アドベンチャーの概念を覆すエンジンとフットワーク
【大幅な軽量化を達成しつつ、価格も抑えた良心派】4グレードから選べるトライアンフ タイガー1200に試乗!
2020年に登場したトライアンフのタイガーラリーに改めて試乗してみた。デビュー当時の本物感は色褪せず、新たに登場したタイガー1200シリーズとも異なるポテンシャルを披露。不等間隔で爆発を繰り返すトライアンフだけのミドルアドベンチャーワールドがここにある。
●文:伊丹孝裕 ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:トライアンフモーターサイクルズジャパン
モロッコで感じたアドベンチャーとしての本質
トライアンフのミドルアドベンチャー「タイガー800」が刷新され、「タイガー900」としてデビューしたのは、2020年のことだ。そのローンチはモロッコで開催され、どこまでもスロットルを開けられる砂浜の海岸線、大小様々な岩石と穴から成る山岳路、木々の間を縫うように走るトレールラン、エキサイティングな河渡り……といった、ありとあらゆるステージを堪能。ひたすら走りに徹した2日半のラリー風試乗会として、強く印象に残っている。
オフィシャルカメラマンによる撮影は必要最小限に留められ、休憩もそこそこに距離を重ねていくプログラムだった。トライアンフが主張したかったことはつまり、「単にオンもオフも走れるだけじゃない、本物のサバイバルマシンですよ」ということに他ならず、実際その通りの仕上がりだった。
―― 2020年にモロッコで開催されたワールドローンチに参加。2日半に渡って様々なステージを体感することができた。 [写真タップで拡大]
タイガー900は、4車種から選ぶことが可能
そんなタイガー900に、あらためて乗ってみた。モロッコにおける走破性に不足がなかったのだから、日本で物足りなさがあるわけもない。とはいえ、環境の違いが異なる印象を抱かせるかもしれない。
用意された車両は、「タイガー900ラリー」に、オプションのエンジンプロテクションバーを装着した仕様だ。グレードには、タイガー900GT/タイガー900GTプロ/タイガー900ラリー/タイガー900ラリープロの全4機種があり、GT系はホイールにフロント19インチ&リヤ17インチを組み合わせてオンロードを優先。ラリー系はフロントが21インチになり、オフロードが優先されている。このあたりのキャラクター分けは、タイガー1200シリーズとほぼ同様だ。
また、ラリープロを選択すると、既述のエンジンプロテクションバーの他、空気圧モニタリングシステム、クイックシフター、コネクティビティシステム、LEDフォグランプ、センタースタンド、シートヒーターなどが標準装備される。
―― トライアンフ タイガー900 ラリー プロ
―― トライアンフ タイガー900 ラリー
―― トライアンフ タイガー900 GT プロ
―― トライアンフ タイガー900 GT
圧倒的な軽さと扱いやすいエンジンがゆとりをもたらす
さて今回、新型タイガー1200GTプロと同GTエクスプローラーに試乗した後に、このタイガー900ラリーにまたがることになった。なんのひねりもない、ごく当たり前の第一印象を記しておくと、それは「軽ッ」というものだった。
以前お届けしたタイガー1200GTプロの試乗記において、見た目の巨躯を感じさせない軽やかな振る舞いについて報告している。それは、さらにひと回り大きくて重いタイガー1200GTエクスプローラーでも変わることがなかったわけだが、それぞれが245kgと255kgの車重を公称しているのに対し、タイガー900ラリーのそれは、221kgに過ぎない。エンジンプロテクションバーが追加されていることを考慮しても20kg~30kg以上軽く、その扱いやすさがさらに際立つことになった。
これが心理的なゆとりをもたらし、タイガー1200ラリープロ/ラリーエクスプローラーのために用意されていた、ぬかるんだクローズドコースに足を踏み入れてもいいかな、と思わせてくれたほど。自身のスキルとコースコンディションを量りにかけ、タイガー1200では早々に切り上げたものの、タイガー900ラリーではその気になれた違いは大きい。勢いだけで闇雲にチャレンジしてはいけないが、進むか、止めるかの判断を前にして、進む決断ができる手の内感は重要だ。
―― 試乗は終日ウエットコンディションだったが、一切不安を感じさせなかった。エンジンガードはオプションパーツ。
そういう気分を高めてくれる要因は、車重もさることながらエンジンにある。タイガー900シリーズには、トライアンフの新たなアイデンティティとも言うべき、Tプレーン・トリプル・クランクシャフトと呼ばれる90度位相のクランクを採用。通常の3気筒エンジンは、クランクが240度回転する毎に点火される等間隔爆発だが、こちらは180度→270度→270度という不等間隔で爆発を繰り返す点がユニークだ。
そのリズムによってスロットルを開けた時の路面の蹴り出しが明確になり、ライディングモードによって変化するトラクションコントロールがそれをサポート。レイン、ロード、スポーツ、オフロードと4パターンが設定されている内、不整地ではオフロードに切り換えておけば、あとはジワジワと踏みしめるように進むことも、グイグイと大胆に突き進むことも許容してくれる。コントローラブルという言葉の意味を教えてくれる秀作エンジンであり、その機構がタイガー1200シリーズにも踏襲されたのは至極当然だ。3気筒界における、ちょっとしたイノベーションである。
―― 不等間隔爆発の並列3気筒エンジンは、オンでもオフでもとてもユニークにリズムを刻む。 [写真タップで拡大]
荒地から市街地までをこなすソリッドな雰囲気
サスペンションは前後ともにSHOWAの機械調整式が採用され、ストローク量はフロント240mm、リヤ230mmとたっぷりとある。オンロードにおける振る舞いは穏やかなもので、小径ホイールを装着し、ストローク量も少ないタイガー900GTのような俊敏さはないものの、それは最初から分かっていること。反面、いざという時の走破性や、アドベンチャーらしいたたずまいは、タイガー900ラリーに分があることは間違いなく、ユーザーの嗜好と使い方に照らし合わせると、ラリー系を選ぶか、GT系を選ぶかはおのずと答えが出るはずだ。
ひとつ留意すべきは、シート高だろう。860mm/880mmの2段階から選べるとはいえ、数値上はタイガー1200GTプロ(850mm/870mm)のそれよりも高く、この点だけは誰にでもフレンドリーとは言えない。アクセサリーとしてローシートが用意されているものの、ディーラーでの確認は必要だ。
タイガー900ラリーの魅力は、そのスリムさがもたらすソリッドな雰囲気だ。荒地を悠々と越えていくポテンシャルを感じつつ、日々はタウンユースでサラリと乗りこなす。そういう関係性が築けたなら最高にクールだと思う。まだ、ドイツやオーストリアのミドルアドベンチャーほどメジャーではないからこそ、孤高の存在感がある。
―― タイガー900ラリーのスリムで軽量なパッケージは、道を選ばす様々なステージでその魅力を発揮してくれる。 [写真タップで拡大]
―― 前後輪ともにチューブレススポークタイヤを採用。タイヤはピレリ製のスコーピオンラリー。フロントブレーキはφ320mmディスクにブレンボ製のモノブロックステルマキャリパーをダブルで装備。リヤブレーキディスクはφ255mm。 [写真タップで拡大]
―― リヤサスペンションはショーワ製。リンク式のモノショックで伸び側減衰力とプリロードの調整が可能。プリロードはタンデム時や荷物積載時に簡単に調整できるよう、リモートの油圧アジャスターを装備する。 [写真タップで拡大]
―― フロントフォークはショーワ製。伸び側&圧縮側減衰力は、ともに手で調整することが可能。灯火類はすべてLEDで、グリップヒーターやクルーズコントロールなども装備する。 [写真タップで拡大]
―― 燃料タンク容量は20リットル。十分な航続距離を確保してくれる。 [写真タップで拡大]
―― 1200よりもコンパクトなエンジンを搭載する900はシート幅もスリム。タイガー900シリーズは全機種シートの高さを2種類から選ぶことが可能。シート高の数値よりも足着き性は良好なので、数値で諦める前に跨ってみるのがオススメ。 [写真タップで拡大]
―― メーターは7インチフルカラーのTFT。ライディングモードは「ロード」「レイン」「スポーツ」「オフロード」の4種類を用意。スロットルレスポンス、ABS、トラクションコントロールの介入度を変化させることができる。サイレンサーは車体に沿うように配置。不等間隔爆発の3気筒サウンドが心地よい。 [写真タップで拡大]
―― ラジエターは左右に振り分け冷却性能を強化。ライダーへの熱の伝わりを軽減するとともにクーラント量も低減している。エンジンガードは純正アクセサリー。走行するシチュエーションに応じて様々なアクセサリーが用意されているのも嬉しい。 [写真タップで拡大]
―― 【’22 TRIUMPH TIGER 900 RALLY】主要諸元 ■全幅935 全高1452-1502 軸距1551 シート高860-880(各mm) 車重221kg(装備) ■水冷4スト並列3気筒 888cc 内径78×行程61.9mm 圧縮比11.27:1 最高出力95.2ps/8750rpm 最大トルク8.87kg-m/7250rpm 変速機6段 燃料タンク容量20L ■キャスター24.4°/トレール145.8mm ブレーキ形式F=φ320mmWディスク+4ポッドキャリパー R=φ255mmディスク+1ポッドキャリパー タイヤサイズF=90/90-21 R=150/70R17 ●価格:170万5000円(ピュアホワイト、マットカーキグリーン)、173万5000円(サンドストーム)
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みんなのコメント
普通の長距離ツーリングで、これカッコいいって思いながら乗りましょう。