけなら反則金“たった9000円”!? 反対車線を走ってしまった時にやってはいけない“NG行為”とは?
恐怖! 一方通行のはずの「高速道路」なぜ逆走車が現れる? 逆走だけなら反則金“たった9000円”!? 反対車線を走ってしまった時にやってはいけない“NG行為”とは?
くるまのニュース
5億円オーバーなるか!? 54年前の「最終進化形ミウラ」がオークション登場 スーパーカー世代にはたまらない“赤いランボ”とは
5億円オーバーなるか!? 54年前の「最終進化形ミウラ」がオークション登場 スーパーカー世代にはたまらない“赤いランボ”とは
VAGUE
「まだ能力を絞り出す余地がある」エンジンの使用回転域が低いモナコでは初日の調整が重要に【角田裕毅F1第8戦展望】
「まだ能力を絞り出す余地がある」エンジンの使用回転域が低いモナコでは初日の調整が重要に【角田裕毅F1第8戦展望】
AUTOSPORT web
ルノー「5GTターボ」が約510万円で落札!昨今のヤングタイマー価格高騰の象徴となっています
ルノー「5GTターボ」が約510万円で落札!昨今のヤングタイマー価格高騰の象徴となっています
Auto Messe Web
トヨタ新型「RAV4」に初採用の「アリーン」ってなんだ? ソフト更新で機能向上、SDV加速の鍵を握る!【新車ニュース】
トヨタ新型「RAV4」に初採用の「アリーン」ってなんだ? ソフト更新で機能向上、SDV加速の鍵を握る!【新車ニュース】
くるくら
SUBARU BRZがエンジンの点火系回路を改良して安全性を向上
SUBARU BRZがエンジンの点火系回路を改良して安全性を向上
カー・アンド・ドライバー
「カーレースで名を馳せた武闘派」日常使いできるスーパーカーに待望のパワートレーンが追加! スポーツ性・ステータス性・安全性を兼ね備えた「全部入り」
「カーレースで名を馳せた武闘派」日常使いできるスーパーカーに待望のパワートレーンが追加! スポーツ性・ステータス性・安全性を兼ね備えた「全部入り」
月刊自家用車WEB
フィアットが2つのグランデパンダを本国で発表。1台は4×4のコンセプトモデル、もう1台はハイブリッドの市販モデル
フィアットが2つのグランデパンダを本国で発表。1台は4×4のコンセプトモデル、もう1台はハイブリッドの市販モデル
Webモーターマガジン
フェラーリに一歩遅れたマクラーレン、挽回は可能? ピアストリ「噛み合ったときのペースは良い」
フェラーリに一歩遅れたマクラーレン、挽回は可能? ピアストリ「噛み合ったときのペースは良い」
motorsport.com 日本版
「遊ぶ」を次のステージへ! SHOEIがJ・O+に新たなグラフィックモデル「CROSS LOGO 2」を追加
「遊ぶ」を次のステージへ! SHOEIがJ・O+に新たなグラフィックモデル「CROSS LOGO 2」を追加
バイクのニュース
「bZ4Xツーリング」の車名で日本でも2026年春に発売予定の新SUV! トヨタ bZ4Xのワゴン版となる「bZ Woodland」を北米で発表
「bZ4Xツーリング」の車名で日本でも2026年春に発売予定の新SUV! トヨタ bZ4Xのワゴン版となる「bZ Woodland」を北米で発表
THE EV TIMES
衛星写真で「転んだ」のが丸見え!? 北朝鮮最新鋭艦 進水式で事故を起こす 金正恩総書記は大激怒
衛星写真で「転んだ」のが丸見え!? 北朝鮮最新鋭艦 進水式で事故を起こす 金正恩総書記は大激怒
乗りものニュース
「エアジョーダン3」に大胆な配色と唯一無二のディテールが魅力的な新色“Rare Air”が登場! 反転したヒール部の「Nike Air」ロゴに注目です
「エアジョーダン3」に大胆な配色と唯一無二のディテールが魅力的な新色“Rare Air”が登場! 反転したヒール部の「Nike Air」ロゴに注目です
VAGUE
BMWの新コンセプトカー「スピードトップ」、シューティングブレーク風デザインで限定生産へ
BMWの新コンセプトカー「スピードトップ」、シューティングブレーク風デザインで限定生産へ
レスポンス
モナコFP1でルクレールに“追突された”ストロールに1グリッド降格ペナルティ。チームからの警告届かず進路塞ぐ
モナコFP1でルクレールに“追突された”ストロールに1グリッド降格ペナルティ。チームからの警告届かず進路塞ぐ
motorsport.com 日本版
「旧車(Old Car)祭り IN 美和」の舞台裏とは?主催者に聞く!親子で紡ぐ物語
「旧車(Old Car)祭り IN 美和」の舞台裏とは?主催者に聞く!親子で紡ぐ物語
旧車王
ANA国際線の「ビジネスクラス」が進化を遂げていた件 ポイントは「座席」じゃない…でも体験しないのはもったいない!
ANA国際線の「ビジネスクラス」が進化を遂げていた件 ポイントは「座席」じゃない…でも体験しないのはもったいない!
乗りものニュース

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村